椿の花の散り様を、私は美しく思うのです。〈後〉
「..........アタイ達の夢は、世界中を周って、見た事も無い景色を目にしたり、色んな人達との出会いがあって......
確かめたかったんだよ、自分達がどんな世界で生きているのか、この世界にどれだけの素晴らしいモノがあるのかを、さ」
俯いたまま、そう語るカメリアさんは、まるで自分自身に言い聞かせているよう。
「限界。そんな言葉が、アタイにも、レミルにもあったんだと思う。夢物語、子どもの頃読んだ絵本の主人公のように、アタイはなりたかった。
でも、レミルは違ったのかも知れない。だってレミルは、いつもアタイに合わせてくれてたからさ。
大好きな人と、幸せな家庭を築く。子どもを授かって、お母さんになって、愛する家族の為に料理を作って。
レミルは、そんな夢を、幼馴染との間に見ていたのかな」
「そうかも、しれませんね」
「親友。いつまで経っても、親友。
そうだよな、アタイは一生、レミルの1番の親友なんだ」
「そう、ですね」
「アタイだったら、親友のこんな顔なんか、見たいと思わないな。笑ってて欲しい、おめでとうって、言って欲しい」
「ええ。そう言ってもらえたら、嬉しいでしょうね」
「.........怒鳴って、ゴメン、アキサメさん」
「いいえ、先程のはカメリアさんが、自分に素直になった、そういう事でしょう。
こう言っては何ですが、カメリアさんらしかった、ですよ」
「ふふふ。何だよ、それ」
「私の故郷に咲く花で、椿、という花があるのです。
白、ピンク、赤。
その色によって、花言葉が違ったりするのですが、椿の花は、他の花とは違う、ある特徴があるのです。
1つは、花が散る時。
椿は花弁が一枚、一枚と散るのでは無く、花ごと、ぽとりと散っていくのです。
もう1つは、その花には、香りが殆ど無いのです。
これは、生きていく上で、香りを出す必要が無かったくらい、色鮮やかで綺麗な花を咲かせるから、などと伝わっています。
椿は、その花の散り様が不吉だ、などと言われたりして、忌み嫌う者もいました。
まるで断頭されたみたいだから、と。
ですが、私は、そうは思わないのです。
椿は、私の故郷の文字で、強い葉の木、と当て字をつける位、葉が強くて、どんな環境でも育つ丈夫な木なのです。
そして、寒く、過酷な冬をじっと耐え忍び、花を咲かせる木として有名で、〈春を待つ木〉と云われ、私の故郷で椿、という文字が出来たという由来もあります」
テーブルの上に紙切れを出して、漢字を書きながら、説明します。
「苦労して、頑張って、咲かせたその赤い花を、ぽとり、とその色鮮やかな姿のまま散りゆく、高潔さ。
華やかで存在感溢れるその綺麗な花を咲かせるのに対して、香りがほとんどしないその謙虚な美徳も。
その散り様までもが、ひとつの椿の在り方であるかのようで。
再び花を咲かせる為に、苦難を耐え忍ぶその芯の強さも、気高くて。
散り落ちた花は、地面の上でも、色鮮やかに綺麗に咲いたその姿のまま。
通りゆく人々の目を華やかに、楽しませ続けて。
だから、椿の花の散り様を、私は美しく思うのです」
じっと私の目を見るカメリアさんは、ふと、その瞳を隠す。
椿の花を想像しているのか、自身と椿の花を重ねているのかは分かりませんが、私は、続けて伝える。
「私の故郷に咲く花で、椿、という花があるのです。
白、ピンク、赤。
またの名を、
だから、
散りゆく花の儚さを嘆く事よりも、再び咲き誇るであろう、その色鮮やかな花の美しさを想って、日々を幸せに生きて欲しいと。
そんな生き様を、私は美しいと、思いたいのです。
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