あ、忘れてました。〈⚠︎ワルサメ(悪い秋雨)注意〉
今まで経験した辛い思い出を、涙で洗い流すかのように泣き噦る1人の女性。
彼女は、自身に降りかかった
その、苦しくて辛くて、誰にも明かせずに1人で悩み、それでも歩みを止める事無く進み続けた彼女、エリスさんのこれまでの人生を、私は知りません。
ただただ、これからの彼女の人生の幸せを願い、少しの間、胸を貸す事くらいしか。
「ありがとう...アキサメ。お洋服、汚しちゃってごめんね」
落ち着いたのか、エリスさんが顔を上げ、その涙で腫らした紅い瞳を私に向けて、そう言います。
「お気になさらないで下さい。服は洗えば綺麗になりますから。
少しは、スッキリしましたか?」
「そう、ね。お陰様で。何だか、泣くだけ泣いたら心がスッと軽くなったわ」
「今まで、良く頑張りましたね」
「!!.....ありがとぅ...」
再び、俯いてしまうエリスさん。大変だったんですねぇ。ヨシヨシ。
ついつい、子どもを褒める様に頭を撫でてしまっていたら、
「...人誑しだな」
「あらあらエリスちゃんたら。あんなに真っ赤になって」
「アキサメさん、凄い...」
「いいこ、いいこ、です。エリス様」
注目されていました。人誑しだなんて。誑し込んでなんかいませからね?
だいぶ時間も経ちましたので、そろそろ晩餐も終わり、でしょうか。
「エリス。儂はアキサメの様に気の利いた言葉をかけてはやれんが、儂ら家族は、いつまでもエリスの味方だ。何でも頼ってくれ」
「そうよ、エリス。貴女は私の妹なんだから、お姉ちゃんをちゃんと頼りなさい」
「エリス様、私も、話し相手くらいならいつでもなりますから!」
「リズもいっしょにあそびます!」
ちゃんと、良き友人達が側にいますよ。
「ありがとう。本当にありがとう、みんな。私は幸せ者ね。でも、これからもっと、もーっと、幸せになるわ、私!」
「素敵な決意表明です、エリスさん。無理せずゆっくりと、で良いのですよ」
「駄目よ!それではダメなのよ!多少の無理でもしなきゃ通用しないから!」
「あ〜確かにな。強敵だからな、相手は」
「そうねぇ。そういうのには疎そうだから大変かも」
「確かに鈍そう。強敵です(エリスさんも)」
「?どらごんとたたかうですか?」
「.....私の出番でしょうか?」
凄く呆れた目で私を見る、リズ以外の皆さん。ルーチェ、その目はダメージが大きいですよ...。
私だって、恋愛経験が皆無な訳では無いですからね?...下手クソなのは認めますが。
こういう時は、逃げるが勝ち、です。
「そろそろ、お開きですかね?色々あって皆さんお疲れではないですか?」
「そうだな。喜ばしい事とは言え、バタバタとしたしな」
「そうね。結果としてみれば、私もエリスも救われて大団円、ね」
「本当に良い事ばかりでした。おめでとうございます、お母さん、エリス様」
「おばあ様、エリス様、おめでとー!ステラちゃんも良くがんばりました!」
「ありがとう、ルーチェ、リズ」
「ありがとね、2人共」
「ではお開きとするか」と、レオンさんが言い、ベルを鳴らして使用人を呼びます。
部屋に入ってきたロドスさんとミルザさん、メイドさん達に指示を出すレオンさん。
エリスさんにはミルザさんが付いて、客間まで案内をし、リズとルーチェには他のメイドさんが付き添って退室していきます。
レオンさん夫婦は、2人だけで自室に戻るようで、私にはロドスさんが。
「アキサメ様、誠に有難う御座います。
奥様のお身体も癒えたと、先程旦那様から伺いました。使用人一同、心より感謝申し上げます」
ロドスさん、周りで片付けの為待機していたメイドさん達が揃って頭を下げます。
「それは...いえ、その感謝、確かに受け取りました。皆さんのその想いが、招いた事なのでしょう。これから、この屋敷が賑やかになる日も近いと思いますので、皆さんも頑張って下さいね」
「はい。お任せ下さい。我々使用人一同、誠心誠意、お仕え致します」
愛されてますね〜。これなら心配も無いでしょうね。
その後、ロドスさんに客間に案内されて、部屋でひとり寛ぐ、私。
なんだかんだで濃い一日だった、と一日を振り返っていると、ふと、思い出す。
「そう言えば、話すの忘れてました。
あんなに聞きたがっていたのに、良かったのですかね?」
キリュウ・ガルトラム。
私の知る桐生の事。
ユルクに転生し、
エリスさん曰く、剣の道を進む者達の憧れであり、目標。
本当に?と、何度思った事か。
確かに、世間一般でいうところの、腕が立つ部類ではあったとは思いますが。
それでも、所詮は、世間一般でしかない。
しかも、漫画のような最期でしたしね。
餅を喉に詰まらせるとか...まぁ、桐生らしいと言えば、らしいのでしょうが。
でも、桐生も恵まれていたのでは無いですかね?
転生先の世界が、こんなにもファンタジーで、大好きな猫耳が実在して、貴族に成り上がって。
こんなにも優しくて、生温い世界で、幸せだった事でしょう。
あのまま、
私が、
斬り刻んでいたでしょうから。
良かったな、桐生。
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