鍛治の街〈ヘケト〉に到着!〜そろそろ商人らしいことしないとね〜

「アレが〈ヘケト〉でしょうか?」


 魔物大行進モンスターパレードの終息後、リズ達と宿で合流し、チェックアウトして街を出た私達は、宿の支配人から聞いた道のりを進み、昼過ぎにはガンドリックさんの住む街〈ヘケト〉の入場門が見えるところまで辿り着きました。

 馬車に合わせて速度調整する必要の無い旅路は順調そのもので、途中、何台もの馬車を追い抜きながらここまで来ました。


 あんな事があったにも関わらず、リズ達は暗い雰囲気を出す事はありませんでした。

 特にリズは、


『アキサメお父さん、ありがとうです!』


 そう言って、ニコリ、と笑っていました。

 エリスさんとの事はちゃんと説明しましたが、皆、また会える日を楽しみにします、と優しく微笑んでいました。

 私は、とても恵まれているのですね。


「アキサメ父さん、どうする?このままマカロンで進むのかい?」


 カメリアが伺うように話してきます。


「このままで良いでしょう。

 道中、沢山の馬車とすれ違いましたし、今更でしょうからね」


 遅かれ早かれ騒がれてしまうでしょうから、気にしないことにします。

 他国の〈最新式魔導車〉、ということで押し通す予定ですし、何かしらのチャチャが入ろうものなら、レオンさんから渡された書類でも見せて、それでも駄目なら...その時は、その時です。


「次の馬...車?...こちらにて検問をお願いします」

「はい」


 運転席の窓を開けて返答し、少し進めて停車する。

 パワーウィンドウで後部座席の一部を少しだけ開けて、カメリアからリズの貴族証の短剣とブローチを提示させる。

 それを見た検問兵は僅かに緊張した面持ちとなり、定例文の質問をカメリアにする。


「〈ヘケト〉での目的を教えて頂きますでしょうか?」

「ガルト辺境伯代理、レオン・ガルトラム様の命により、鍛治師のガンドリックに会いに来た。詳しくはこの街の代官に通達が入っていると思う」

「ハッ!伺っております。リザティア・ガルトラム様、ルーチェ・ガルトラム様、アキサメ・モリヤ殿、カメリア殿、ご同乗の方々。

 どうぞごゆっくりとお過ごし下さい」


 敬礼で私達を見送る兵士に軽く手を挙げて、先に進む。

 そのまま、大通りをゆっくりと進み、レオンさんの手紙に記載されていたガルトラム家御用達の宿へと向かいます。


「活気のある、良い街ですね」


 ルーチェがヘケトをそう評価すると、リズも堪らず窓から街並みを覗く。


「うわぁ!えんとつがいっぱい!けむりがもくもくしててかわいいです!」

「〈鍛治の街ヘケト〉、と呼ばれるだけはありますね」


 ルーク王国でも指折りの鍛治の街ヘケトは、人族大陸ユーミヤでも珍しい多種族が住むことでも有名なんだと、フェルミナが教えてくれました。


 その中でも妖精族のドワーフ達が良質な鉱石が採掘される〈ヘカント鉱山〉にほど近いこのヘケトで鍛治屋を営むようになった。そして、ドワーフ達が作る良質な品が有名となり、〈鍛治の街ヘケト〉と呼ばれるようになったとのこと。


「私も新しい防具作って貰おうかな?」


 カメリアは少し前まで、リズの護衛として、武器を戦斧から嵩張らない剣類に変更しようと悩んでいました。

 その時は、本来の実力を発揮出来る、慣れ親しんだ武器を持つべき、と私とレオンさんに言われそのまま戦斧を使っています。

 ただ、防具に関しては冒険者が好むスタイルの物なので、見てくれも気にしての発言かも知れません。

 確かに、アタッカー寄りの冒険者と護衛では立ち回りもかなり違うので、この際しっかりとした金属製の防具を揃えても良いかも。


「そうですね。レオンさんのように拘った装備を誂えるのも良いかも知れません。

 リズの護衛と判別し易いように、ね」

「やっぱりアキサメ父さんもそう思う?私もそういう物を持った方が良いと思ってたんだ」

「カメリアお姉様ならまっかなヨロイとかステキです!」

「カメリア姉さんの綺麗な御髪に合いそうだね、リズちゃん」

「そ、そうかな?ありがとぅ...」

「カメリアさんなら色々と似合いそうですね」

「そうだね、カメリアちゃん美人さんだから」


 相変わらずカメリアは褒められる事に慣れてなくて、可愛らしい反応を見せてくれますね〜。


「では、何か考えてみましょうか。

 お揃いの色、これはガルトラム家の〈翠揃え〉のように団体となるとより際立ちますね。

 他には...お揃いのマーク、紋章、でしょうか。

 これは、ガルトラム家の家紋とは別に同じものを装備品や衣服の一部に付ける事で、そのマークを見れば仲間だと判別出来ますね」

「そうですね...リズちゃんは将来ガルトラム家の当主になるので、〈翠揃え〉の騎士団も受け継ぎますよね?だったら、私達だけの紋章、マークを考えてみたいなって思います」

「私も同じ意見かな。私がリズの護衛と判るように、というよりも、この家族で絆となるようなものがあると良いなって思う...ちょっと上手く言えないけど」

「大商会とかでは、その商会のマークの入った制服を着るところもあると、聞いた事があります」

「良いですね、同じマークとか紋章があると」


 みんな肯定的ですね。


「リズは、アキサメお父さんのマークをつけたいです!〈きまぐれネコ〉ちゃんのマークも好きです!」

「あ!そうだね、私も〈気まぐれ猫〉のマーク好きです!」

「なんか、見てて落ち着く感じがして良いよな、あのマーク」


 あら。意外と大好評なんですね、〈気まぐれ猫〉のマーク。

 一応、モデルとなったロイロが居るので、宿に着いてから参考までに聞いておきましょうか。


「では、後でロイロ達にも聞いてからにしましょうか。後は、そのマークをどうやって付けるか、ですね...。

 それも宿に着いてからゆっくり考えるとしましょう」


 そんな話をしながらゆっくりとマカロンを進ませると、レオンさんの手紙にあったガルトラム家御用達の宿が見えて来ました。

 情報通り、趣きのある赤煉瓦造りの宿。

 通りに面した入り口には、この世界では珍しく、制服を着たドアマンの男が立っています。

 石畳と赤煉瓦造りの建物とドアマンと。

 何処か、地球あっちの古い映画のワンシーンを切り取ったかのような光景に、少しだけ感動を覚えます。



 目的地ヘケトに着いたことですし、久しぶりにゆっくりと屋台で商売でもしましょうかね?

 ガンドリックさんへの依頼の都合によっては時間がかかるかも知れませんし。


 何よりも、私、最近商人らしいことしてませんから。


 異世界商人アウトサイダーらしい、こと。



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御一読頂きありがとうございます。


鍛治の街ヘケトに到着しました。


エリスさんと別れ、アキサメファミリーのみでの旅路は、秋雨の金色免許ゴールドカードの効果もあり?スピードUPしました。


最近出番の少なかったフェルミナとアンナ。

この街では〈気まぐれ猫〉デビューしてもらう予定です。


ガンドリックはドワーフらしいキャラとなると思いますが...様式美でしょうか?

一応個性的ではあると思われます、多分。


ヘケトでのアキサメファミリーのお話もお楽しみ頂ければと思います。


では、また次話でお会いできたら幸いです。

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