花売りの少女。①

 旅程は順調。天候も私達一行を祝福してくれたみたいで、予定より少し早めに本日宿泊する町の近くに到着しました。

 マカロンで乗り込んでも良いのですが、『面倒な輩が寄ってくるわよ?』とエリスさんに言われたので、此処でマカロンは一旦〈異空間倉庫ストックルーム〉へ。

 ロイロの部屋と異空間倉庫がロイロによって繋がれた今、車1台停める事など容易なのです。

 というか、ちょっとした物流倉庫並み?

 私は個人営業、しかも現状屋台店主なのですがね。

 リズとルーチェはエリスさんの馬車に同乗させてもらい、私とカメリアは徒歩で町の入口に向かいます。

 町の検問所は先触れとエリスさんの馬車の紋章であっさり通過。

 碌に荷物検査もありませんでした。流石は大公妃殿下ですね。


 この町は然程大きくは無いものの、街道沿いの宿場町として栄えてきたのが分かる歴史ある町並みと、どことなく町の人に活気を感じます。


 エリスさん達はそのまま宿へ。貴族用の高級宿に予約済みという事で、特に観光するような場所もないので宿でゆっくり過ごすみたいです。リズとルーチェも慣れない旅で疲れもあったと思うので、一緒に休ませる事にしました。

 カメリアはこの町の冒険者ギルドにいる知り合いに会いにいきました。


 私は町をぶらぶらお散歩。

 聞くには特産品がある訳でも無いようですし、名物料理も無いみたいです。

 そういえば私ってガルトすら碌に観光してないんですよね〜。折角の異世界なので観光とかご当地ならではの物とか見てみたいですし。


 そんな事を考えながらぶらぶら歩く。

 目についたお店を冷やかしながら、偶に気になる物は購入していく。


「そこのお兄さん、その果物はここいらでは珍しい【ルーザム妖精族大陸】産のバナーヌだよ!売り切れ御免の品だから買ってってよ!」


 バナーヌ?確か、フランス語でバナナでしたよね。見た目もバナナそのものですし、間違いないでしょう。

 ルーザムは熱帯なんですかね?いや、異世界だから同じバナナとは限りませんね。


「面白い。お姉さん、1ついただきましょう」

「あら、お姉さんだなんて嬉しい事言ってくるじゃないか!1番大きくて甘いバナーヌを選んであげちゃうよ。代金は800ルクね」


 大銅貨を渡してお釣りをもらう。少し先にあった広場の端で10本連なる房から1本取り、食べてみる事にしました。


「...甘い!美味しいですね〜♪」


 普通に美味しい。日本の高めのフルーツ専門店で売ってるバナナに引けを取らないほど。

 因みに、その店のバナナの仕入れ先の農園の親父さんとは知り合いです。今度顔出そうかな?

 そういえばガルトでも屋台出来なくなって、旅の最中も商売はしてませんね〜。〈異世界商人〉なんですけどね。

 そんな事を考えながらバナーヌを1本食べ終わり残りを収納して広場を何となく見渡す。

 宿場町らしく、行商人らしい男が露店をしていたり、いくつかの屋台が食べ物を販売しています。

 それに合わせて人も比較的多い広場の片隅、幾つかある広場の入り口の1つで、少女が手提げの籠を持ちながら、通り過ぎる人々に声を掛けています。


『...いりませんか?...良か....買って...い!』


 彼女もまた、商売をしているようです。

 あまり上手くいってはいないようですが...何を売っているのでしょう?


 少し気になった私は少女の居る入口の方へ向かって歩いてみる事にしました。

 近づくに連れて少女の扱う商品が分かりました。確かに少女でも仕入れる事が可能ではありますね。


「お花いりませんか?良かったら買ってください!」


 少女の扱う商品は〈花〉。ユルク産でしょうか?日本では見た記憶がないような気がする綺麗な花です。

 全体的にに白くパッと見で三日月型の花に薄い紫色の茎や葉。

 白いその花弁がぼんやりと淡く光っているのが幻想的ではありますが、通り行く人々が興味を持たないところを見ると、一般的な花で然程珍しい物でもないのかな?

 日本人には、とても珍しくて綺麗な花なんですがね。


「買ってください!お願いします!」


 花...花...〈KumA〉の愛美さんなら?いやハンドクリームは香りの方が大事ですよね。あの見た目を活かしたいですよね.....取り敢えず、実物を確認してみますかね。


ーーードンッ!


「キャッ!?」


 私が声をかけようとしたその時、私の横から来て少女を突然突き飛ばし、高笑いする男女が登場。あぁ、折角の綺麗な花達が地面に散らばってしまいました。中には通行人に踏まれてしまう花も。


「ま〜だ花売りなんかやってんのかよ?」


 落ちた花をブーツで踏み躙りながらニタニタ嗤う20代の冒険者風の男。


 私の目の前で、堂々と商売を邪魔するとは。

 いい度胸じゃないですか。




 




 

 

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