帰りましょう、みんなが待ってますから。〜審念熟慮の先の見たい夢〜

「..........大変だったね、秋雨」


 私に起きた、一通りの流れを良子さんに伝えました。

 勿論、竜討伐羽虫の処分等の荒事関連は、オブラートに包んで。


 自分で言うのも何ですが、だいぶ荒唐無稽な、それこそ良子さんの姪御さんが好きな異世界転移ファンタジーです。

 それこそ、目線の先ではしゃいでいる3人娘達が居なければ、到底信じられないと、私でも思います。


「大変、とまでは思いませんでしたが、それ相応の驚きの連続ではありました。

 ただ、私には〈スキル〉と呼ばれる、取って付けた〈超能力〉のようなモノに恵まれまして。

 このように、これまでお世話になった方々にお会いする事が出来て、それを基に、あちらの世界で商いをしています」

「それでも...地球に返ってこれる訳じゃないんだろう?

 仕入れ先限定じゃ、会いたい人にも会えないじゃないか」


 それはそうですが...。

 確かに、が無い、と言えば嘘かも知れませんね。


 離れてみて、改めて気付く事もある、だなんて。

 私には無縁の話だとばかり思ってました。


「ともかく、秋雨もウチの店にはちゃんと定期的に顔を出しな。

 その〈スキル〉とかいう能力だって、使っていくうちに何か変化するかも知れないだろ?」

「ええ、私もを把握出来ているとは思いませんので。

 暫くは、お店に顔を出すとお約束します」

「それで良いさね。秋雨の事を心配している人だって居るって事を、忘れるんじゃないよ」


 ..................心配、か。




 それから、良子さんの店のパンの8割近くを大人買いした私達。

 良子さんは、商売繁盛は良い事だね、と大笑い。

 名残惜しそうにするカメリア達に、次のパン教室の日程を良子さんと決めて、お暇する事としました。


「ヨシコせんせー!ありがとうございました!」

「ヨシコ先生、また来ます!」

「ヨシコ師匠、次回も宜しくお願いします!」

「ちゃんと自分達でも練習しておくんだよ。

 次はまた違うパンの作り方を教えてあげるからね」

「では良子さん、本日はありがとうございました。また、お伺いしますね」



 見送られながら、〈良い子のパン屋〉の入り口から出ると、そこには見慣れた〈MD〉スキルの異空間。

 ロイロはまだ出張中で、不在のよう。


 がらん、とした空間に、リズ達の楽しそうな喋り声が弾む。



『秋雨の事を心配している人だって居るって事を、忘れるんじゃないよ』 


 私を、心配してくれる人...。


 私を、大切にしてくれた人...。


 私を、護って、くれていた人...。


 私を......。




 ...私に、


 そんな資格があるのでしょうか?


 貴女を懐かしむ権利が、あるのでしょうか?


 最期に見せてくれた、その向日葵のような笑顔を。





 私は、 秋雨は。


 貴女から見て、ちゃんとのでしょうか?


 貴女と交わした、最初で最期の約束を、守れているのでしょうか?

 

 貴女は今も、こんな私を見て、微笑んでくれるのでしょうか?



「アキサメお父さん!リズは、エリスお母さんに手作りパンを食べてもらいたいです!」

「アキサメお父さん。そろそろユルクにませんか?」

「アキサメ父さん、よ」

「そうですね。それでもか、ユルクへ。

 みんなが、待ってますから、ね」






 私を、赦してくれますか?




 貴女を殺した私を、貴女は。

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