〈気まぐれ猫〉は気まぐれに。
ヘケトに着いて2日目。
朝食時に総支配人にガンドリックさんの工房について尋ねると、昨日の時点で人を走らせてくれていたようで。
『ガンドリック様はヘケトでも一、二を争うほどの腕前の職人です。レオン様の御依頼とはいえ、先ずはガンドリック様のアポイントを取らなくてはなりませんので。
工房の返事としまして、明後日の午後一番に予約が取れましたのでその時間は予定を空けておいて下さいませ』
早速今日と明日の2日間はフリーとなったので、屋台を出しても問題のない、通りか広場がないか確認すると、総支配人自ら案内してくれると。
「なんだか手間をお掛けしてすみません、総支配人...失礼、お名前を伺っても?」
「おや、これは失礼致しました。
私の名は、セルジュ、と申します。
アキサメ様達の事はレオン様から丁重にもてなすよう仰せつかっておりますので、お気になさらないで下さいませ」
「ありがとうございます、セルジュさん」
セルジュさん自ら手綱を握り、宿が用意してくれた馬車で通りを進む。
朝一の賑わいがひと段落したヘケトの街は、穏やかな陽射しを浴びて鮮やかに彩り。
馬車の窓から覗く鍛治工房の煙突には、今日も頑張るぞ、と言わんばかりの煙が、心地良い槌を奮う音に合わせて上がっていく。
ヘケトの街は、鍛治の街であるとともに王都から南へと伸びた街道沿いにあることもあり、交通の要所であり、立ち寄る商隊も多く活気に溢れています。
王都へ向かう他国の者や、王都から他国へと向かう者。それに付き添う護衛依頼を受けた冒険者達。
その為様々な種族の人が行き交うヘケトには、各種族の特色に合わせた品物が集まっているようです。
「ゆっくり街を歩いてみるのも良さそうですね」
そんな呟きをリズが嬉しそうに拾って返事をしてくれます。
「はいッ!リズもおさんぽとおかいものしたいです!」
「そうですね。私も色々見てみたいです」
「私もこの街の店に興味があるな」
偶にはみんなで買い物するのも良いですね。
「私もこの街には初めて来ました!賑やかで楽しそうなとこですね、リズお嬢様」
「はいです!アンナちゃん」
と、アンナがニコニコと告げる。リズのメイドとしてお嬢様呼びは譲らないものの、随分と仲良くなっているようで安心しました。
「アキサメさん、後で良いのでこの街の商業ギルドに顔を出しても良いでしょうか?知り合いがいるので挨拶しておきたいのですが」
「ええ、時間はつくりますから行ってらっしゃいな」
そう許可を出すと、フェルミナは安堵した表情に。私が商業ギルドを脱退した件に気を遣っているのでしょう。
私自身は然程気にしていないのですがね。
『アキサメ様、間も無く自由市の開かれている広場へと到着します』
そう伝えられてからすぐ、自由市と呼ばれる屋台や露店が並ぶ広場へと到着。
馬車を降りて、私はフェルミナを連れて主催している街の行政局の文官が居る所へと手続きに行く。
エリスさんの許可証の効力はしっかりと発揮され、空いているスペースを教えてもらい出店料を前払いして戻る。
みんなで所定のスペースへと移動すると、中心からは少し離れてはいるものの、広めで、近くには休憩出来るテーブル等が設置された、中々好条件の場所でした。
セルジュさんは馬車を一旦宿へと返しに行き、再度こちらに来てお手伝いを申し出てくれました。
そんな、申し訳ないですよ、と言えば、年寄りの道楽ですのでお気になさらず、と微笑み返されました。そこまで言われては断る理由も無いので、セルジュさんの人柄も踏まえて問題無いと思い、お待ちしてますね、と答えました。
「アキサメお父さん!気まぐれネコちゃんはきょうは、何をうるのですか?」
「そう言えば、今日の商品を聞いてませんでした。アキサメ店長、何を販売するのでしょうか?」
伝えて無かったのは、みんなをびっくりさせる為ですよ、なんて。
実は、今日は私達も、お客様も。お互いに楽しめれば良いな、と思っていたのです。
なので、
「今日は、全部です」
「ぜんぶ?」
「え!?ぜ、全部ですか...?」
「アキサメ父さん、本気?」
「皆さんは何をびっくりしているのでしょうか?アキサメさん、全部とはどれほどですか?」
「アキサメさんの全部って...何か恐ろしいような...」
アンナは不思議そうに、フェルミナは怖いもの見たさ?ルーチェとカメリアは、嘘!?本気で!?、といった感じ。リズはキョトンとしていますね。
「ええ。
〈KumA〉のハンドクリーム、
〈富士見堂〉の和菓子、
〈kei.Ⅹ〉のケーキ、
音滋さんのオルゴール、
良子さんのパン、
あと、新発売の商品を一つ。
全部、です」
みんな、商品の多さにびっくりしていますね。
最近、商売らしい事をほとんどしていなかったので、私自身も楽しみだったのですよ。
だから、色んな商品をみんなで楽しくお客様に提供しましょうね。
安心して下さいな。
どれもこれも、
きっと、お客様も楽しんで頂けるはずですよ。
「アキサメお父さんッ!リズはがんばりますッ!」
小鼻を大きくしながら、リズがヤル気十分だと宣言すれば、皆もやがて笑顔で、頑張ろう、と笑い出す。
「流石は〈気まぐれ猫〉だね...」
カメリアが呆れたようで、楽しそうに笑顔で呟きました。
ええ、そうですよ。
「うちの屋台は〈気まぐれ猫〉。猫のように気まぐれに、商売させて頂きます」
『呼ばれて飛び出てニャニャニャニャーーンッ!!!』
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御一読頂きありがとうございます。
さあ、〈気まぐれ猫〉営業開始です!
アキサメファミリー+セルジュで行う商いがヘケトの街にどんな影響をもたらすのか。
また、どんなお客様との出会いがあるのか。
お楽しみ頂ければ、と思います。
沢山の作品フォローの通知に日々感謝です。
では、また次話でお会いできたら幸いです。
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