◉レオン・ガルトラムの憂い。
儂はレオン・ガルトラム。
ルーク王国の端にある辺境都市ガルトを中心とした一帯を領地に持つガルトラム辺境伯家の三代目。
現在、四代目だった馬鹿息子がやらかした所為で家督を孫娘に移し、その代理で領主業務を行っておる。
愛する妻、サーシャとの穏やかな老後を計画しておったのに、あの馬鹿息子夫婦が......まぁ、過ぎた事はしょうがない。
儂にも父親としての責任が無かった訳ではないのだからな。
この一連のお家騒動に深く関わる事となった、自称商人のアキサメ・モリヤと縁を結ぶ事が出来たことは僥倖だった。
アキサメ・モリヤ。
見た目は若々しく20代と言われても信じてしまいそうになるが、息子共よりも歳上で40に近いと言うから、
...聞かされた出自はもっと驚愕だったが。
異世界人。
アキサメからすれば儂らが異世界人なんだろうが、この
皆が一度は必ず聞いたことのある、御伽話でも有名な〈勇者〉様。
彼女もまた、異世界人だったと云われておる。
まぁ、アキサメ本人が頑なに勇者ではないと否定しておるがな。
でも、
見た事も、聞いた事も無い異世界の品物を扱うアキサメは、このガルトで商売を始めた。
ワガシ、ハンドクリーム、ワショク、ケーキ、オルゴール等の商品は領民に笑顔をもたらしてくれた。もちろん、儂ら家族にも。
その商品のお蔭でサーシャの体調が良くなった。儂は、アキサメに心から感謝しておる。
それらの商品を買い付けに、異世界に行ける
勇者様しか持っていなかったとされるアイテムボックスのスキルも。
ある意味、そんなスキルらを持っていたのがアキサメで良かったやも知れんな。
勇者のようなスキルを使い、
魔王のような戦闘力を有しても尚、
商人だと言い張るあの男は、
とんでもなく人誑し、
ーーーコン、コン、コンッ。
『旦那様、商業ギルドと冒険者ギルド、イザーク・パンドラム様より緊急の報せが届きました』
「入れ」
カチャリ、と執務室の扉を開け入室してきたロドスが一礼して書状を渡してきた。
「何事だ?揃いも揃って緊急だなんて。
両ギルドの正式な印の押された書状に、また面倒事か?、と少し気分が滅入るが読まない訳にはいかない。
先ずは、比較的問題の少ない冒険者ギルドから...。
「成程な。という事は商業ギルドもその件か...」
儂は若干の頭痛を感じながら、続けて商業ギルドの書状を確認した...。
「阿呆共が...」
「旦那様、あまり良くない内容でしたか?」
儂の表情を見て、ロドスが心配そうに聞いてきた。
顔に出るとは、儂も耄碌してきたものだな。
「あぁ。良い悪いで言えば悪い話なのだろうが、事の発端は領外の街で起きた不始末だな。
ただ、居合わせたのがエリス達だったから事が大々的に明るみになった、その罰でその街の商業ギルドは閉鎖になるだろう。
ただ...」
「ただ?」
何と言えば良いのか。
ガルトとしてはどうでも良い話だが、その中心にな。
「事の発端に、アキサメが絡んでいるらしい。
馬鹿な商業ギルドのトップ共がアキサメに喧嘩を売ったらしくてな。
それで、アキサメはギルドから退会したとの事だ。おそらくイザークの話もその件だろう。
以前から進めていたエリスの提案の件が一気に形になるな...ロドス、各ギルドのトップと文官達を集めて会議だ。日程は...そうだな、早い方が良いだろうから3日以内で全員揃う日に調整しろ」
「ハッ。直ぐに取り掛かります」
そう返事をしたロドスは速やかに退室して行った。
イザークの書状も読んでみたが、概ね同じ内容であった。
「そう言えば、イザークはアキサメを早い内から気にしていたな」
その他の決裁書類に目を通していると再び扉をノックする音で、意識が切れる。
『あなた、少し休憩にしませんか?実家から良い茶葉が届いたの。ご一緒にどう?』
「サーシャ。入ってくれ」
入室してきた愛する妻を、机の前にあるソファに誘う。
一緒に来たメイド長のミルザが手早くティーセットを並べ始めた。
「ありがとう、サーシャ。ちょうど喉が渇き始めていたのだ」
「あら、良かった。さきほど冒険者ギルドの副マスターがいらしてね、実家からの配達依頼の報告と荷物を届けてくれたの」
何?どういうことだ?
「態々、副マスターがか?ギルド職員ではなくて?」
「ええ。あなたに言伝があったらしいから、代わりに聞いたのよ。なんだか急いでいるみたいだったから」
嫌な予感が...
「伝えるわね。
『王都近郊の街にて
ですって。
どう思う、あなた?」
「...........十中八九、アキサメだろうよ。
そんな偉業を成し遂げる者を儂はアイツ以外に知らん」
「私もそう思うわ。きっとアキサメさんが解決してくれたと思うの。
誰にも気付かれないようにしたのは、理由があると思うんだけど...話には続きがあったわ」
何か、あったのか?
「何があった?大事か?」
「分からないわ。
言われたのは、エリスとアキサメさんは別々に街を出たみたい。ただそれだけよ」
そんな事の後なのに、別れて旅立ったとは...。
もしや、エリス...。
「そうかもしれないし、違うかもしれない。
私達に出来る事は、可愛い孫娘達の旅の安全を祈るだけよ。
大丈夫。アキサメさんが側にいるなら、何があっても無事に帰ってくるわ。
エリスも、ね」
儂の不安な顔を見たからか、サーシャが優しい言葉をかけてくれる。
ちょうど、ミルザが紅茶を淹れて渡してくれたので、サーシャに向かって微笑んでから一口頂く。
「そうだな。アキサメがいるなら大丈夫だろう。
エリスの事も悪いようにはせんだろうしな」
「ええ」
幾つか悩ましい事を知ったが、比較的スムーズに午後の政務は終わった。
「儂が心配しておるのは、アキサメ本人の事なんだがな...。
あまり無理をするなよ、
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御一読頂きありがとうございます。
レオンさんの今、でした。
少しタイムラグがありますが、フェルミナ達と出会った街の事は、各ギルドではその内容の為に話し合いが少し長引き、書状となってレオンさんまで届くのに時間がかかった、という事です。その間にポルクくんの街に着いたアキサメ。
アキサメ達が街を出たその日のガルトでの午後、という感じです。
レオンさんは、やっぱりレオンさんでした。数少ない〈友〉なのです。
次回はアキサメ視点に戻ります。
では、また次話でお会いできたら幸いです。
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