ルーチェと優しい植物魔法。

 小休憩の後、マカロンに乗り込み走り出した私達一行は、のんびりとドライブを楽しんでいる最中。


「ある〜ひ♪もりのなか〜♩クマさんに〜♪でああった〜♪」


 車内にはリズが車内に流れる音楽に合わせて歌を歌い、ステラが現れてルーチェと一緒に手(?)拍子して楽しむ。

 カメリアさんはそんな光景を微笑んで見守り、つき君は助手席で爆睡中。


「平和ですねぇ。良い事です」

「ですね、アキサメさん。何か起きても困りますけど...」


 そう言って苦笑いするルーチェは、運転席の後ろの席で勉強を再開する。

 レオン邸から持ってきた本を読んでいるらしいです。真面目な性格の彼女が今読んでいるのは、【植物魔法基礎〈上巻〉】。

 エルフである母親のサーシャさんから基礎的な魔法の教育を受けているルーチェ。サーシャさん曰く、魔力量も多くセンスも良いとの事。私だけにこっそり、『もしかしたら、ルーチェの親はかなり上位の魔法使いだったかもしれない』と教えてくれました。それほどの才能なんですね...まぁルーチェはルーチェですから気にしませんが。何かのトラブルに巻き込まれるような事があれば...ふふふ、ご安心ください。

 で、少し脱線しましたが、基礎魔法とは別に固有魔法というものがあり、この固有魔法は種族特殊魔法、と言えば分かりやすいのですが、要は獣人族だったら身体能力を大きく上昇させる魔法や、有翼種なら飛行を補助する飛行魔法だったり。魔族も種にもよるが全般的に魔法を使うのが得意で魔力量も多い傾向だとか。

 で、人族は才能が無いと魔法を使う事が出来ない。だいたい、全体の5割くらいしか使えない上に、使える人間の中でも中級の魔法を使えるのは更にその半分くらいだとか。種族的に魔法との適性が低いのでしょう。

 ただ、量はともあれ魔力自体は全てのヒト族に備わっているので、私が購入したカセットコンロの魔道具のような物は使える。だから、庶民の皆様はそんな些細な事は気にしない。庶民以外は...まぁ、想像の範囲内でしょうね。世界は違っても人間は人間、ですから。

 おっと、植物魔法の事でした。

 植物魔法はエルフを含む妖精族の固有魔法で、主に植物を操作したり植物の育成を促進させたり。なんだか、小説なんかで登場するエルフのイメージぴったりで少し嬉しく思ったのは内緒です。

 ルーチェはこの植物魔法が少し苦手な模様。サーシャさんからすると、幼い頃から森で生きる、若しくは自然と共存出来る環境で育っていない為、イメージ構築が他のエルフよりも劣っているとか。

 ルーチェの生い立ちを考えれば納得できる考察で、その対策として、本からの知識の吸収と、自然との触れ合いの時間を意図して作っていく事が良いらしい。今回の家族旅行でもそういった時間を取れるようにしていくつもりです。

 なんかいいですよね、植物魔法って。

 他の魔法を否定するつもりはありませんが、植物魔法は破壊とかそういうイメージとは真逆の優しい感じがするというか、生命を育む、みたいな神秘的なイメージが私にはあるので、余計にそう思うのかもしれませんが。森林浴とか好きでしたしね、地球あっちにいる時も。


 まぁ、魔法を使えない私には、魔法を使える事自体が羨ましくはありますがね。


「う~ん...難しいなぁ。植物を操る、かぁ」

「難しい、ですか?ルーチェ」

「はい、アキサメさん。魔法書には〈植物に呼び掛けて発動者の意のままに植物を操る〉って書いてあるんですけど...。意のままって、部分が理解出来ないというか、納得がいかないというか...」

「成程。ルーチェはその〈意のまま〉、という部分が引っかかるのですね?」

「はい...。なんだかこちらの都合ばかり押し付けている、というか呼び掛けているのに、意のままって...何だか命令してるというか、そんな感じがしてしまって。植物だって生きているのに、こちらに強制されてしまう魔法なんて、違うんじゃないかなぁって思うんです」


 ふふふ。優しい子ですね、ルーチェは。

 植物を強制させる事に忌避感を覚えてしまって、魔法が上手く発動しないんでしょうね。

 確かに、意のままに操る、なんて隷属させているようなものですからね。


「ルーチェ。私は魔法を使えませんが、1つだけ。

 植物魔法っていうのは、植物を意のままに操るだけの魔法なのでしょうか?

 私のイメージする植物魔法は、少し他の人とは違うかもしれませんが、とても、〈優しい魔法〉なんです」

「優しい、魔法ですか?」

「ええ。とても優しくて、慈愛溢れる魔法です。


 ルーチェの言う通り、植物だって生きています。

 私達ヒト族なんかよりも遥か昔から、この世界に根を張りゆっくりと広がってきました。私達人族は長くて100年、エルフ族だって幾ら長いといっても植物達が紡いできた歴史の中では、瞬きをするほどでしかないでしょう。

 確かに、植物は話さないし、動く事もありません。中には動く木の魔物もいるみたいですが、それは別枠でしょう。

 植物達は、私達を含めた動物達に沢山の恵みを授けてくれます。

 先程の休憩で食べた和菓子だって、植物の、自然の恵みで出来ているのですよ?


 暑い日差しから私達を守るようにその枝や葉を精一杯広げて。

 私達が厳しい冬を越す事が出来るように実りを分け与え。

 凍えてしまわないように自らの枝を落として薪として焚火に焼べさせる。

 暖かい日差しを見上げた時に見えるように花を咲かせて待つ。


 私は、優しいと思えて仕方ないですよ。

 そんな植物に呼び掛ける事が可能なら、私だったら、


 先ずは、〈ありがとう〉って伝えたいですね。

 やって欲しい事があるのなら、〈手伝ってください〉ってお願いします。


 ルーチェ。私は魔法は使えません。

 でも、植物や自然への感謝の気持ちは常に持っていますし、もちろん恩恵にも与っています。


 もしも、魔法が使えたら。


 良き隣人に感謝を伝えたいと、心から思います。


 だから、植物に呼び掛ける事の出来る植物魔法って、優しいなって、心から思うのです」


 バックミラー越しにルーチェに微笑みかけると、一瞬キョトンとした後に、翠玉色エメラルドグリーンの瞳の少女は、花が咲いたように笑う。


「はい!私もそんな魔法は、とっても優しいと思います、アキサメさん!」


 バックミラー越しの少女ルーチェの肩に座っている小さな小さな透き通った女の子が、その小さな手を優しく振って、微笑む。







《ありがとう、異世界人お客様

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