嘘つきポルクとルミィの涙。④〈⚠︎意地悪秋雨注意〉

魔物大行進モンスターパレード...。

 虚々実々な嘘か真か分からない言動が齎したこの結果に、人々は何を思うのでしょうかね」


 1人用にしては広い部屋のベッドから起き上がり、身支度を整える。

 階下からバタバタと、護衛騎士達のものであろう足音が忙しなく響く。


 ほどなくして、部屋の扉をノックする音と共に、エリスさんの侍女が廊下から声を掛けてきました。


『夜分遅くに失礼します。

 アキサメ様、起きていらっしゃいますか?』

「ええ、起きています。どうやら街が騒がしいみたいですね」

『緊急を要する事態、との事です。

 旅装を整えて一階の貴賓室に集合して欲しいとお伝えするよう、主より仰せつかっております』

「畏まりました。準備が整い次第向かいます」


 私の返事を聞いた侍女は、踵を返して廊下の奥へと気配を消していきました。


 身支度自体はそれほど手間も掛からず。


「一応、状況くらいは確認しておきますか」


 エリスさんの言伝から察するに、早急に街から出て行く可能性が高い。真夜中の強行軍となれば不安要素は極力排除すべきですね。

 街道付近には逃げ出した住民でごった返しているでしょうから、例え街道から外れても大丈夫なように...。




ーーーコンッ、コンッ、コンッ


「秋雨です。お待たせ致しました」


 返事の代わりに、ガチャリ、と貴賓室らしい装飾の施された扉が開かれる。

 部屋の中には、エリスさんとルーチェが正面のソファに座っており、向かって右側のソファには、カメリアに膝枕された状態で寝かされているリズ。

 エリスさんの後ろにはカインが立っており、扉を開けた護衛は廊下に出ました。

 侍女がお茶の用意を始めた様子。


「アキサメ、そこに座って。分かってる範囲で状況を説明するわ」

「はい」


 対面のソファに腰をかけながら、エリスさんに伺う。


魔物大行進モンスターパレードはどのような状況でしょうか?...いや、それよりもはどうでしょうか?」


 私の言葉に驚くエリスさんとカイン。

 ルーチェとカメリアは無言を貫いており、リズの穏やかな寝息が可愛らしく部屋に広がる。


「...アキサメ、なんで知ってるの?それにその聞き方、事情も把握しているのかしら?」

「夕食時に酒場で少々。

 その時の状況から予想したまでです」


 ハァ、と大袈裟に溜め息を吐くエリスさん。

 そんなキラキラした目をしてこっちを見るんじゃありませんよ、カイン。


「そうね。だいたいはアキサメの予想通りじゃないかしら?


 魔物大行進モンスターパレード...〈スタンピード〉が発生した。


 今は、移動速度の速い魔物達が先発して到着したみたいね。

 あと1時間もしないうちに、本格的な魔物の群れと衝突することになるわ」


 おや?


「エリスさんは〈スタンピード〉を知っているのですか?

 この街の人達は知らなかったみたいなのですが。

 もしかしてカインやカメリア達も知ってる?」

「私は護衛訓練の際に先輩達から教えて頂きました」

「私は、というよりガルトでは代々領主様主催の非常事態訓練が毎年あって、住民は必ず参加する決まりだから。辺境だと魔物が大群で襲ってくる事もあるからって」

「ガルトはキリュウ様の代から行われているらしいわ。

 レオンは王都近郊の領主達にも提案していたのだけど、まぁ危機管理能力には差があるのは当然ね。

 王家には閲覧制限のある資料があって、私はそれを読んだから知っているの。

 その資料では、人族大陸ユーミヤでは発生した事例は無くて、200年ほど前に魔族大陸ダイトで大規模なスタンピードが発生したことがあるみたい」


 だから知らなくて当たり前...とは言い難いですね。どこかで情報が規制された可能性がある、という事ですか。


「そうですか。まぁ、ルーク王国が何を考えているのかは全くもって興味もありませんが。

 この事態が想定内なのか、そうではないのか。

 王都に近いこの街で起きた、という点では一悶着ありそうですね。

 には関係ありませんが」


 苦虫を噛み潰したような表情のエリスさん。

 そういったまつりごとに関する事に私は介入するつもりは微塵もありませんから。


 あくまでも、私はリザティア・ガルトラムの保護責任者お義父さんですので。


「それは...そうね。

 これはルーク王国の問題であって、異世界人アキサメに頼ることは間違ってる。

 だけど、これだけは言わせて。


 私は、何の関係もない無辜の民が犠牲になるのを黙って見てはいられない。

 王族として、1人の貴族特権を享受する者として私は。


 日々を幸せに生きる者達を理不尽から救う為に、逃げるわけにはいかない」


 前世の記憶の事もあるのでしょうね。

 ですが、甘っちょろい。

 正義感だけの言葉をいくら並べようとも、今まさに兵士が、冒険者が、民が、犠牲となっているでしょう。


 言の葉が魔物を殺してくれるのであれば、いくらでも宣えばよいでしょう。


 思いが目の前で蹂躙される家族を救い出してくれるのであれば、いくらでも膝をついて祈ればよいでしょう。


 貴女1人が行動することで全てが変わるのであれば、勝手にそうすればよいでしょう。


 根拠チカラの無い美辞麗句など、妄言でしかない。


「私は、エリスさんに命令される謂れはありません」

「分かって、る」

「綺麗事をいくら並べようとも、魔物達は止まりませんよ」

「でもッ!」

「でも、ではありません。ただの事実です。

 貴族あなたには貴族あなたなりの矜持があるかと思いますが、そのちっぽけなプライドに振り回されてしまう、周りの人達の身にもなりなさい。

 護衛騎士達は貴女を護衛する為に配属されているのであって、貴女の我儘を叶える為に剣を握るのではありません。

 侍女だって身の周りの世話をする為に技術を磨いてきたのです。

 今、貴女が口に出している言葉は。


 彼等彼女等に〈死ね〉と命令しているのと同じですよ。


 それが分かった上でも尚、同じ事を言うのであれば、私達はここで失礼させて頂きます。


 私は、リザティア・ガルトラムの保護責任者です。

 最優先事項はリズの安全の確保。次にルーチェやカメリアの保護、そして、レオンさんから頼まれた頼まれ事おつかいの遂行です。


 エリスさん、貴女のに付き合う理由は存在しません。


 ご理解頂けますでしょうか?」

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