◉「そんなコト、知らねー、ニャ」

 ニャニャニャ〜♫


「先ずはリズのトコからニャ〜♪じゅぎょーさんかんニャン♫」


 そんな戯言を抜かしながら鼻唄交じり、軽やかな足取りスキップ御姫様おひいさまのブースへと向かうロイロ姉。


 頼む、頼むから問題だけは起こさないでおくれよ、駄猫神ロイロ姉

 今の状況を見れば、十中八九、私はアンタと運命共同体道連れなんだから。


 だいたいさ、おかしいんだって。


 エジプト故郷に居た時から問題だったバステト改めロイロ姉が、御館様の御かしずきなんて大役を任されているこの現状が。


 あのバステトが、だぜ?


 世の中のcapricious気まぐれを体現したかのような。

 東に美味い果実があると聞けば私に採って来いと言い、

 西で流行りの歌劇があれば此処まで来いと神託を出す。

 北で争いが起これば賭けの胴元となって荒稼ぎをし、

 南が平和だと知れば欠伸をしながら大河を枯らす。


 そんな奴だよ?

 そんな、恐ろしい奴なんだよ、あの駄猫神は。

 間違い無く神々の中で『ネト〜!早く来るニャ〜』も...。


「い、今行くピョンッ!」

「遅いニャ〜!?ピョンピョンうさぎニャんだからもっと急ぐニャ?

 〈亀ニモ負ケズ、狸ニモ負ケズ〉、ニャ?」


 何の噺だよそれ。つえーな、


「リズ〜、元気にやってるかニャ〜?」

「あッ!ロイロちゃん、いらっしゃいませです!」

「ロイロ様、いらっしゃいませ」


 あぁ、御姫様に絡み始めてしまった...。

 ていうか純真無垢だよなぁ、御姫様。

 御館様が義娘として、家族として受け入れるのも分かる気がするよ。

 リザティア様。

 このユルクという世界田舎の貴族の娘。

 御館様が御堂院の名に誓うほどに、目をかけているヒトの子。


「えぇっと、ウェネトさま?はじめまして、リザティア・ガルトラムです。アキサメお父さんのむすめです」

「あッ!こちらこそ、初めまして、ウェネトというピョン!よろしくピョン!」

「はいですッ!...ピョン?」


 ぐはぁ...!?何、この可愛い生き物。

 小ちゃな手でウサ耳作って首を傾げるとか...。


「商売はたのしーニャ?リズの大好きニャ和菓子は売れてるニャ?」

「はいですッ!わがしはじゅんちょーにうれてます!ね、アンナちゃん!」

「はい、リザティアお嬢様。売れ行きは絶好調です」


 ブースの台に並ぶ和菓子は可愛らしく盛られており、アンナが書いたのであろうPOP広告と御姫様が描いたであろう、かわいらしい絵。

 こりゃあ、私も買うわ。

 ていうか、百神共アイツ等が見たらヤベぇんじゃね?発狂してしまう奴とかゴロゴロ居るし。ある意味今日の担当が私で良かったんじゃないかな...なんちゃって。

 ...御館様の視線が八寒地獄の第一頞部陀(あぶだ)より冷たいから、早く次に行こうよ、ロイロ姉。

 なんでそんなに御館様の視線を無視出来るの?そんな特殊な陣とかあるなら私にも組んでくれない?


「それはとても、いーことニャ。

 おシゴトは楽じゃニャいけど、楽しむものニャ。

 リズは貴族ニャから、この先、こうやって自ら汗をかいてシゴトをすることはほとんど無いニャ。


 でも、忘れちゃダメニャ。


 みんな、いっしょーけんめー働いているニャ。

 おとーさんは家族がすこやかに暮らせて、少しでもゆたかなせーかつをおくれるよーに。

 おかーさんは家族がげんきに今日も1日がんばれるよーに、1つでも笑顔が多い家庭になるよーに。

 他のみんなも。


 ちゃんと、のニャ。


 ひとりひとり、ガンバッテるニャ。

 そんな人達が、貴族であるリズをのニャ。


 ちゃんと、カンシャするニャ。ありがとう、って言葉にするこニャ。

 リズのおじーちゃんのレオンは、それがちゃんと出来る、ちゃんとした貴族ニャよ。


 リズも、すこしずつでいーから、そういうトコも学んでいくと、リッパなれでぃになれるニャよ」


 .....................は?誰ですか、貴女?


 ロイロ姉の皮を被った、何処かの偉い善神様では?

 ていうか、そんな言葉を幼な子に掛けることが出来るとか...。


「はいですッ!ロイロちゃん。リズはりっぱなレディになるです!」

「ニャ。ガンバるニャ。そーゆーのはアキサメがちゃんと見てくれるはずニャから、ちゃんとそーだんするニャよ?

 わからないコトははずかしーかもしれニャいけど、もっとはずかしーのは、わからないコトをわからないままにしておくコト、ニャ。

 今はリズも、アンナもオトナになるためのベンキョー中ニャから、たくさん質問するのがいーニャ」

「はいです!」

「はい、ロイロ様!」


 ヤベぇ...なんか分かんないけど、何かがヤベぇ。



「とゆーコトで、私もガンバってるから和菓子をもらうニャ。

 もちろん3つともちょーだいニャ。

 あ、お代は後でアキサメに払ってもらうニャ。それが飼い主アキサメのギムなのニャ〜♫」

「台無しかよッ!?」

「ニャ?うっせーニャよ、ネト?」

「いや、ロイロ姉さ、今言った良い話が今のお強請りで台無しピョン?

 めっちゃ良いこと言ってたから勿体ないピョン」


 私がロイロ姉にだけ聞こえるようにそう言ったら、それこそ吃驚したかのようにその大きな瞳を見開いた。

 御館様がお褒めになった黒漆の濡れたような呂色に輝く髪がさらり、と風に吹かれると、その整った顔に恐ろしいまでの笑顔を貼り付けて言の葉を吐いた。




「そんなコト、知らねー、ニャ」



 取って付けたように、両手でにゃんこポーズをしながら。


 私は思い出す。


 八寒地獄の最悪摩訶鉢特摩(まかはどま)に、涼みがてら紅蓮華や青蓮華を見てくると言った時のあの顔によく似てるな、と。


 どこまでも気まぐれに生きる、どこまでも自分勝手な、猫。


 そんなヤツだった。御館様にまでのバステト姉は。



 ...あ、そっか。


 だから、御館様の御傅きになれたのか。




「私も、もう知らねー、ピョン」



➖・➖・➖・➖・➖・➖・➖・➖・➖・➖・➖


御一読頂きありがとうございます。


お客様との絡みまでいけなかった...。

意外と常識者のウェネトさんでした。


では、また次話でお会いできたら幸いです。

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