◉気まぐれにダンジョン見学《踏破》する異世界商人《アウトサイダー》。⑤〈⚠︎時間軸のズレ注意〉

ーーーブンッ!!


「芯の無い太刀筋をなぞるくらいなら始めから振らない」


ーーーシッ!


「見え透いた斬り返しは大きな隙を生みますよ」

「ハァ...ハァ...ハァ...」

「息を乱す事は勿れ。吸って、吐く。その一連の動作の中で刀を振るのです」




 私の目の前で、親友の春海が刀を両手で持ちながら肩で息をしている。

 その表情かおは、眼は。

 対峙する秋雨さんを、射殺さんばかりの、普段私達に見せる優しい笑顔とは真逆のソレ。


 私と春海が出会ったのは、中学1年の時。

 第一印象は『優しくて活発な子』。

 誰とでも分け隔てなく話せる春海と、友達になるのにそう時間はかからなかった。

 気が付けば3年間同じクラス、親友と呼べる間柄となり、同じ高校を受験した。

 高校に入ってから美乃梨と千佳の2人と出会い、私達はいつも4人だった。学校でも、遊びに行くでも。

 もちろん、異世界ユルクに来てからも。


 私は、春海のあんな鬼気迫る表情かおを今まで見た事が無かった。いつも元気で、優しくて、ニコニコしてて、少しおっちょこちょいな春海の、知らない一面を垣間見た私は、





「春海ぃーーーッ!ガンバレーーーッ!!」




 カッコイイなって、思った。

 そんな春海の友達...親友である事が、なんだか誇らしく思えた。

 やっちゃえ、春海!



 背後後ろから優希親友の応援が飛んできた。

 私は今、どんな顔をしてるのかな?

 みんなに怖がられないかな?

 JKには似合わない、稽古の為に渡された刀を握り締め、目の前にいる秋雨お兄ちゃん理不尽を睨みつける。


 秋雨お兄ちゃんの言いたい事は伝わってきた。

 地球、日本よりもこの異世界ユルクは分かり易いくらいに、武力チカラが物を言うんだ。

 私の甘えが、覚悟の足りなさが、後に大きな後悔となって身に降り注ぐ。

 そうならない為に、自分自身の為に、私は幼い頃に手放したを、もう一度。


 カチャリ、と静かに納刀し、身体の正面で水平に両手で持つ。

 秋雨お兄ちゃんが、自然体のまま私を見据えて、穏やかに笑った。


 やっぱり、手の平の上。

 優男のそのツラをグーパンしてやりたい。

 きっと、それは叶わない。

 でも。


 負けてなんかいられないッ!!


「イィィ加減にぃ、起きやがれぇこのぉ馬鹿野郎ォォォォォッ!!!!」


 叫ぶと同時に、抜刀する!

 頼むから起きてよッ!

 放置しててゴメンってば!


『バカって言う方がおバカなんですぅー♪

 だいたい、野郎って何よ!?私みたいな美少女に向かって言う台詞じゃないわよ!

 8年振りに声を掛けてきたくせして何様なのよ、ハル!』


 あ、出た。


「あ、おひさ。相変わらずウザい喋り方だね、サクヤ」

『お久しぶり、ハル。

 で、何の用かしら?なんか違う世界線みたいだし事情がありそうだけど、私、今ティータイム中だったの。手短にお願いできるかしら?』


 何がティータイムだ。縁側で緑茶呑んで盆栽弄りしてただけでしょ。


「り。チカラをかして、そこに居る化け物に一矢報いるから」


 サクヤは私と面と向かっているので、指を指して相手を伝える。


『分かったわよ、時間が無いんだから手短に済ませ..................!!??ハァァァ!!?』


 振り返り、秋雨お兄ちゃんを視界に捉えたサクヤが騒ぎ出す。


『バ、バ、バカじゃないの!?な、な、なんで御館様に!あ、いや、そうじゃない!オホンッ。

 御館様、お久しゅう御座います。

 わたくし、木花咲耶姫は御館様に再びお会い出来て大変嬉しゅう御座います』

 

 なんで今更、猫被ってんのよ。


「久方ぶりですね、咲耶姫。お元気そうで何より。

 ティータイムをお邪魔して申し訳なかったですが、宜しければ後でお茶をするので、咲耶姫の好きな和菓子を用意しますから、ご一緒しませんか?」

『は、は、はいッ!!喜んでぇー!!』

「どこの居酒屋の店員さんだよ」


 兎に角、木花咲耶姫サクヤが出てきてくれた今がチャンス!


るよ、サクヤッ!!秋雨お兄ちゃん、覚悟ッ!!」


 そのツラ、な・ぐ・ら・せ・ろぉーー!!


「散レ...御堂院一刀流・桜花燦々おうかさんさんッ!!」

『えッ!マジで!?御館様、違います!ハルです!ハルが犯人です!私じゃありませぬーーー!』


 うっせぇわ!


 ごちゃごちゃ言いながらも、ちゃんとサクヤは私に合わせてくれた。

 幻想的な桜の花が空中に咲き乱れると、一斉に桜吹雪となって。綺羅綺羅と、舞い散る花弁はなびらが秋雨お兄ちゃんを襲う。

 私の渾身の一刀と共に。


 私のありったけの一振りは、ダンジョン内にズドンッ、と重低音を響かせた。

 パラパラと、天井から小石が落ちてきて、足元から舞う砂埃がぼわっと、広がっていた。





「今のは中々。良い太刀筋でした」


 チクショウ...もしないだなんてッ!!


「当たらなければ、意味も無し!」

「左様。水鉄砲だろうが、ライフル銃だろうが、当たらなければ一緒。

 但し。

 覚悟を込めたその一刀想いは、一刀となりる。


 お見事でした、春海」


 そう言って、秋雨お兄ちゃんが愛刀を空中へと放ると、八咫烏ヤタは鴉となって大きく羽ばたいて消えていった。


 傷一つ、汚れ一つも付かず、息すら切らしていない化け物理不尽さに、どっと疲れて溜息が出てしまう。


「ハァ...。強すぎて訳がわからんし」

『ハル!お願いだからちゃんとして!』


 へいへい...少しくらい愚痴っても良いじゃん。


、ありがとうございました」

「はい。お疲れ様でした、春海。

 私の言いたい事が伝わったようで良かったです。

 これからを楽しむ為に、その力が必要となる場面も出てくるでしょうから、精進しなさい。

 敵意を持った相手と対峙した際は」

「斬ります」

「...あくまでも、平和的解決が不可能と判断した上で、ですよ?

 咲耶姫、春海の事を頼みますね」

『承知致しました、御館様』


 えぇ...御堂院って〈敵・即・斬斬ってしまえ〉でしょ?


 秋雨お兄ちゃん、もしかして優しくなった?


「春海!格好良かったよッ!何あれ、桜吹雪がドバァって、そしたら春海がドガーンって!」


 あぁ、優希の語彙力が恐ろしく低下してる。

 でも、応援してくれてありがとね。


「春ちゃん...ファンタジーの住人だったんだね」


 説明が大変だなぁ...。御堂院って、何て説明すれば良いんだろ?


「春海ちゃん、カッコ良かったね!

 『散レ...御堂院一刀流・桜花燦々!!』

 あの必殺技!アニメとかゲームみたいだったよ!特に『散レ...』の部分が最高ッ!私、グッときちゃった!!」


 ヤメテェ...恥ずかしすぎる...。

 『散レ...』は、サクヤがそう言わないと力を貸さないって言うから...あの『散レ』の後の三拍まで指定されてるんですってばぁ...。


『あ!分かる?格好良かったでしょ!あの台詞があの技の格好良さを引き立てているのよ!

 貴女、良いセンスしてるわ!私は木花咲耶姫、サクヤって呼んで』

「ちょ、サクヤ、まだいきなりすぎ!説明をちゃんとしないと」


ーーーパンッ!


 突然鳴った音に、私達は発信源である秋雨お兄ちゃんに注目した。




「積もる話もあるでしょうから、そろそろお茶にしましょうか」




 そう言って何も無い場所に手を向けると、次の瞬間、



 ダンジョンのフロア半分を占領するくらいの、地球人私達にとって懐かしい、ユルクでは珍しい、〈喫茶店カフェ〉が現れた...。



「さぁ、お茶にしよう」


 あ、OK、分かった、私が代表して言うね。


「この非常識チート野郎ッ!!!」


 

 

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