◉アキサメは、勇者のようで、魔王みたいな自称商人で、人誑しなんだよ。そんな友人をもつ儂は、なんて果報者だろうな。
この辺境の地、ガルトを治める一族の3代目として生を受け、祖父は、
特に儂自身に特別なものがある訳でも無い。
祖父の名前に、偉業に引き寄せられた人々と共に、祖父、父、そして儂。3代に渡り地道に、内政に取り組み、街を築いてきた。
祖父のような武力も無いので、事あるごとに、先頭に立つ事を心掛け。
父のような賢さも無かったので、市井を巡り領民達に頭を下げて話を聞かせてもらった。
引き継がせた爵位は、愚息の行いにより破綻しかけたものの、古くからの友人の手助けもあり、なんとか可愛い孫に残す事が出来たのは不幸中の幸いだっただろう。
そして、領主代行となって仕事を始めたその日の内に、ガルトが
不器用な儂には、やはり、前へ出る事しか出来ない。家に戻り、久方ぶりに身に着けた鎧は、気が付けば傷だらけで。
何事かと慌ててやって来たサーシャを優しく抱き寄せ、涙目のルーチェの頭を撫でる。
『心配するな、今日も皆で美味い晩飯を囲むぞ。とっとと終わらせてくる』
そんな言葉しか掛けてやれん、不器用な儂を許しておくれ。
家臣団と共に戦線に突入するも、状況はかなり深刻で、このままでは、と誰もが視線を下げる。
儂は、知っていた。
この状況を打破出来るであろう男を。
御伽噺の勇者のようなスキルを持ち、
伝承される魔王のように恐ろしいまで理不尽に強くて、
人の幸せを願う、根っからの善人で、
変わった商品を扱う、自称商人で。
『レオンさん』
「.......アキサメ...すまん」
『違うでしょう?』
「ふふ。そうだな、違うな。
アキサメ、頼む。
儂の大事な、この街を、領民を、家族を、守って欲しい。
あの
『御意に』
こんな儂の事を、友人だと言ってくれる。
「総員退避せよ!!者共、退がれぇえ!」
翠揃えの家臣達が、敬礼をする。
アキサメが空を掴むと、一振りのカタナが握られており。
女冒険者と少し話した直後、
それからは、圧倒的だった。
あの、
そう、解体。
各パーツ毎に、丁寧に、1つずつ。
まるで、肉屋が部位毎に肉を捌いているかのようにな。
最期の断末魔を上げる
誰もが、歓声や勝鬨を上げる事すら出来ずに、ただただ、その光景を観ていた。
その為か、アキサメの呟きが、少し離れた儂にも聞こえてしまった。
『たわい無い。期待外れの蜥蜴が』
アキサメが振り返り、儂の方へと歩いてくる。
途中、手にしたカタナを空に翳すと、カタナは黒鳥となり、空へと舞い上がり消え去った。
『終わりましたよ』
「...なぁ、アキサメ。やっぱりお前、魔王だろ?でなきゃ勇者にしとけよ」
『嫌ですよ、面倒臭い。そういうのは、主人公の役割ですよ。
それと、あの
「...どれだけお釣りがくるんだか」
『迷惑料として貰っておけば良いんですよ、そんな物。
あ、私、
「は?無理だろ。どう考えても国から褒美が出るぞ?何なら爵位も」
『要りませんよ、私、商人ですから。
あんな
「お前、ガルトラム家を全否定するなよ...。
それと、そろそろ自称商人は通用しないぞ?」
『誰が自称ですか、誰が。
兎に角、後は任せましたよ、レオンさん』
こいつ、丸投げするつもりだな?
『それに。
私は、
レオンさんやこの数日の間に知り得た人々が、私にとって、手を出すに値した。
そう思わせるような素晴らしい街づくりを一生懸命に努力してきた皆さんが居たからこそ、この結果を掴むに至ったのですよ。
私が居たから、ラッキー?
違います。
私に頼むのが、心苦しい?
違います。
私1人の成果?
違います。
レオンさんが、家臣の方々が、冒険者達が、街の皆さんが。
この街を大事だと、守りたいと、願う気持ちが、この結果を呼び寄せたのです。
だから、私が、賞賛されるべきでは無い。
剣先を無くしても、相手に斬り掛かる勇敢な翠揃えの騎士達に。
街を、人を守りたいと、ボロボロになっても誰よりも前に立ち続ける、優しい荒くれ者達に。
そして、
その傷だらけの不恰好な鎧で、最後まで下を向かず、決して目を背けない、私の数少ない友人に。
心から、敬意を表します。
さあ、レオンさん。勝鬨を』
勇者のようで、魔王みたいな、
面倒臭い事が嫌いな自称商人。
それでいて、相変わらずの人誑し。
そんなアキサメは、儂の、大切な友人だ。
「儂達の勝利じゃあぁぁあッ!!!」
ーーおォォォォォォォッ!!!!
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