◉勇者という足枷、日本人という手枷。

「来たぜダンジョン!!」

「俺たちで踏破やるぜぇ!」

「ダンジョン都市って、賑わってるのね〜」

「うわぁ!見て見て犬獣人さんがいる!あ、あっちにはエルフさんも!凄いっ!」

「人がいっぱいだね...流石はダンジョン都市」


 私達は今、ダンジョン都市〈クーロン〉に遠征に来ています。

 王都から北に馬車で4日のところにあるこのダンジョン都市〈クーロン〉は、ダンジョンを中心に囲むように都市が設計されており、ダンジョンが生活に強く根付いている事が見てとれる。

 クーロンのダンジョンは、最高到達階層は68階層。勿論、未踏破ダンジョンで、ダンジョンの専門家達の見解では、100階層はある、とされている。


 他大陸の冒険者からも、難易度が高いクーロンのダンジョンは人気が高く、毎日のように腕に自信のある冒険者達がダンジョンドリームを夢見て検問所を通ってくる。

 そして同じように、厳しい現実に夢破れた者達が、痛々しい姿で検問所を去っていくのだ。


 さっき私達と入れ違いに出て行った冒険者達には、片腕や片足が無かったり、酷い火傷を顔に負った者が居た。クラスメイト達の視界には入ってなかったようだけど、ダンジョン攻略をゲーム感覚で考えている人達が心配でならない。

 王城で引き篭もるクラスメイトの方が、彼等より現実を直視していると思う。


 護衛兼引率の命を受けた騎士団に連れられて、立派な宿泊施設に案内される。

 王城での待遇のように1人1部屋ではないが、3人で1部屋、端数が出るので2人1部屋とあり、私は運良く優希と2人で泊まる事となった。


「2人部屋でラッキーだね、晴海」

「うん。良かったよ、優希と一緒で」

「私も。...ダンジョン攻略は早速明日からかぁ。

 今日は準備と買い出し?あとは冒険者ギルドで〈探索許可証〉を申請するんだっけ?」

「騎士団長さんがそう言ってたよね。

 冒険者ギルドかぁ。男子共が騒ぎを起こさなければいいけど」

「ホント、ラノベとかアニメに感化され過ぎだよね。現実を見ろっての」


 優希の言う通りだと、私も思う。

 王都周辺で魔物を相手にしていた時も、まだ現実をしっかりと認識していない人は多かった。

 むしろ、勇者召喚の儀式ユルクに来た時に与えられた魔法やスキルといったものに浮き足立っていたと思う。

 おかしいとは思わないのかな?

 昨日までは剣も持った事の無い高校生が、鉄製の剣を片手で振り回し、魔法とかいう不可思議な現象を行使したり。

 突然与えられた仮初のチカラに、溺れてしまわないといいけど...。


「騎士団長さんが目を光らせているだろうから、大丈夫.....と思う」

「祈るしかないか。買い出しが気分転換になればいいなぁ」


 私は、ユルクの神様には祈りたくないかな。


ーーーコンコンコンッ!


『御堂院さん達、ロビーに集合だってー』

「は〜い」

「今行きまーす!」


 クラスメイトがドア越しに連絡事項を伝えてくれたので、私と優希は財布代わりの巾着袋と武器を持ち、部屋を出た。



 思っていた買い物とは違ったが、干し肉の良し悪しを説明する若手騎士に『話が長ぇよ!』と拳骨を落とす団長に笑いが起きたり、セーフティエリアで使う毛布を買う時に『テントは?』と聞いた男子が、副団長に『キャンプじゃないですから。貴方はテントを担いで魔物と戦いますか?』とごもっともな指摘を受けて赤面していたり。

 確かにテントなんて使わないよね、雨が降るでも無いし。


 いよいよ冒険者ギルドで〈探索許可証〉を申請する事となった。

 その建物は総石造りで堅牢な、イメージ通りの建物。中も簡素ではあるが、その雰囲気に少なからず圧倒される私達。


「今からダンジョン探索の申請を行う!以前決めたパーティー毎に行うからな」


 団長の声で現実に戻ると、ダンジョン攻略時に共に戦う仲間同士で集まった。

 私のパーティーは、優希と千佳、美乃梨の4人。千佳ちゃんはヒーラー、美乃梨は魔法使い、優希がタンクで、私がアタッカーだ。

 役割は座学で習い、連携を訓練してきたものの本番が近づくと緊張する。

 パーティーリーダーになってしまった私が申請用紙を書き、滞りなく申請出来た。

 受付嬢は綺麗な人族の女性で、他にも獣人やエルフといった綺麗な女性が受付嬢としてカウンターに並んでいた。多種族が集まるクーロンならではなのかも知れない。案の定男子共が鼻の下を伸ばしていたが、大きな問題も無く全員が申請を済ませて宿に戻る事が出来た。


 翌朝、だいぶ慣れた朝食を済ませた私達は冒険者ギルドで〈探索許可証〉を受け取り、意気揚々とダンジョン攻略へと向かう。





 私達は、このユルクというファンタジーな世界を楽観視していた事を、勇者などという降って湧いた力を過信していた事を、本当の意味で、全く理解していなかった。


 勇者という足枷が、


 日本人という手枷が、


 ダンジョンが、この世界ユルクが、


 私達という勇者異物排除殺しに取り掛かっているという現実を知る。



 ダンジョン攻略初日、2つのパーティーが壊滅的被害をを受け、3名の勇者クラスメイトが部位欠損の重症を負い、王都へ帰還する事となった。



 私達は、王城に残る勇者人質の為、ダンジョン攻略勇者の選別という牢獄から逃げれない事に、今更ながら気付いてしまった。


 




 

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