嘘つきルミィとポルクの涙。〈⚠︎長文ごめんなさい〉

 街を襲った脅威は綺麗さっぱりと消えた、などと暢気に喜ぶ馬鹿は何処にも居なかった。


 街の建物の3割近くは魔物や火事で破壊され、死傷者の数は最早数える事すら困難な状況となっているし、現在進行形で増え続けている。

 教会の聖職者が回復魔法を唱え、薬師達が休むこと無くポーションを作る。

 冒険者ギルドは緊急招集をかけた冒険者達に、破壊された街の境界線を護らせるべく強制依頼を発動した。

 商業ギルドは物資を掻き集めると直ぐに、被害者支援に乗り出しているようだった。


 そんな中、遅れて到着したルーク王国の騎士団は、街の中に入ることを許されなかったようで、街を囲むように張り巡らされた結界の前で、意味が分からずに立ち往生していた。



 カツッ、カツッ、と荒れた石畳を革靴で鳴らしながら、リズ達の居る宿へと歩いていく。

 百神達は、まだ街の周りを囲んだ状態でいるはず...ただ、一般人には視えないと思いますが。

 そんな中、何故だとは聞かなかったが、私の傍らには、ロイロ、ソラ、そして九尾が居る。

 私が〈チカラ〉を使った影響か、ロイロ達も普通に顕現して隣を歩いている。


「御館様!これは〈でえと〉というものではありませんか!?」


 こんなムードもへったくれも無い逢引もどうかと思うけどな。


「ニャニャ〜?九尾キューちゃんはお花畑の住人かニャ?どー考えてもデートじゃないニャ」

「そうですね。もうちょっと楽しそうな雰囲気でしたいですね、デート♡」


 ソラも言うようになったなぁ。九尾はお前の先輩だろうに。


「うるさくてよ、貴女達。これは私と御館様の話でありんす。関係ないのは黙ってなさい。

 あと、〈キューちゃん〉って呼ぶな駄猫」

「私は御館様から〈真名〉を頂いたニャ。駄猫じゃなくて、ロ・イ・ロ、ニャ〜」

「私は、ソラ、です」

「きぃーーッ!!御館様!私にも〈真名〉を下さいましッ!」


 姦しい。

 周りを見てみなさいな。

 恐ろしいくらいに場違いな雰囲気を出してるでしょう?



 宿まで後少し、といった所で、エリスさんとカインが立っていました。

 後でゆっくりと話し合うのが良いでしょうから、今回の件の終わり方をしっかりと見ていて貰いましょうか。


 何を思い、どう行動するのかは、御自身で決めるでしょう。


魔物駆除ゴミ掃除は終わりましたよ、エリスさん」


 ビクッと、身体を強張らせるエリスさん。

 後ろのカインも似たような反応。


 まぁ、しょうがない、ということですかね。


「やはり貴様は...!」

「九尾、黙ってなさい」

「でもッ!御館様の『九尾?』...申し訳ありません...」

「あ、あの...」


 そう、エリスさんが言葉を発そうとした時、ロイロが言葉を遮って話す。


「今のエリスには無理ニャ。

 御館様...アキサメのこと、結局は上っ面だけしか見ていなかったって事ニャ。

 アキサメの持つ〈不思議なチカラ〉が、自分にとって魅力的で都合が良くて。

 でも、いざ、そのチカラが許容範囲を超えた途端に距離を取るような、恐ろしい、と思ってしまうようニャらば」


 ロイロは、哀しそうな表情を一瞬見せてから、はっきりと伝えました。


「此処でバイバイ、ニャ」


 さよならを。


 それを聞いたエリスさんは、何も答える事が出来ず。

 ただ、その頬には一筋の涙が流れて。


「私の名は、御堂院 秋雨。

 この様なチカラを持つが故に世界から畏れられし、半神半端者

 人が人足る所以とは如何なるものなのか。

 私は、ソレを探す為に〈護屋〉を名乗っています。


 エリスさん。


 此処で、お別れです。


 もし、再び出会う事があるのでしたら、」


 エリスさんのその紅い瞳をきちんと見て、私は続ける。


「また、美味しい和菓子でお茶でもしましょう」


 瞳を見開いたエリスさんは、涙を手で拭って、不器用に笑うと涙声で言った。


「うんッ!ちゃんと、ちゃんと私の好きなアレも用意してね?私、わたし、ちゃんと、ちゃん...と、アギザメのごど、ぢゃんど...」

「ええ。お待ちしてますね、



 泣きじゃくるエリスさんとカインは、この後の事を私に一任して、このまま王都へと走り出すとのこと。

 今回の件を国として問題解決に、例えこの身分と引き換えにしてでも取り組むと約束します、と。

 無理はしないで欲しいものですが。

 本人としても思うところがあったのでしょう。


「さぁ、とっとと終わらせて、この街から出ましょうか」

「賛成ニャ。この街はてかなわないニャ〜」

「そうしましょう、様」

「ぐぬぬ...あ、秋、さ、め様...」

「九尾、無理にそう呼ばなくても良いだろ?」

「御館様ッ!?私だって!」


 フンスッ!と顔を近づけてくる九尾。

 黙っていれば和服美女なのですが、どこか残念な感じが。艶やかな尻尾もさっきからブンブン振られていて。


 はぁ。名前、考えておきますか。



 歩き出して直ぐ、


『御館様、場が整いました』


 そんな声が聞こえたと思うと、街の中心部に近い、冒険者ギルドらしき建物の前に人集りができているのが目に入る。


 その中心には、酒場で見た冒険者のパーティー。

 ただ、どう見ても扱いは罪人のソレ。

 両手を後ろで縛られており、地面に跪かされており、何かを叫んでいるよう。


 私は、ゆっくりとその場に近づいていく。


「だから俺は関係ねぇって言ってるだろッ!」

「私達は何も知らないッ!あれはポルクが勝手に言っていた世迷言でしょ!?」

「............」

「クソッ!」


 なんか喚いていますが、まぁ、こんな事態となった以上、は必要なのでしょうね。


 くだらない。


 そうとしか言いようのない、愚かな行為ですがね。



「ポルクがッ!ポルクが言った通りじゃねぇか!お前たちがちゃんと話を聞いていれば、街がこんな事にはならなかったかも知れないんだぞッ!」

「そうだッ!どうしてくれるんだ!俺の家族を、友人を返せッ!」

「貴様等の所為だろッ!」


 言いたい放題。本当に、人間の醜い部分ですね。

 長引かせても仕方ないので、終わらせますか。


「違うでしょう?」


 ざわり、と罵詈雑言が止むと私達に視線が集まる。


「違うでしょう?

 ポルク君の話を聞かなかったのは、そこの阿呆達だけでは無くて、貴方達、この街の住人全て、でしょう?」

「な、なんだよアンタ!余所者が何を!」

「黙れ、下郎。

 魔物ゴミを葬ったのは御館様だ。貴様等はただ指を咥えて見ていただけだろう」

「え...?」

「あ、アンタはあの時のお客さん...?」


 あぁ、酒場の店主親子もいますね。


「どうでもいいんですよ、誰が言ったとか言ってないとか。

 ポルク君は、魔物大行進モンスターパレードを前世で経験しており、この街にも、その兆候があると気付いた。

 だから、必死になってに呼びかけたが門前払いされた上に、〈嘘つき〉などと不名誉な渾名までつけられ、蔑まれ、時には暴力まで受けていた。

 それでも、ポルク君は諦める事無く訴え続けた。

 しかし、事は起きてしまう。

 ポルク君はいち早く門から出て対策をしようとした。

 魔物達の進行方向をずらすべく、魔物が忌避する薬でも使おうとしたのでしょう。門の少し先に行った所に落ちていましたから。

 ですが、いざ薬を使おうとした時、まさかの裏切りに遭い叶わなかった」


 ざわざわ、と周囲の視線が手枷をされた冒険者達に向けられた。


「ち、違う!そんな事してないッ!」

「その阿呆ではありませんよ?

 その裏切り者は、こよ魔物大行進モンスターパレードをこの街とぶつけたかった。

 それが、その裏切り者に与えられただったから。

 そして、その見返りに、その裏切り者は転生を約束されていた。


 鉄の塊が空を飛び、

 馬なしで走る乗り物が道を行き交い、

 離れた場所に居る人と会話が出来る道具を皆が当たり前のように持つ、


 そんな異世界に転生させてあげる、とか言われたのでしょう。

 この大災害を成功させるべく、冒険者となりダンジョンに潜り、秘密裏に魔物が溢れ出すように細工をして。


 でも、一つだけ誤算があった。

 幼馴染とも言えるポルク君に気付かれてしまった事。


 だから、は考えた。

 ポルク君を〈嘘つき〉にしてしまおうと。

 彼が言う事を誰も信じないように、彼が嘘つきだと冒険者仲間に相談したり、街中で、私はポルクの嘘で困ってる、とか言ってみたり。


 結果は大成功。

 元々他人より優れていたポルク君を妬む街の人々は、彼の立場が落とされるのをあっさり受け入れた。


 後は貴方達の知っている通り。

 そして、運命の時が来た彼女は最後までポルク君の動向に注意しており、事が起きた時もいち早くポルク君と合流して門を出て。

 ポルク君の右腕を斬り落として、何喰わぬ顔で仲間と合流して今に至る、と」


 皆の視線が、ポルク君と同じ孤児院出身の冒険者、ルミィに注がれた。


「残念だったのは、彼女を誑かしたは転生なんてさせる気は更々無かったことですかね。

 そもそも違う世界に転生させるほどのチカラを持つ神が、こんな、んですよ。

 こんな〈遊び〉をするのは大抵が、下級の、成り立ての〈神モドキ〉なんですよ。


 こんな感じの奴ですよ」


 と、指をパチンッ、と鳴らせば、思兼神に拘束された年若く見える女が現れる。


『は、放せッ!私を誰だと思ってる!私はユルクの創造し...ん...ッ!!!?』


 どうやら私や、この街を取り囲む百神達に気付いたようですね。


「女神様ッ!」


 ルミィがそう叫ぶ...それは、私の話を認めたようなものですよ?


「女神、ねぇ。

 この女、神らしい能力はありませんよ。

 まぁ、今回は沢山の生贄から魂を回収して少しは階位を上げようとしてたみたいですが。

 それか、最後の最後にいいトコ取りして信者を増やすつもりだったか。

 どちらにしても、叶いませんでしたが」


 ガタガタと震え出す自称女神。そう言えば名前も聞いてなかったですね。


「この自称女神の悪神は、私がで処理しておきますから、ご安心ください。

 ですが、自分の為にこの街を売ったルミィ悪女の処分は貴方達がして下さいな。

 まぁ、結果的にこの状況を招いたのは、その女だけの責任では無いと思いますがね。

 あぁ、あと一つ。


 貴方達はこれから先、2度とポルク君のことを語ることを禁じます。

 彼の名も、容姿も、声も、功績も。

 2度と思い出すことが無いように、貴方達の記憶を封印させて頂きますから」

「そ、そんな!?」


 そう言うのは酒場の娘さん。

 そんな大事でも無いでしょうに。


「有無なんか、聞きませんよ。

 ポルク君は、貴方達に殺されたんですよ?

 貴方達の為に尽力した彼を、貴方も、貴女も、君も、彼女も、店主も。


 揃いも揃って、嬲り殺したんですよ、


 この街の英雄を。


 だから、貴方達にそんな権利は無い。

 彼は、来世の為にこの世界に縛るモノを一つでも少なくしないといけないので。


 あぁ、最後にお別れして下さいな」


 そう言うと、思兼神がポルク君の遺体を何も無い空間から取り出す。


 下半身は魔物に喰い千切られて無く、

 右手は斬り落とされていて、

 左手には短剣が握られたまま血濡れている。

 その顔は。


 その顔に、一雫の雨がポツリと落ちた。


 まるで、泣いているかのように。





 この街の人々の記憶は、百神の中でも記憶操作を得意とした者に改竄させた。


 ポルクという人物は最初から居なかった。

 魔物大行進モンスターパレードは何者かの手によって突然終息した。


 という風に。


 自称女神にはこの世界からご退場頂きました。百神達に連れられて、未だ寄り合い中であろう大神耄碌共に丸投げするとのこと。


 百神達との交流に関しては、ロイロとソラが取りまとめて交代制(?)で私の側に来るらしい。


 最後に。


 この世界ユルクの神とやらには、釘を刺しておきました。

 異世界転移集団拉致転生万引きも。

 度が過ぎるとどうなるのか?

 取り敢えず、百神達でこの世界の神域とやらにご挨拶に向かわせておいたので、多少は大人しくしてくれるだろう。


 ポルク君の魂は、そっち系が得意な者に元の世界の輪廻に戻すように段取りさせてある。



「さぁ、リズ達を連れて家族旅行おつかいの続きをしましょう」


 そう言うと、だいぶ明るんできた東の空から一筋の光が伸びた。




 願わくば、彼の来世に幸多からんことを。



 お幸せに、英雄ポルク君。

 


「アキサメお父さーーーんッ!お帰りなさいですーーーッ!!」



「ただいま帰りました、みんな」


 

➖・➖・➖・➖・➖・➖・➖・➖・➖・➖・➖


御一読頂きありがとうございます。


これで、嘘つきポルクのお話は終わりです。


エリスさんとは、一旦お別れとなりました。


次回からは、ドワーフの鍛治職人ガンドリックに会いに王都より南にある〈ヘケト〉へと向かいます。


百神達のお話は今後もちょくちょく出てきそうです。

勿論、商売のお話もありますよ!



では、また次話でお会いできたら幸いです。

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