◉エリス・ルークシアの幸せ。〈後〉
「キャア!?」
「エリス様!」
「エリス!」
「エリス様!」
「........」
全く痛みも何も感じない私に対して、アキサメちゃん以外の人が心配の声を上げる中、黒猫がゆっくりと前足を引き抜くと、ソレは私の中から爪で掴まれた状態で、現れた。
『ギャーーーー!!何だよ、お前は!!』
見た目は子どもの様な大人の様な、ハッキリとしない変わった格好のソレは、黒猫に前足で床に抑えつけられたまま、喚き散らす。
訳が分からない私に、黒猫が、ちゃんと説明してくれる。
『コイツハ、神ダト自称シテイル悪霊ダ。人ニ取リ憑イテ不幸ニシテ喜ブ、タダノ塵屑ダ』
『貴様!私は神だぞ!獣風情が何をしやがる!』
『五月蝿イゾ、餓鬼。我ガ主、主夜神様ガ不愉快ダト仰ッテイル。貴様ハ主ノ元ヘ連レテ行ク』
『な!し、主夜神様!?何であ』
最後まで喋らせる事無く、黒猫は前足で悪霊をプチっと潰してしまう。
理解が追いついていない私を他所に、黒猫はステラちゃんに向かって、目を細めて優しい口調で話し始めてしまう。
『息災カ、我ガ仔ヨ』
「げんきだよ、とーちゃ」
『ソウカ。シッカリ励ムノダゾ』
「らじゃ!」
えっ!?ステラちゃんのお父さんなの?ちょっといきなり過ぎて何がなんだか...
『秋雨モ久シイナ。息災ノヨウダ』
「お陰様で。
『
「此処、日本じゃないんですけど」
『夜ハ繋ガッテイルモノダ。世界ノ隔タリナド意味無イノダヨ。主ガ待チ侘ビテル』
「はいはい。今度ね、今度。ちゃんと顔を出しますよ」
『約束ダゾ?デハナ、又会オウ』
そう言って黒猫のその巨体はあっという間に目の前から消えてしまい、残された私達は暫く呆然としてしまったわ。
すると、アキサメちゃんが話をしてくれた。
「恐らく、ロイロの仕業かと。先程の大きな黒猫は、主夜神と呼ばれる夜を司る神様の使いでして、ステラの親猫、ですね。
それと、エリスさん。貴女はご自身が悪霊憑きだとご存知だったんですよね?」
「......えぇ。私は、聖霊憑き。呪われていた」
「エリス...お前、」
「エリス...貴女は」
「でも、もう大丈夫でしょう。さっきその
ハーフ、というのも嘘でしょ?貴女は、あの悪霊の被害に誰も巻き込みたくなくて、自分から人と距離を置いていた」
「そうね、その通りよ」
そんな事まで、理解してくれるんだ。
「それに...似合わないですよ、そのキャラ。
エリスさんは、笑っている方がお似合いだと私は思いますよ。
私が関わると、誰かを不幸にしてしまう。
そう思い悩む気持ちは、理解出来ます。ですが、貴女を心配している周りの人達は、どう思うのでしょうか?
貴女の幸せを願う友人は、家族は、どういう気持ちで、貴女に語り掛けるのでしょうか?
貴女に、桐生の
どんなに理不尽な、無理難題な事が、目の前に立ち塞がっても、諦めないで欲しい。諦めなければ、奇跡は起こる。
お祖父様は、塞ぎ込んだエリスさんに、そう伝えたかった。
弱音を吐いたっていい、泣いたっていい、でも、いつか、もう一度、前を向いて生きる事が出来るように、諦めないで欲しい。
そんな気持ちだったのかなって、私は思うんです。
確かに、今回の事は偶然の産物でしょう。
貴女がこのガルトで〈気まぐれ猫〉に立ち寄った事をきっかけに、この場に居合わせたのも、
私がこの世界に喚ばれた場所が、ここガルトで、そこで始めた屋台で貴女と出会い、今この場に居る事も、偶々かも知れません。
奇跡なんてモノは、そんな
ですが、これまで弛みない努力を費やし、たった1人で生きてきた女性を救う事の出来たこの巡り合いは、紛れも無い必然であって、運命、と呼んでも、良いんではないですか?
貴女が歩んできた人生を、私は知りません。
ですが、貴女が誰よりも一生懸命に生きてきた事は伝わってきます。
それが、今、報われるのは、貴女の幸せな、幸せになる為の運命、だったのですよ」
この男は、
私よりも、歳下で、
詐欺のような見た目で、
不思議なスキルを使い、
多分、とても強くて、
人を幸せにするのが趣味で、
誰よりも優しくて。
「運命、か。私の、その運命は...」
言葉を続ける事が、出来ない。
涙が、次から次へと溢れてしまって。
今まで生きてきた、2つの短い生涯と、今生での記憶が、頭と心の中でぐるぐると回って。
辛い事や悲しい事も、楽しい事や嬉しい事も、沢山あって、つい、いつもの様に考えてしまう。
ーー私は、生まれてきて良かったのだろうか?
「良かったに決まっているでしょう。
貴女は、幸せになる為に生まれてきたんですから。
これまでは、
でもこれからは、それ以上に楽しいことや嬉しい事、幸せだなって感じる事が、沢山、貴女を待っていますよ。
この生が尽きるその最期の瞬間に、『良かった』って心から笑える、そんな人生が貴女を待ってますよ」
この男は、
私よりも、歳下で、
詐欺のような見た目で、
不思議なスキルを使い、
多分、とても強くて、
人を幸せにするのが趣味で、
誰よりも優しくて、
とんでもなく、人誑しで、
困っちゃうわ、全く。
ーー
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