◉荒くれ者達の頌歌...近くて遠い道のりの果て
私はそれを、悪い、夢だと思った。
いや、悪い夢なら、早く醒めてくれと、神に祈っていたのかもしれない。
目の前に突如現れた、理不尽の権化が、その牙を、爪を、尾を、吐息を。
私達の築いて来た街が、その度に破壊される様を見ながら、記憶が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
私の住むこのガルトの街は、言わずと知れたあの有名なキリュウ・ガルトラムが
この話なら、ルーク王国は勿論、近隣諸国でも知らない人は居ないのでは無いかと思われるほどで、絵本や演劇の題材にもなっている。
その為か、剣の腕に自信のある者や、偉人に憧れて剣を手に取る者、英雄を夢見て冒険者になる者が数多く訪れる。
私だって、そんな子供の頃に読んだ英雄譚に憧れて、この街に来た1人だ。
この街は、噂や評判が先行していて勘違いされやすいが、活気に溢れており、発展していて、それでいて住人の気性も穏やかで犯罪も少なく、とても住みやすい。領主、いや、先代領主様である、レオン様、先々代、そして初代キリュウ様が先頭に立って街づくりをされた結果だと、住人は揃って口にする。
私のような他所から来た者でも、差別や偏見の目を向けられる事は無い。皆が平等に扱われるなんて、大貴族の領都では考えられない。そう言えば、この街の特異性が伝わるだろうか。
先代領主レオン様は、碌にお供も付けずに市井に顔を出しては杯を傾け、私達に言っていた。
『
こんな人格者に、着いて行かない人間なんているのだろうか?
私は、俗に言う荒くれ者の冒険者、だ。街の発展に寄与するような存在なんかじゃない、そう思っていたのに、レオン様は、
『冒険者達が、外壁の外に出て魔物を狩ってくれるから、俺達は今日も安心して家に帰る事が出来る。家族と楽しく食卓を囲む事が出来る。友人とゆっくり酒を飲む事が出来る。安心して眠りに就く事が出来る。これらは、お前達冒険者と呼ばれている、優しい荒くれ者達のお陰だよ』
と、はっきり言った。
冒険者は、どの街でも低く見られてしまう。所詮は、荒くれ者達の集まり、と。
でも、レオン様はそんな私達を、優しいと言う。冒険者に1番似合わないその褒め言葉が、私は、今まで歩んで来た冒険者人生で、1番嬉しかったのだ。
何度も、何度も。街が苦境に立たされる事はあったが、その度に、普通は有り得ないのだが、レオン様はその翠の騎士鎧に無数の傷を刻みながら先頭に立ち続けた。私達は、そんな後ろ姿に鼓舞されて、街を守り続けてきた。
代替わりして、ケイン様が領主となられてからは、比較的平和でそういった荒事は無かったし、ケイン様はレオン様と違い、どちらかと言えば貴族らしい方だった。
それでも、レオン様が居る限り、私達の気持ちが変わる事など無かったのだ。
「まだ、だ...私は、まだ...」
まだ、諦める訳には、いかない
「駄目だ...そっちに、行く...な!...」
1人でも、多くの命を、守るのだ
『総員退避せよ!!者共、退がれぇえ!』
「敬礼ィィ!」
レオン様、何を!?翠揃え達は、何を、何故、
『ーーーーーーー、ーーーー、ーーー』
とても、この場に似つかわしく無い優しげな顔をした男が、少し先、
その直後、やけに鮮明に見えた光景と、明瞭に耳に響く言葉に、私は不覚にも。
ーーザシュ!!......ズドンッ!!!
『これで、逃げれないな、
果ての無い、英雄への道のりには居ない、詳らかにされた足り得ない自分の実力に、
直ぐ後ろに在る、大切なモノの元へと帰る道のりが、切り拓かれた事実に、
その、紛う事なき英雄譚の一節が齎す、希望に、
涙が止まらなかった。
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