◉私達は勇者...という名の。〈⚠︎時間軸のズレ注意〉

 私達がダンジョンに初挑戦してから1か月。


 当初予定していた期間内に目標階層まで到達する事が出来ず、私達勇者一行は約半数の離脱者を見送る事となり、明日は我が身、と恐怖心を誤魔化し取り繕いながら日々ダンジョンアタックを強いられていた。

 ここまでくると流石にクラスの男子連中も、浮かれた気分でいる事は無くなっていた。

 『俺様最強!』と息巻いていた空手部の男子が魔物に左腕を、意識を取り戻すのを待たずに王都行きの馬車に乗せられた時からだったか、この世界ユルクでの自分達の力量や立場、勇者という名の戦奴システムを否応無く理解したのだろう。


 はっきり言って、阿呆甘ったれ、だ。


 レベル制では無く、スキル制のこの世界に於いて、数値化されない経験値と〈Lv1〉みたいに基準値の無い自己能力をなどと馬鹿げた妄想で戦闘命のやり取りをする者なんか、ただの自殺志願者にしか思えない。例えクラスメイトといえども、私はそんな阿呆に気を遣っているほどの余裕は、無い。


「春海!左、お願いッ!!」

「了解!美乃梨、奥のアーチャーに魔法で牽制!千佳、優希にバフを!」

「〈風刃ウインドカッター〉ッ!」

「〈身体強化フィジカルエンチャント〉!」

「〈シールドバッシュ〉!」

「シッ!!」


 私達パーティーがいるのはダンジョンの28階層。29階層へと続く階段の手前で魔物の群れと対峙していた。

 私の、スキルを使斬撃で沈むリザードナイトという二足歩行の爬虫類トカゲの騎士。鎧で守られていない首を狙い澄ましたその剣先は、なんとか必殺クリティカルとなったようだ。

 その余韻に浸る間も無く、そのまま足を前へ。

 魔法使いマジシャンの美乃梨の風魔法で行動阻害ノックバックされたコボルトアーチャーに肉薄すると、その勢いを乗せて刺突を繰り出す。


「ハァァッ!!」


 ズシッ、と肉に刺さっていく重い感触が、魔物の背中を抜けて少し軽くなるのを感じ、引き抜きながら右側に払い、その反動を利用して私は蹴り飛ばした。

 優雅さに欠ける?何を馬鹿な。自分の命を賭けたbetした戦闘に綺麗もクソも無い。

 そんな余裕がある人なんて、私は生涯で1人しか知らない。寧ろ、あんな平和ボケした日本でそんな人を知り得る私、というか私の家系がおかしいのだけど。


「優希!今行くッ!」


 蹴り飛ばしたコボルトアーチャーに見向きもせずに、タンクの優希と対峙する大鬼オーガの背中へと剣を向けて走り出す。


「ガァァアアアアアッ!!」


 一際大きく吼えた大鬼オーガの体が怪し気に赤く光った。

 クソッ、〈身体強化〉のスキル持ちかッ!


「優希!正面から受けちゃダメッ!受け流してッ!」

「分かった!」

「美乃梨!足を、関節を狙って!」

「はいッ!〈双風刃ダブルウインドカッター〉!」

「春海!〈俊敏強化スピードエンチャント〉」

「ハァァアアッ!!」


 ガラ空きの背中を袈裟斬りに振り抜くも、その強化された筋肉に阻まれて大したダメージを与える事が出来なかったが、優希への攻撃を阻害する事には成功した。

 もう一太刀、という欲を振り払って大鬼オーガから距離を取る。

 私みたいな紙装甲の剣士にはあの筋肉達磨の一撃は致命傷となり得る。


「優希、タゲを切らさないで!千佳は距離を取っていつでも回復魔法ヒールを飛ばせるように!美乃梨はそのまま魔法で牽制!」


 魔物も馬鹿じゃない。先ず最初に狙われるのはバッファーでヒーラーの千佳だ。優希と私でタゲを取りながら先ずはッ!?ヤバいッ!


「千佳、避けてぇーーッ!!」


 大鬼オーガがその手に持っていた丸太のような棍棒を千佳に目掛けてぶん投げたっ!


「キャッ!!?」


 ゴオッと、その風圧だけでよろけそうな勢いの悪夢のような棍棒弾丸が千佳に迫る!

 しまったッ!と、ダッシュで千佳のもとへ向かうが、間に合うはずが...イヤッ!!千佳ァァ!!


『〈爆砕撃〉ッ!!』


 ドゴォォンッ!、と凄まじい轟音と共に土煙が舞う。千佳を直撃するはずだった棍棒が木っ端微塵に粉砕されたのが確かに見えた、土煙が収まっていく中、その女性ひとは赤く燃え上がるような髪を靡かせ、そのモデルのような体型にはとてもそぐわない、無骨な両刃の斧を軽々と肩に担ぎ上げて、私達に向かって微笑みながら言葉を紡ぐ。


「大丈夫かい?お嬢ちゃん達」


 窮地ピンチに颯爽と駆けつけたのは、真っ白な鎧を身に纏う勇者では無くて、真っ赤な、椿を連想させる女戦士お姉様だった。



 アレ?普通、逆だよね?私達、仮にも勇者だし。

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