邂逅。...招かれた存在が届ける、約束。〈⚠︎ひらがな注意〉

 竜襲来から3日が経ち、壊れた建物や石畳、外壁などを修理する者達でガルトの街が賑わう。


 絶望的な出来事から一転して、『やはりガルトは竜討伐者ドラゴンバスターの街』『この街は俺達の誇り』『英雄の孫は、やはり英雄』などと、昼間の作業が終わると酒場で連日どんちゃん騒ぎが開催されている様子。

 まぁ、仕事をこなした後で、翌日まで持ち越すお馬鹿さんはいないので、良いと思います。


 私が、とかそう言った話は出ていません。

 あの場に居た冒険者や騎士、レオンさんは今回の事を『ガルトの勝利』と位置付ける事で終息させた。

 また、エリスさんは吟遊詩人を雇い、今回の竜討伐を各地で歌にして情報の拡散を指示。

 下手な詮索をされる前に、ガルト防衛の英雄譚を、大公妃殿下のお墨付きとして情報操作を行った。勿論、私の名前など上がらない。


 まぁ、酒場が賑わう要因のひとつは、レオンさんが、ドラゴンの素材売却益で飲食代を復興が終わるまで賄うと、豪語したからでしょうね。

 泡銭の使い道としては、1番効果的だったと思いますしね。

 



 そうそう、事の顛末としては、アレを呼び寄せたのはロイロではありませんでした。

 ロイロの友達(?)の〈音ちゃん〉さんが念話で教えてくれたのは、飛来して来た竜ではなくて、別の存在。

 因みに、ドラゴン位なら、音ちゃんさんは無双出来るらしい。襲撃の際は、ミリィ兄妹を守っていたみたい。ありがとうございます、音ちゃんさん。

 でも、どうやら今回のオルゴール販売や、音慈さんの例のペンダント絡みは、音ちゃんさんが関わっていたようで。


 .....音楽神様ですよね。そりゃ無双出来るでしょうよ。

 このガルトに加護と祝福を与えたい存在が居たので、ロイロに手伝ってもらったと。

 ...ミリィの幸せが安泰みたいなので良しとしました。


 まぁ、何だか上手く踊らされた感はありますが、流石にドラゴンは、ロイロとしても予想外だったみたい。今は殊勝なことに、自分の空間部屋を掃除しています。


 そして、もうひとつの予想外


《あきさめ〜、ひまだな〜》


 これ、私には言葉として聞こえてますが、例えば、今、目の前でお勉強中のリズには、


「メェ〜、メェ〜」


 と、聞こえている筈です。


「静かにして居なさい、リズの勉強の邪魔でしょう。それとも...」

「メェ!?メェメェッ!」

《むぅ!?おくちちゃっく!》

「もうちょっとだけ待ってたください!おわったらステラちゃんといっしょにあそびましょ!」

「メェ〜!」

《おけ!》


 大きさはリズと変わらない位で、地球の携帯ゲームで出てきそうな可愛らしいモコモコのフォルム。

 ユルク人もビックリする程のウルトラピンクのその姿では何処に隠れようともバレる事間違い無し。

 そりゃドラゴンも上空からこんな小さい獲物に気付くはずだと納得。


 良く今まで誰にも気付かれずに生き抜いたものですね、この


 そう、この生命体、仮の姿らしいのですよ。

 、この姿でいるだけらしく、色々なバリエーションがある模様。本人(?)曰く、


「メェ〜メェ〜、メェ〜!」

《いちばんで、あいされきゃら!》


 それを聞いた事で、違う姿を見せてもらう気持ちが一気に無くなりました。

 まぁ、世を忍ばないならどんな姿でも良いでしょうからね。

 出会って直ぐ、念話で話しかけられたので、一応、互いに自己紹介は出来ました。


 一応、ね。


「貴方は、お名前はありますか?」

「メェ〜!」

《もち!》

「私は護屋 秋雨...失礼。アキサメ・モリヤ、と言います。以後お見知りおきを」

「メェメェメェ、メェ〜メェ!メェ!」

《つきはつき、おりじんだ!よろ!》

「つき、さんですか。よろしくお願いしますね。後、オリジンとは?」

「メェ〜?メェメェメェ〜、メェ〜メェメェ」

《げんしょ?のすらいむなり〜、みどーいんのこせがれ》

「!!?...何故、貴方が御堂院を知っているのですか?」

「メェメェメェ〜?メェメェメェ?」

《つきのともだちのともだち?それってたにん?》

「友達の友達?知り合いが御堂院だったと?」

「メェメェ?」

《たぶん?》

「疑問系で返されてもねぇ...面倒臭いので始末して...」

「メェ!?メェメェメェ〜!メェメェメェ!」

《こわっ!?だれかたすけろ〜!とおりまがいる!》

「誰が通り魔ですか。御堂院がスライムと縁があったなんて初めて知りましたよ」

「......」

《......》

「ん?どうかしましたか?つきさん」




《ちゅーしゅーのめいげつってしってるか?》


 急に念話のみで話し掛けられる。

 内緒話でしょうか?中秋の名月?


「ええ、知ってますよ」

《そっか。なぁ、あきさめ。だいふくくいてーな》

「大福?何でまた急に?」

《なにだいふくがすきだ、あきさめ?》

「えぇ?あぁ、そうですね...全般的に好きですが、1番好きなのはですかね」

《そっかぁ、そーだよなー。うんうん、あれはうまいよな》

「つきさん?」


《あのな、あきさめ。

 よく、きいてくれ。


 おまえがみどーいんをきらうきもちなのはよくわかった。

 つきのしってるみどーいんとおまえのしってるみどーいんは、にているようでちがうかもしれん。

 どんだけちがうかは、つきにはわからん。


 でもな、あきさめ。

 よく、きいてくれ。


 ものごとのほんしつをしっかりみないとだめだぞ?

 うわべだけみていては、みあやまるぞ?

 こーかいするぞ?


 きづいたときには、もうおそい。

 なんてくやしい、ことだろうな。

 きづいたときには、もうだれもいない。

 なんてかなしい、ことだろうな。


 おまえたち、にんげんは、

 そして、それがまた、いとおしい。


 おれのはじめてのともだちは、にんげんだった。

 うれしいと、

 たのしいと、

 やさしいと、

 おいしいと、

 おもしろいと、

 しあわせと、


 かなしいと、

 さみしいを、おしえてもらった。


 ともだちのともだちのみどーいんはな、


 すげーつよくて、

 やさしくて、

 かっこよくて、

 おこるとすげーこわくて、

 だいふくがすきで、

 こーひーをつくるのがうまくて、

 ちょっとぶきよーで、

 わらったかおが、だんでぃで、

 おちゃめだったよ。


 つきは、すきだったぞ、みどーいん。

 は、いけおじ、だからな。


 なあ、あきさめ。

 おしえてくれよ。


 おまえは、みどーいんがほんとーにきらいなのか?

 それとも、

 みどーいんがきらいなじぶんがきらいなのか?

 もし、そうなら、


 さみしいな。

 かなしい、な。


 じぶんのことは、すきじゃなきゃだめだぞ?


 みどーいんをいーわけにすんなよ。

 かっこわりーぞ。


 つきのともだちのともだちを、わるいみたいにゆーのは、ゆるさん。


 そんなかっこわりーことは、は.....たぶん、しない...しないよな?



 いじょー、つきでした!》



「...............」


 出会って5分。私は、私の根幹に関わる話を、謎の生命体スライムに指摘されてしまい、言葉を失ってしまいました。


 そして、次の一言を聞いた時、

 何だか分かりませんが、温かみのある風景と、穏やかな複数人の笑い声が聴こえたような気がして、

 不覚にも、


《みどーいんでなやんでいるこわっぱがいたら、そーつたえてくれって。

 

 いいよー、ってつきはやくそくしたからな。


 ちゃんと、やくそくはまもったぞ、しぐれ。


 じかんがかかってしまったけどなー》



 勝手に、涙が流れて、しまって。


 止まらない。


 

 


 


 

 

 

 


 



 

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