ランラン♪ランチタイム。⑤〈たかが◯◯、されど◯◯〉

「ア、アキサメ、結構な思い切りニャ...」

「アキサメ様、良いのですか?この世界でもかなりの部類だと思われますが?」

「あははは、いいんですよ。仕入れ値は0ルクタダなんですから」


 むしろ、バンズや野菜の方がお金かかってますしね。それに、また食べたくなったら狩れば済む話でしょう。ただ、探すのがちょっと面倒なだけで。


「そう...なのかニャ?ま、アキサメがそーいうならいいニャ」

「えぇ...そうなのかなぁ?」

「ロイロちゃんとソラちゃんは、このいいにおいのことしってるですか?」

「知ってるみたいな会話ですよね」

「ロイロさんもソラさんも、どうなんだい?」


 みんなからの問い掛けに対して、『バラしてもいいの?』といった表情で私を伺うように見る2人。

 別に内緒にしている訳じゃないのですがね。

 ちょっとしたサプライズ的な?


「そのハンバーグの挽肉は、ドラゴンの肉ですよ。最近、大量に手に入れましたので」


 ピシリ、と固まるルーチェとカメリア。リズは腕を組んで、なるほど、ふむふむ、と分かったような分かってないような素振りを。


「ア、アキサメさん、いくらなんでも、そんなをお手軽にランチに使うなんて...」

「.......アキサメ父さんのやる事に慣れるって、大変なんだな...」

「そんな些細な事は気にしないで良いのですよ。

 幻だろうが高級だろうが、食べて美味しければ良し。沢山あるのですし、食べ物なんですから、みんなで楽しみましょう」


 そう言うと、ルーチェもカメリアも取り敢えず納得、という表情となる。

 そうこうしているうちに、第一陣のハンバーグが焼き上がりそう。先程オーブンで軽く焼いたバンズを取って、ハンバーガーの仕上げをみせる。


 バンズに薄くバターを塗って、レタス、ドラゴンバーグ、スライストマト、刻んだビネガー漬け、予め用意しておいた自家製トマトソース。

 最後にバターを塗ったバンズの上部を乗せて、〈ドラゴンバーガー〉の出来上がり。

 紙で包んで、スープと一緒に配る予定です。


「こんな感じで仕上げていきます。さあ、みんなで頑張りましょう!」


 はーい!、と頼り甲斐のある返事をもらい、作業を分担しながらどんどん仕上げていく。

 私は追加のハンバーグを焼きながら、バンズを焼く。さほど時間がかかる事もなく、最後の1つをリズが紙に包み込んで、完成。


「できました!」

「出来たね♪」

「やったね!」


 三人娘が楽しそうにハイタッチしており、となりではロイロとソラが微笑ましくその光景を眺めていた。


「ロイロ、ソラ。みんなで協力して1つの事を成すのも楽しいでしょう?

 人は、神様達貴女達とは違い個々で見れば非力な生き物なのです。

 でも、こうやって足りない部分を互いに補いながら、手を取り合い生きていく生き物なのです。

 勿論、皆が皆、そういう訳ではありませんが、あんな風に楽しそうに生きていけたら、思いませんか?」


 キョトン、とした顔のロイロとソラはお互いに顔を見合わせた後、私にとても綺麗で、嬉しそうな笑顔で言う。


「はいニャ!(私もそう思います、秋雨様)」

「はい!(私もです。御館様)」


ーーー(我らもそう在りたいものだな。


「え!?」

「うそ!?」


 驚いた表情で、私のを凝視する2人。

 少しして、2人の瞳から一筋の涙が溢れる。

 私にはその涙の理由がのですが、なるべく優しく頭を撫でてあげる事は、自然と出来ました。



 ロイロとソラも落ち着いてきたので、撫でていた頭から手を離すと、あっ、と少し名残惜しそうでいて、恥ずかしそうに頬を染める。


「少しは落ち着いたかな?

 あまり抱え込んでは駄目ですよ。

 貴女達は私の大事な家族の一員なんですから、いつでも頼って良いのです。

 神様だから、なんて関係ありません。

 お互いに支え合うのが、家族ですからね」


 しっかりと頷き返してゴシゴシと涙を拭った2人は、いつもの顔に戻っていました。


「さあ、皆さんに配りましょう。

 カメリア、エリスさんに食事が出来た旨を伝えてきて下さい。

 私とリズは渡す係を、ロイロとソラはスープをカップに注ぐ係を。

 ルーチェは表で皆さんをちゃんと並ばせるように誘導する係を。

 最後の一仕事です、頑張りましょう」


 みんなが元気良く返事をして、各々の仕事に取り掛かる。

 私はルーチェと一旦表に出ると、バックドアの前に受け渡し用のテーブルを並べる。

 予め猫厨内自体の経過時間を1/10くらいに設定していたので、エリスさん達からしたら、あっという間に用意出来たと思うでしょう。


「メェメェ!《いじょーなし!》」

「つき君、ありがとう。後でみんなで食べますから、もう少し待ってて下さいな」

「メェ!《らじゃ!》」





「美味しい!何よコレ!?アキサメ、なんでこんなに美味しい食事がこんな短時間で用意出来たのよ!?」

「うまッ!?美味すぎる!」

「美味しい!最高〜!」

「旅中でこんな食事にありつけるなんて...」

「スープのお代わり有りますよ〜!欲しい方はカップを持って並んで下さ〜い」

「うわっ!交代待ちのヤツ等がめっちゃコッチ見てるぞ?」

「そりゃそうだろ。こんな良い匂いをさせて、可愛い女の子...リズ様やルーチェ様からの手渡しだぞ?俺、今回エリス様の護衛任務に入れて良かった...」

「本当だよ。留守番のヤツ等に自慢しよ!」


ーーアハハハ!!


 楽しそうに、嬉しそうに、食べる護衛の皆さん。喜んでもらえたようで、何より。


 交代の人達にも食事が行き渡り、私達は軽く片付けをして自分達の食事を始める。

 私達よりも先に食事をした事に気付いた護衛の皆さんは恐縮していましたが、私達が勝手にした事ですよ、と伝えると、

 

「周囲の警戒は我々にお任せ頂き、ごゆっくりお寛ぎ下さい!!」


 と、周囲に散らばって行きました。

 意気揚々として。


「みんな、お疲れ様。

 今日のランチは大成功でしたね。

 これも、みんなで協力して取り組んだからこその結果だと、私は思います。

 見ましたか?護衛の皆さんが美味しそうに私達が作った料理を食べる顔。

 聞きましたか?一口食べる度に笑顔で、美味しい、幸せ、って言っていた声。

 感じましたか?たかが料理、されど料理。料理1つで多くの人達を幸せに出来る事。

 そして、それを行なった自分達も、幸せな気持ちになれる事を。

 どうです?楽しかったでしょう?」

「はい!リズは楽しかったです!」

「私も、護衛の方達が美味しそうに食べる姿を見て、嬉しかったです!」

「私も。今までは旅先の食事なんてお腹が膨れたら良いと思っていたけど、考え直す事が出来たよ。楽しかった」

「私もおもしろかったニャ!」

「はい!勉強になりました!楽しかったです」


 夫々に感じるものがちゃんとあったようで、私も自然と笑顔になります。やって良かったですね。


「そうですか。それなら私も幸せですよ。

 では、私達も頂きましょう!」


 いただきます!、とドラゴンバーガーにかぶり付くと、ジュワァッと肉汁が溢れるハンバーグに、シャキシャキのレタスと新鮮なトマト。

 エリスさんから頂いたビネガー漬けも程よい酸味が肉の味のアクセントに。全体をトマトソースがまとめ上げていて口の中が喜ぶ感覚を覚えます。


「美味しい!」

「おいしいです!!」

「美味い!美味すぎるよアキサメ父さん!」

「メェメェ〜《うまいぞ〜》」

「にゃ!おいしいおにく!」

「アキサメ様、美味しいです」

「アキサメ、ウマいニャ〜!流石はニャ。おいしく焼けました〜♪ニャ」


 うんうん。確かに美味しいですね、ドラゴン。これは、本格的に狩りましょうかね?


「ち、ちょっと!?アキサメ、ド、ドラゴンってロイロちゃんが言ってるけど...本当に?」

「ええ、この間、沢山手に入ったので。

 折角なので食べようかな、と」


 あれ?急にエリスさんが俯いて黙ってしまいましたが...

 すると、ガバッと顔を上げたと思ったら、急に叫びました。




「ドラゴンなんて誰も食べた事の無いと云われている〈幻の肉〉をしれっとランチに使うなーーッ!!

 どうやって対価を払えば良いのよー!!?」


 あ、そう言えば、そんな話でしたね。

 すっかり忘れてましたよ。


「まぁ、仕入れ値は私の労力が少し?ですから」

「ドラゴンを狩っておいて、少しとか言うな!?」

「えぇ...そんな事言われても」

「うニャーーー!!」


 あ、ネコ貴婦人マダムになった。


 でもエリスさん。

 貴女もあれがだったと言ってるじゃないですか。

 中々出回らない、少し高級で美味しいだけの食材ですよ。幻だなんて、大袈裟ですって。



 その後も、ドラゴンバーガーを楽しみながら、隣でニャーニャー言っているエリスお母さんを相手しながら、穏やかで、賑やかなランチタイムはゆっくりと過ぎていくのでした。


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