秋雨の【赤】と、出来の悪い再会。〈⚠︎ワルサメ注意〉

「...綺麗な花なんだろうね、そのツバキっていう、私と同じ名前の花はさ」

「ええ、それはもう。春になればその木いっぱいに、色鮮やかで美しい花を咲かせますよ」


 既に食事を終えていた私達。

 カメリアさんは、「ゴメン、大事な用事を思いだしたから」と先に席を立ちました。

 残された私は、テーブルの上にある紙切れの【椿】という文字を見ながら、無意識のうちに誰にも聞こえないほどの声で、呟いていました。


「何を偉そうに。甘ったれた戯言を...」



 お昼御飯を終えてから、通りをぶらぶらと、色んな屋台をひやかしながら〈気まぐれ猫〉まで戻って来ました。

 遠目で見えていた、〈休憩中〉の看板には、いつの間にかロイロに悪戯された様で、猫の手のマークが押されていて。

 その横で直立不動の、おそらく私を待ち続けていたのであろう、老齢の執事風の男。

 そのすぐ側には、ひょんなことから私が保護者養父となった幼な子の実母が、まるで親の仇でも見るかのような、憎悪を宿した目で、私を射抜いていた。


―――――――――――――(ズキンッ...)


 少々、大言壮語だった事は、否めない。


 先程の、甘っちょろい戯言を吐いた自分自身の中の、消せない過去を持つ、この私が、人様に、道のりを大事にせよ、などと。


 あろうても、あろうても。

 拭うても、拭うても。


 決して消える事の無い、御堂院クソったれの、この身に流れ、流れ続ける忌々しい血筋呪いの、忌子の私が。


 私は、椿の赤い花がだった。


 その赤い花と刀が模る、御堂院の家紋が。

 【椿花ちんか】。椿の花の散るように首を落とすべし、という心得が、必殺無慈悲が。

 字面に落ちたの、私を映すその瞳が。

 永劫無極な青空を見上げては、虚しく響く鍔鳴りが、未熟な技量と、肉体と、心を、表しているかのようで。

 足下に転がるそれらが、私を、呪う。


 は――――――――(ズキッ...ン...)


―――...リン...シャリ...


―――シャリン...シャリン...


―――シャリィィン!


『其れまで。其れまでになさいまし、御館様。尚早で御座いまする』


―――――――――

―――――――

―――――

..............................................【未熟、者】。




「......嗚呼、いけませんね。私としたことが」


 目の前で震える二人に、ようやく視線を合わせる私は、少しだけ自省したものの、間が悪くて出来の悪い憎悪を向けてきたせいで、忌々しいモノを思い出してしまった事に対する不快感が大きかった為か、それを隠しきることが難しくて。


「お久しぶりです、と申し上げた方がよろしかったでしょうか?

 御宅様の門番の方には、ご縁は無かったものとさせて頂きたいとお伝えした筈ですが、何の御用件か伺っても?」


 少々、口調が厳しくなる事くらいは、許して頂きたい。

 そもそも、私にも思うところがあるのですから。


「何の、御用件で、御座いましょうか?

 特に何の御用も無いのでしたら、これから屋台を再開しますので御引き取り願いたいのですが」

「アキサメさん!ごめんなさい!」

「アキサメ殿、申し訳御座いませんでした」

「....................」


 そう、口を開いたと同時に謝罪する2人。

 何に対しての、謝罪なのでしょう。

 門番の対応、情報共有の不備が引き起こした信用問題に対する、謝罪なのか。

 お家騒動の後始末の一端を、私が担う事への申し訳無さからの、謝罪なのか。


 だからこそ、その薄っぺらい言葉を、はい分かりました、とはとてもじゃないが、受け取れる訳も無く。


 確かに、私自身、虫の居所が悪いのは認めます。

 ですが、貴女方の、その間の悪くて、伝わってこない、私なら許してくれるだろうと最初ハナから確信したような、ほんのりと口の端が上がったそのツラが。




 まるで、最期に見た、御堂院アイツ等の顔と重なってしまって、


 どうも、私を苛苛とさせて仕方ないのです。





 

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