◉勇者《主人公》達は、今。...馨る、最強。
「春海〜、商業区に買い物行こ〜」
今日は、週一回の休息日。ユルクの光の日は、地球での日曜日みたいな扱いらしい。
とは言っても、地球同様、サービス業に従事する人達や、私達が囚われ...寝泊まりしている王城で働く人達は休む事無く働いている。専属メイドのマリーに聞いたところによると、交代で休みを取っているみたい。でも、いつも働いてるよね?...かなりブラックなんじゃないかな?
「はいよ〜。優希、今準備するからちょっと待ってて〜」
「早くしてよ〜」
来る日も来る日も魔物と戦い、座学や訓練に身も心も疲れきってきていた。
私達は、まだ良い方、かな。
クラスメイトの中には、精神的に病んでしまった子もいる。そんな、部屋に閉じ篭もっている子を先生がケアして回っているのが現状だ。
この世界、ユルクには便利な魔法というチカラがあるが、万能では無いんだなって改めて気付かされた。地球に居た頃に持っていた魔法という言葉のニュアンスが、コッチに来てから大きく変わった気がする。勿論悪い方に、だ。
そんな中で、今度ダンジョンと呼ばれる魔物が巣食い、無限に湧き、財宝や貴重な魔法道具や武具が得られる場所に遠征に行く事となった。
今回私達が行くダンジョンはC級で、周りにはダンジョンの恩恵を基盤とした都市が形成されているらしい。
正道なテンプレで、異世界モノの小説でも度々登場する、ダンジョン都市だ。私がリアルに訪れる事になるなんて...それこそ悪い夢のよう。一部の男子はテンション高めだったけど、本当に危機感が足りていないと思う。これはゲームじゃ無いのに。
死んでもコンテニューなんか無い。
気の利いた宿屋でセーブも出来ない。
行き詰まったからといって、リセットボタンを押せる訳じゃない。
私達は、常に薄氷の上を歩かされているのに。
「は〜る〜み〜!また難しい顔してるよ!
どうせ、ダンジョンの事考えてたんでしょ?」
「あ、分かった?」
「バレバレだよ。どんなに考えても、行く事は決定でしょ?今は、か、い、も、の!」
「ゴメンって。よし!準備オッケー!行こっか、優希」
「もう!よし、行こ!買って買って買いまくるぞー!」
「おーー!」
私と優希は王城を出て城下に広がる王都の、商店街となる商業区へと向かって並んで歩く。
流石に王都と呼ばれるだけあって、人が沢山歩いていて賑わっている。
私達は、通りにある出店や商店を冷やかしながら、あまり薄暗い路地に入り込まないよう気をつけつつ散策を続ける。
「あ!見て見て、あの盾可愛くない?」
「え〜、アッチのショートソードの方がカッコイイよ〜」
「ああ!あのポーション綺麗なレインボーカラーじゃん!どんな効果があるんだろう?気になる〜」
......私達2人も、だいぶ染まってきたな、という事は否定出来ないかな。
優希、その右手に持ってるレインボーカラーのポーションはやめとこ?絶対ヤベェやつだよ、ソレ。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん達。良かったら見てってよ」
そう声を掛けられ、店内に2人で入って行く。
客引きのおば...ゴメンなさい。お姉さんのお店はオシャレな雰囲気の雑貨店で、棚には女の子が好きそうな小物が並んでいた。
「あ、これ可愛い。買おっかな?」
「どれ?ホントだ〜いいじゃん、優希に似合うよ」
私達は、日々の魔物狩りの報酬をちゃんと貰っているので、それなりにお金は持ってる。
ただ、それが適正金額かどうかの判断はつかないのだけれども。
優希も私も、店内の棚を興味津々で見たり、手に取ったりして買い物を楽しんでいた。
優希が何かの皮で出来た可愛らしい巾着と、木製のバレッタを、私は一目惚れしたコバルトブルーの石が綺麗なペンダントを夫々購入する。
「毎度あり、お釣りだよ」
「ありがとうござ...え!?」
「どうしたの、春海?」
「なんだい、お嬢ちゃん。お釣りは合ってるだろ?」
「え!?あ、いや、はい。お釣りは合ってるので大丈夫です。
店長さん!一つ、聞いても良いですか?」
「?なんだい、どうかしたの?」
この店長さんの手から...
「春海?何がどうしたの?ちゃんと説明してよ」
「うん、確認してからちゃんと説明するよ」
これは、もしかしたら、もしかする。
「店長さん、店長さんが使ってるハンドクリーム、何処で売っているか教えて下さい!」
「え!?ハンドクリーム...もしかして!?」
「あら、気付いた?良い香りでしょ。
お嬢ちゃん達は買い物してくれたから、特別に教えてあげる。
これはね、あの有名なガルトラム辺境伯が治める辺境都市ガルトで、私の姪が買って来てプレゼントしてくれたのよ。
確か...〈気まぐれ猫〉っていう変わった名前の屋台で買ったとか言ってたわね。
ハンドケア体験、っていうのをやってもらったら手が凄く綺麗になったって自慢してたわ。
1人2個しか買えなかったらしいんだけど、あっという間に完売して、次回入荷はまだ未定の貴重な物なのよ」
私の手も綺麗でしょ、という店長さんの言葉が頭を通り抜けていくが、私の中では1つの疑念が、確信に変わろうとしていた。
「その屋台、〈気まぐれ猫〉の店員さんの名前って、分かったりしますか?」
「え?名前...聞いたような気がするけど......あぁ、そうそう、確か、
〈アキサメさん〉
姪はそう言ってたかね。中々の男前で、丁度お嬢ちゃん達みたいに黒髪黒眼の20代に見えたみたいでさ、姪もカッコ良かったって言ってたよ」
ビンゴ!!
「店長さん、ありがとうございました!
優希、行こ!」
「え?あ、うん。ありがとうございました」
「またおいで〜」
私達は急いで店を出ると、近くで落ち着いてお茶を飲める店を見つけだし、無理を言って奥の個室を使わせてもらった。
「で、春海。説明してくれるんだよね?」
勿論。
「うん。優希、落ち着いて聞いてね。
さっきの店長さんが使ってたハンドクリームはさ、絶対地球のハンドクリームだよ。
ユルクでハンドクリームは見た事も、使ってるって話も聞いた事無いし。基本は薬草を擦り潰して塗る感じか、魔法で治すのがユルクのハンドケアなんだって。
もしかしたら、新しく開発されたのかも知れないけど、だったら王城の人達が率先して使うだろうから、その線は薄いと思う」
「それもそうだね。じゃあ、店長さんの姪御さんが買ったっていうのは...」
「そう、あれは、絶対に地球産」
「やけに自信があるね、春海」
「うん。あの香りはね、有名な〈KumA〉のハンドクリーム。しかも、非売品の物」
「え?〈KumA〉ってあのめっちゃ人気で中々手に入らないヤツ?でもなんで春海は、非売品の香りが分かるのよ?買えないんでしょ?」
そう思うのが当たり前だよね。でも、私はあのハンドクリーム、使ってたんだよね。
「その答えが、店長さんの言ってた〈アキサメさん〉だよ」
「屋台の店員さんだっけ、確かに日本人っぽい名前だけど、小国郡の中に日本みたいな名前を使う国があるって、この間座学で教わったよ?そこの国の人かも」
「たしかにね。でもね、優希。
私、実はそのハンドクリームを、地球で使ってたんだ。
昔から結構肌が弱くて、親戚のお兄ちゃんが態々〈KumA〉で仕入れてくれて、プレゼントしてもらってたの。
ずっと使ってたハンドクリームだから香りも間違えるはず無いし、何よりもさ、
そのお兄ちゃんの名前、御堂院 秋雨って言うの。
今は護屋 秋雨だけどね」
「.....じゃあ、そのアキサメさんも〈異世界召喚〉の被害者で...あれ?なんでハンドクリームを売る程所持してるんだろ?」
「それは...分からないけど、もしかしたら、そういうスキルを持ってるのかも」
秋雨お兄ちゃんなら有り得そう。
「うわぁ...それは羨ましいけど、変なのに目を付けられそう。大丈夫?」
「...ううん、それは、1000%大丈夫だと思う」
「え!?何、その自信?どんな根拠があるの?」
それはーーー
「秋雨お兄ちゃんってさ、おそらく地球で一番強いんだよね。誇張も冗談も抜きで、一番。
たぶんだけど、ユルクでも一番強いと思うよ。
この国の軍隊全員と私達勇者が束になって襲っても、汗一つかかずに殲滅出来るくらいには、最強」
「.......................................マジで?」
「
「春海の親戚のお兄ちゃんって、
「...............................確か、サラリーマン?」
「地球上最強の生物がサラリーマンって」
事実だから、しょうがないし。
(秋雨お兄ちゃん、
ユルクの皆さん、間違っても秋雨お兄ちゃんを怒らせないで下さいね。絶対ですよ?
貴方達は、御堂院 秋雨という人間の恐ろしさを、本物の御堂院を、知らないのだから)
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