嘘つきポルクとルミィの涙。③
「そんな嘘はもういいんだよッ!」
「異世界からやって来た〈転生者〉のポルクくん?なんだよそれ?
やっぱり〈嘘つき〉ポルク、だな」
「ポルク〜、いい加減諦めなよ?いくらルミィと一緒に冒険したいからって、嘘ついてまで自分を売り込もうとするんじゃねーよ」
「そうそう、あんまりしつこい男と嘘つきは嫌われるよ〜、ねぇ、ルミィ?」
「.........う、うん...」
「嘘は言ってないッ!俺は本当に異世界で生きた記憶があるッ!
それにッ!...好かれたいから言ってるんじゃない!本当にこのま」
ーーードゴッ!
「しつけぇって言ってんだろうがッ!」
ガッシャン!、と再び床に転がるポルク君。
身につけていた金属製の胸当てでは守ってくれない腹部を殴られた彼は、床の上で嘔吐し呻く。
周りの反応は、私と同様に驚く者は少なく、大半の客達はこの状況を当たり前のように受け流していました。
おそらく彼、ポルク君のこのやり取りは今に始まった事ではないのでしょう。
ポルク君が〈嘘つき〉呼ばわりされる所以も含めて。
それにしても、転生者、ですか。
正直言って、そりゃいるでしょう、という感想しか湧きません。
此処に
別世界で亡くなった方の魂を拉致る事くらい平気でするでしょ、この
さて、ポルク君は私と同じ世界線の記憶を持つ人でしょうか?
それとも、全く違う世界線でしょうか。
どちらにせよ、ポルク君は何を焦っているのか。
彼の周りでこの先に起きる事象に、少くない情報を持っていて、このままでは望まぬ結末を迎えてしまう。
若しくは、ポルク君にとって、とても都合の悪い結末となってしまう。
それらを回避するべく、前世の記憶を頼りに行動しているが、現状は思わしく無い、と。
そこまで考えたところで、カウンター越しに声が聞こえました。
「またか...ポルクの奴も、いい加減諦めたらいいんだがな」
そう話すのは、この酒場の店主と名乗る男。
その厳つい顔と存在感を撒き散らす肉体は、先程頂いた煮込みのような繊細さは微塵も感じられず。
そして...いや、何でもありません。ただ、奥さんに似たのですね、とだけ。
約束通り一杯頂きに来たぜ、と口角をあげた顔は、泣く子が更に泣き喚きそうで。
「彼はこの街の冒険者なのですか?」
店主用に出した江戸切子に、トクトクと日本酒を注ぎながら問う。
「ああ。お客さんは旅の人だろ?アイツ、ポルクっていってこの街の孤児院で育った子でな。
小さい頃は賢くて、〈神童〉なんて持て囃された時期もあったんだが...っと、綺麗な酒だ。昔一度だけ見た
そう言ってグラスを傾けた店主は、こりゃ美味ぇわ、と笑う。
酒のお蔭か少し饒舌な店主が話すには、ポルク君は元々冒険者になるつもりは無かったみたいです。それまでは錬金術師になる為に猛勉強していたのだが、ある日を境に冒険者となった。
その頃から少し現実離れした嘘をつくようになったとの事。
空を飛ぶ鉄の塊、馬なしで走る乗り物、離れた場所に居る人と会話できる道具、などなど。
それらの全てが、〈科学〉という技術とダンジョンから探索者が持ち帰ってくる〈魔石〉から取り出したエネルギーを使って実現させていた、ですか。
...どうやらポルク君は、私の知る地球とは似通っているものの、全く別の世界から転生したようですね。
「悪い奴じゃねぇんだ、ポルクは。ただ、な。
何の証拠も無い、御伽噺よりも非現実的な話を信じてやれる人間は中々いねぇよ。
それでも諦めずに勉強してたんだ。
だが、突然冒険者になったと思ったら、このままだとこの街は危ない、ってな」
「危ない、ですか?」
「ああ、なんでも〈
ダンジョンから魔物が溢れ出て来て、暴れ回るんだとよ。
そんな話、今まで聞いた事ねぇ。冒険者ギルドにも掛け合ったらしいが、そんな前例は無い、ってな。
だからポルクは、冒険者達に直接掛け合ってこの街の近くにあるダンジョンを踏破しようとしてるのさ」
ルミィは孤児院で一緒に育った家族みたいな存在らしいぞ、と続ける店主。
なるほど。
そう言えば、ガルトの冒険者達もカメリアも言ってましたね、『最近、魔物被害が増えている』と。
...それって、アレですよね。
小説とかで
それにしても、このユルクではスタンピードが起きた事が無い?それも不思議な話ではありますが。
店主と話をしているうちに、ポルク君は酒場を出て行ったようで姿は見当たらず、手を出した冒険者の男は店主の娘から小言を言われています。まぁ、床掃除も大変ですからね。
それよりも、ポルク君には話を聞いておきたかったのですが...まぁ、いいか。
別にこの街に特別な感情はありませんし、事が起きたとしても、この街の長や冒険者ギルドが対応するでしょう。
戯言だと一蹴したとはいえ、少なからずそういう意見があったという事実に変わりはありませんからね。
その時は、頑張って下さい。
さて、そろそろ宿に帰りましょうか。
「お勘定を」
酒場を出ると辺りは薄暗くなっており、来る時は賑わっていた通りも静けさを取り戻しつつ。
空を仰げば、いつも綺麗なユルクの星空は生憎ご機嫌斜めなようで、より寒々しく感じてしまいます。
そして、一等星が此方を睥睨しているかのように北の空で怪しく輝いていました。
それから
私は、
ーーーカンッ!カンッ!カンッ!!
『魔物だッ!!魔物の大群が押し寄せて来たぞォォォォォぉおッ!!』
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