花売りの少女。④

「何か御用でしょうか?今から予定があるので急ぎたいのですが?」


 現れたギルドマスターらしき女性に向き直って話します。

 何故今頃になって出て来たのか理解出来ませんが。


「何故出て行こうとしているのかを聞いている。この揉め事のはお前だろう?」


 まさかの犯人扱いとは。

 本当に組織の長なのでしょうか?


「何故に犯人扱いされているのか分かりませんが、のでお暇するのですが。何か問題でも?」

「私が責任者だ。私は許していない」


 何を馬鹿な事を。

 貴女に許される必要なんて何処にあるのですか。


「貴女が何処の誰だか存じ上げませんが、私は其処にいる副ギルドマスターとお話した上で、正規の手続きで商業ギルドを脱退しましたし、契約魔法もかけられていない証文で負った借金をきちんと支払いましたが?

 そもそも、既にギルド員では無い私に、そのような物言いをするなんて失礼な方ですね」

「私はギルドマスターだ!一般人よりは偉い、商業ギルドの長だぞ!貴様こそ無礼だろう!」


 腐った組織ですよ、全く。面倒くさいので早目に出ましょう。


「駄目です!ギルドマスター!!」


 先程の受付嬢が叫びますが、私は急いでいるのです。


「私は、エリス大公妃殿下の旅に同行している者で、リザティア・ガルトラム女辺境伯の保護責任者をしているアキサメ・モリヤと言います。

 これでも商人の端くれでガルトのイザークさんからの勧めで商業ギルドに加盟しましたが、どうやら其処の3人のように商業ギルドそのものが信用に値しないと思いましたので先程脱退しました。

 よって、私は今、貴女の配下でも何でも無いのですよ。むしろ、これまでの対応を考えると、貴女方商業ギルドはですよ。

 それとも、だぞ、と言えば良いですか、ギルドマスターさん?」


 お馬鹿さん4人に軽く威圧を放ち、問うように告げる。

 今更顔色を悪くしてどうするつもりですか。


「エ、エリス大公妃殿下...そんな...」

「今、イザーク様と懇意だとか...ヤバいぞあんな大商会に睨まれたら...」

「ガルトラム女辺境伯の保護責任者って...実質の父親代わりって事か?」


 ギャラリーが好き勝手言ってますが、どうせ貴方達も同じような事をしてきたのでしょう?


「す、すいませんでした!...私は、知らなくて、その」

「良いですよ」

「え!?で、では許し」

「許すとか許さないとか、良いです。

 貴女達を含めた商業ギルドは、私の〈敵〉ですから。

 この件でエリスさんがどう判断するかは知りませんし、興味もありません。

 但し、

 私の周りに危害を加えようなどと考えたら。

 その時は改めて私が責任を持って、貴女方を、商業ギルドを、その取り巻くものを、


 跡形も無く、殲滅して差し上げますので。


 それだけは、御約束させて頂きます」


 威圧を強めて告げると、ギルドマスターと名乗る女性は粗相して座り込んでしまいました。

 副ギルドマスターと阿呆2人は泡を吹いて倒れています。


「では、商業ギルド敵対者の皆様、御機嫌よう」


 そう言い残して、アンナを連れて商業ギルドの建物を出る。

 何か建物の中から叫び声が聞こえますが、気にしません。


「あ、あのアキサメ様...」


 通りを2人で歩き出すと、アンナが話し掛けてきました。少し勘違いさせてしまったかな?


「ん?ああ、様付けはしなくて良いですよ。

 私は先程言った通り貴族の方々と知り合いではありますが、貴族ではありません。ただの商人ですからね」

「え?いや、でもお金まで、借金まで払って頂いて...私は何をしてお返しすれば良いのでしょうか...?」


 確かに、会って30分の男が突然差し出す善意なんてかえって恐ろしいですよね。

 まぁ、借金の件は解決すると思いますけど。


「疑いたくなる気持ちも分かりますが、先ずは改めて自己紹介をさせて頂きたいので、何処か落ち着いて話が出来て、ランチを食べれるお店、知りませんか?」


 なんか、下手くそなナンパみたいで、自分で言っておいて恥ずかしい...。

 どうみても15、6歳の少女に声を掛ける37歳独身男。日本ならお巡りさんが駆け付けてくるところでしょうか?


「あら、アキサメ。私をランチに誘わない癖に若い女の子をナンパしてるのかしら?」


 お巡りさん以上の大公妃殿下国家権力が紅い髪を靡かせながら現れました。


「勿論、事情聴取し弁明させて頂けるのですよね?エリスさん」

「ええ、ランチでもしながら、と聞かせてもらおうかしら?

 もちろん、そこのお嬢さんもね」


 ニヤっと笑うエリスさんは...とても素敵な笑顔だったとだけ、伝えておきましょう。

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