椿の花の散り様を、私は美しく思うのです。〈中〉

ーー良くある話だよ。


 私は、冒険者ではありませんし、冒険者と呼ばれる人達との接点も少ない。ましてや、この世界では新参者。

 彼女の云う、冒険、が私の知る其れとは違うのだろう、という事しか分からない。

 小説ファンタジーで知り得る冒険者は、階級ランク分けされて、依頼ボードからその日の仕事を見つけて、未知の生き物を討伐して日銭を稼ぎ、酒場で火照った身体を労う。

 文章やアニメーションで知る概要は、所詮は主人公の為に用意された設定テンプレであって、突然、彗星の如く現れる英雄や、化け物のような強者が場を掻き混ぜる、なんて、それこそ夢物語。

 友と、仲間と、自分と。艱難辛苦を乗り越えた先に、再び立ち塞がる壁、壁、壁。

 それでも、諦めずに前へ前へと進むその原動力だった、冒険、という名の目標が、その綺麗な花ごと散り落ちようと、今、している。


 赤い椿の花は、良くも悪くも捉えられます。

 花言葉は『気高い理性』、『謙虚な美徳』、英語圏では『You're a flame in my heartあなたは私の心の中で、炎のように光り輝く』と、情熱的な一面も持っていて。

 戦国の世の日本では、武士達は赤い椿の花が散る様を、生首が落ちるようだ、と忌み嫌った。その花の赤が、血のようだと。


「カメリアさん、貴女はどう思うのです?友人レミルさんの新しい門出を、心から喜んでいるのが、伝わってきましたが」

「そりゃ、嬉しいさ。レミルは私の1番の、相棒で、大親友なんだ。嬉しいに決まってる」

「では、何で、そんな悲しそうな顔をしているんでしょう?」

「そりゃ!........いや、違うんだよ。アタイだって、笑って送り出したいんだ、おめでとうって、抱きしめてやりたいんだ....でも、」

「冒険が終わってしまうから、でしょうか。

 2人で目指してきた目標を、叶える前に冒険者を引退する親友レミルさんに、自分に、やりきれない気持ちが、僅かだけども、確かにあって。

 このまま終わってしまったら、私は、どうやって生きていくのだろう。

 独りぼっちで、相棒の居ない、親友の居ない、そんな人生に、何が在るのだろう」

「................」

「冒険、がカメリアさんの、すべて、だった。

 それしか、生きる術を知らなかった。

 怖いのではないですか?

 新たに生きていく意味を見つけた、親友の門出を祝った時の、喪失感が。

 そんな気持ちを抱いてしまう、自分自身の醜さや自分勝手な考えが。

 違いますか?」

「アンタに何が分かるって言うんだよ!!」


 ガタンッ!と、椅子から立ち上がって私を睨むカメリアさん。その手には、もう1人の戦斧相棒が握りしめられていて。


「分かりませんよ、貴女達2人の事なんですから。ましてや、私は冒険者ですら無い、ただの商人ですので。

 でもね、カメリアさん。

 私は思うのですよ。

 過去に描いた夢や目標が、志半ばで、諦めないといけない事の、何がいけないのでしょう。

 そりゃ、出来れば叶えたい。叶える事が出来たなら、それは素晴らしいでしょう。

 でも、世の中そんなに甘くない。

 出来ない事の方が、多いのですよ、人は。

 でもね、その夢や目標を諦めたからといって、それまで歩んで来た道のりまで捨てようとしないで欲しい。


 冒険者は大変なお仕事だったでしょう?

 時には、上手くいかない事を嘆いて2人で泣いたり、

 格上の魔物を必死の思いで討伐し、2人で歓喜して、高い酒を呷ったり、

 偶には、意見が食い違って言い争った事だって勿論あった、

 貴女カメリアさんが深傷を負ってしまった時に、必死になって回復魔法を唱え続ける親友レミルさん。魔力が尽きようとも諦める事なく、

 その傷の理由が、親友レミルさんを守る為に身を挺して庇った事だったり、


 私には、分からない。

 でも、貴女達2人なら分かる、その道のりは、カメリアさんとレミルさんにとって、一生涯の宝物なんですよ。

 無かった事になんか、しないで下さい。

 大事に、大事にしてやって下さい。


 生きて目標が、無くなってしまったのなら、また探せばいいんですよ。ゆっくりでいいので。

 新しく、生きる目標を得た親友を、心から祝ってあげてから。

 隣に居なくなった親友は、それでも、貴女の親友なんです。

 会いたくなったら、いつでも会えるのではないですか?

 また、お酒を酌み交わす事だって出来ますよ。

 その時に、冒険者時代昔話に花を咲かせたりなんかして。


 終わらないんですよ、カメリアさんの人生も、レミルさんの人生も。

 2人揃って仲良く、新しい門出、なんですよ」

 

 

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