招かれざる客と、招かれざる客。〈⚠︎秋雨最強!注意〉
あゝなんという事でしょうか。
先程まであれほど賑わっていた屋台通りは、突然現れたソレによって、阿鼻叫喚の巷と化して。
泣き出した赤子と小さな箱を抱き抱えて、必死に逃げる母親。
昼前にオルゴールを購入して頂いた老夫婦は、互いに手をしっかりと握り締めながら、老いた足を、前へ前へと繰り出す。
逸れた子供を探して叫ぶ父親が、逃げ惑う人々の流れを逆らって進み、その喉が枯れようが、血反吐に塗れようが見つけ出すと、その声に思いをのせて。
少し先では、駆けつけた、武力を生業にする
レオンさんは、家臣に
エリスさんとカイン君には、リズを預けて避難してもらう事にしました。
「アキサメ!本当に避難しなくて大丈夫なの!?今、レオンが戦況を整えに走ったわ!アキサメも一緒...に!?...」
逃げて。そう言ってくれる人が、居ると思うだけで嬉しい。そう、嬉しく思います。
ですが、私には、出来そうにもありません。
少々、消化不良だったのは、否めません。
今日は、少し感情的になってしまいます。
箍が外れた桶のように、私の身体で縛ってあるモノが飛び出してきそうで。
そんな時、優しい人達に助けられているような。
少し、スッキリしないのですよ。
鬱憤が溜まる、と言えば近いのでしょうか。
兎にも角にも。
この秋晴れの様に、晴らさせてもらいます。
私が楽しく商うこの街を。
私の屋台に来店される大事なお客様を。
私の関わった数少ない友人を。
私の守るべき大切な家族を。
よくも、怖がらせてくれましたね?
「大丈夫。もう大丈夫。安心して避難して下さい、リズ、エリスさん。カイン君、2人をしっかりと護りなさい」
「...分かったわ」
「お父さん...わかりました!」
「ハッ!必ずや」
その返事を聞いた私は、未だ逃げる人々の流れに逆らう様に歩き出します。
ーーカツン、カツン、カツン...
まるで、私の存在など見えていないかのように、私を避けていく人々。川の流れを割るように、前へと進み。
石畳が鳴らす跫音だけが、私についてきます。
ーーアキサメ、ごめんニャ...もしかしたら、私の
「ふふふ。安心しなさい、ロイロ。
大丈夫。私が居るから、心配無い。
ロイロには特別に、
産まれた時から一緒に居る、ロイロだけの特権ですね」
ーーアキサメ...ありがとニャ...(秋雨様の...私だけの、特別)
「さて、と。見えて来ましたよ、矢鱈と図体だけは大きい蜥蜴風情が」
それは、このユルクに於いて、生態系の頂点に君臨する存在...らしい。
「クソがぁ!?」
「硬過ぎるんだよ!うわあっ!?」
「避けろ避けろ避けろ!!〈
「魔法使いっ!!〈
ーー〈
《グルァァァァアア!!》
ーーパリィィンッ!パリィン!...
吐き出された奔流は、魔法使い達によって創り出された障壁とかいう多彩な色彩の光の壁を1枚、また1枚と破り砕きながらこちらへと向かってくる。
迎え撃つように新たな攻撃を仕掛ける、見慣れた赤い髪をした冒険者が。
「させるかよぉぉーー!!〈爆砕撃〉ィィ!!」
ーードゴォォン!!......パラ、パラパラ、パラ...
「クソがぁーー!!」
《ガアァァァアーー!!》
一意奮闘するが、及ばない。
もはや悪戦苦闘の戦況は、次第に戦線の後退を余儀無くされ始めて、
「下がるな!下がるんじゃねぇ!!後ろには大事なモンがあるだろうがっ!」
「クソッ!なんでだよ!なんで、こんなヤツがガルトに来るんだよっ!!」
「アタイは守るんだ!
『総員突撃!!』
ーーウォォォォォォォッッ!!!
その時、翠揃えの騎士達が現れ、一際豪華な装飾の、それでいて傷だらけの甲冑に身を包んだレオンさんの号令で、走り出す。
「騎士団だ!先代様もいらっしゃるぞ!!後に続けぇぇえ!!」
「負けるもんかぁー!」
「撃て撃て撃て撃てぇーー!!」
街を、友を、家族を、大切なものを守るべく振るわれる力の、美しさ。
それでも、辿り着く事の出来ない、儚さ。
「クソッ....バケモンめ...」
「ァア...負ける...訳には...いかないん...だ」
「チクショウ!なんで、なんでオレは弱いんだよぉぉ!!」
「まだ、だ...私は、まだ...」
皆さんが、力を合わせて勝てるのであれば、私は、必要無い。
現に、レオンさんも私に気付いていましたが、視線を寄越す事は無かった。
それは、レオンさんの優しさ。私に対する気遣いでしょう。
友人とは、片方に頼りきる関係では無くて、肩を並べる存在だと、言いたいのでしょう。
でも。
もう、無理。
苛苛してきましたから。
あの蜥蜴の、勝ち誇ったような、醜悪な、嗤っているような面に。
「レオンさん」
「.......アキサメ...すまん」
「違うでしょう?」
「ふふ。そうだな、違うな。
アキサメ、頼む。
儂の大事な、この街を、領民を、家族を、守って欲しい。
あの
「御意に」
ーーカツン、カツン、カツン、...
満身創痍の者達の間をゆっくりと縫うように、最前線へと向かう。
時折、私に気付いた冒険者達が、驚いた顔を見せ、
「オイ!兄ちゃん、逃げろ、逃げてくれ!」
「駄目だ...そっちに、行く...な!...」
私を心配してくれる、優しい、荒くれ者達。
その時、背後からレオンさんの号令が。
『総員退避せよ!!者共、退がれぇえ!』
バッと、弾かれたように戦線を離脱する翠揃え達は、私の前に来ると左右に分かれて整列し始めた。良く見れば、レオン邸で見かけた顔もちらほらとある。
その手に持つ、欠けた、或いは刀身を失った騎士剣を逆さに持つと、その手を胸の辺りに運ぶ。
「敬礼ィィ!」
ーーザッザッ!
揃いのブーツで、石畳を踏み鳴らす。
私は、そんな彼らの思いに応える可く、左手を秋空に向けて、喚ぶ。
「来い。
何の兆候も無く、現れた一振りの刀は、漆黒の鞘に納まっており、過度な装飾も無ければ、一見して業物の類いにも見えず。
「ァ、アキサメさん?ダ、ダメだよ、危ないから逃げて」
身体中のあちこちから血を流すカメリアさんに、私は優しく伝える。
「私は、改めて、椿の花が綺麗だと思えるようになりました。カメリアさんには感謝を。
貴女方が、その身を投げ打ってでも、守りたいと願う、その御気持ちに敬意を表します。
ですが、貴女様も、他の皆様も。
人生は、まだまだこれからです。
沢山、幸せにならなくてはなりません。
ですので、この場は、どうぞ私にお任せ下さいませ。
美味しい煮込み料理を教えて頂いたお礼も兼ねて、そこで怯え震える
良く、頑張りましたね。カメリアさんも、皆さんも」
「ア、アキサメ、さん?」
そう伝えてから、件の
無駄な事に。
ーーザシュ!!.....ズドンッ!!!
切り落とされた、その不細工な両羽は、それなりの音を立てながら辺りに砂埃を撒き散らして。
「これで、逃げれないな、
簡単に、
折角なので、私の
ちょっと、消化不良だったので。
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