美味かったろ?幸せなメシ。

「........な、なんて美味いんだ...」

「美味しい.....優しい。そう、優しいわ」

「美味しい、とっても美味しいの。だけど、分からないのよ、何も」

「おいしいです♪リズはかき?のなまハムまきがすきです〜」

「はぁ。お口の中が優しいです。マツタケ?というキノコ、香りがとっても上品で良いですね」


 確かに、とても美味しいです。

 松茸、柿、銀杏。日本は美味しい秋が訪れていますね〜。そういえば、ユルクの秋の味覚を知りませんね...今度、図書館で調べてみましょうか。

 皆さん、とても幸せそうな顔で食べています。どうやら、福さんの料理を気に入って頂けたようで、私も嬉しいです。

 皆が先附を食べ終えたので、順番に提供していきます。


 椀物(吸い物) 鱧真薯吹き寄せ

 向附(お造り) お造里盛り三種(鰹焼き霜、甘鯛昆布〆、秋刀魚)

 焼き物 赤舌鮃オランダ焼き

 煮物 飛竜頭と旬野菜含め煮(秋茄子、里芋、針柚子)

 揚げ物 天麩羅盛り合わせ(車海老、京かんざし、銀杏、松茸、生麩)

 酢の物 柿と大根の紅白なます

 ご飯物・止め椀・香の物 (釜炊き御飯、赤出汁、柚子蕪、紅千枚漬)

 水菓子 有りの実、巨峰ソルベ


 料理に合わせてお酒も変えて、愛知県の純米大吟醸を。中々手に入らないお酒らしいのですが、福さんから『この献立ならこの酒くらいが丁度いいだろ、ほら、貰いモンだから持ってけ。今日のだ』と有難く頂戴した物です。

 福さん、の対価が酒って。いや確かに御無理言いましたけど。


「.........何と表現して良いか分からん。ただただ美味かった。それに尽きるな」

「そうねぇ。次から次へと沢山お料理が出てきて食べられるか心配だったけど、そういう事にもきちんと配慮があって、一つ一つのお料理が凄く楽しめたわ〜。最後の穀物、ゴハンって言ったかしら?アレとアカダシとコウノモノ食べた時は、身体中がなんか、満たされた、って感じたわ。どのお料理も最高でした」

「私、こんなに美味しくて、優しくて、料理人の愛情のこもった料理を食べたのは初めて。技術や素材の良さを自慢してくる様な王宮の料理と違って、食べる人の事を第一に考えた上で、美味しい物を美味しく食べて貰いたいって気持ちが凄い伝わってきた...勿論、技術と王宮料理人達とは比べものにならないくらい凄かった。私、感動しちゃった」

「リズもいままでで1ばんおいしいごはんでしたー!」

「本当に、本当に美味しかったです!私やリズちゃんの分は量も調整してあったし、最後のキョホウソルベとアリノミが、私大好きです!」


 有りの実、梨の事ですね。

 皆さんに大好評の様で頑張って仕込みを手伝わされた甲斐がありました。

 ええ、ありましたとも。

 まぁ、確かに、福さんの店に突然行って、「晩御飯作って下さい」と言った私もどうかと思いますしね。

 それでも、即興でこれだけの会席料理(福さん的にはなんちゃって会席らしいです)を用意してしまうところが、福さんの凄いところです。


 日本料理界でもかなり有名な料理人である福永 玄さんの作り出す料理は、このユルクの人々にも大絶賛を受けました。私も、とても嬉しいです。


 そして、私はこの料理魔法のもたらしてしまう奇跡衝撃の事実を、皆さんにお伝えしなくてはならなくなりました。


[コース料理〈秋会席〉・名称【秋の夜長飯晩ごはん】 作成者【ゲン・フクナガ】]

異世界・日本の伝統料理〈和食〉。会席料理というコース仕立ての料理。調理技法鑑定不可。異世界の和食料理人ゲン・フクナガによって即興で作り上げられた、〈なんちゃって会席料理〉。卓越した技術で素材の持つ味、香り、食感、色彩などを最大限に引き出されており、一通り食すと、身体欠損を含めたありとあらゆる傷病が回復する。状態異常抵抗(大)、招福効果(中)付与(7日間)。


 これ...ファンタジー物の万能薬エリクサーの説明書きと一緒じゃないです?

 不老不死とか付いてなくて良かった...。

 これ、スルーしちゃ駄目なヤツですよね、絶対バレそうだし。ていうか、サーシャさん、効果出てませんか?何か光ってますけど...。


「サ、サーシャ!?」

「サーシャ姉!どうしたの!?」

「おばあ様!」

「お母さん!?」

「あら、光ってるわね?」


 サーシャさん、凄く落ち着いています。周りだけが席から立ち上がり、かなり慌てていて、少し滑稽ですね。


「...アキサメお兄さん、わらってるですー」

「アキサメさん!お母さんは大丈夫なんですか!?」

「アキサメ!何か知ってるのか!」

「ええっと。いや、その、何と言いますかーー」


 皆さんに、一通りの鑑定結果を伝えると、サーシャさんが突然泣き出し、寄り添うレオンさんも泣いています。私、ルーチェ、リズは訳が分からず、2人を見守る事しか出来ません。

 すると、事情を理解している様子のエリスさんが話してくれました。


「まだサーシャ姉とレオンが結婚して間も無い頃に、当時この辺境を狙っていたある伯爵家の娘がサーシャ姉の事を逆恨みして、レオンが不在の時に、暗殺者を雇って毒を盛ったの。幸い、発見が早くて命は助かったんだけど、その事が原因でサーシャ姉は子どもを授かる事が出来なくなってしまった。レオンは治療する方法を必死に探していたわ。でも見つからなかった...。勿論、私も探したんだけど、駄目だった。残すは、それこそ御伽噺に出てくる伝説の霊薬エリクサーでもないと、って」


 そうだったんですね...。私、サーシャさんと初対面の際、無神経でした。申し訳ないです。


「それがね、アキサメちゃんの用意してくれたご飯のお陰で治療出来たと思うの。さっきの光も回復魔法の時と同じ光だったから間違い無いんじゃないかな」


 エリスさんが説明していると、落ち着ついたのか、レオンさんとサーシャさんがやって来て、


「アキサメ!本当に、本当にありがとう!う、うぅ...ありがどゔ...」

「アキサメさん、ありがとうございます。私、私、今日一日、本当に幸せよ。アキサメさんと出会えた事を世界樹に感謝します」


 私1人の力では成し得ない事です。

 でも、誰かが幸せになれる。そのお手伝いが出来たのであれば、私も幸いです。


「この料理を作ったのは、福さん...ゲン・フクナガという、私の故郷でもトップレベルの料理人です。

 先程、その人の店で料理を作ってもらう際に、料理のコンセプトを聞かれたんです。

 ですので、私は〈幸せな晩御飯ディナー〉で、と答えました。

 その後、料理を作り終えた福さんに、言われたんですよ」


『アキサメ、幸せなメシって何だと思う?


 高級な店で、高価な食材をふんだんに使った料理か?

 家に帰って、嫁さんが用意してくれる晩飯か?

 子供の頃に、母ちゃんが握ってくれた握り飯か?


 俺はな、どれも正解なんだと思うよ。

 美味いもんは、美味いんだ。


 お客さんてのは、店に来て、席に座って、いただきます、ごちそうさま。それだけじゃねぇんだよな。その席に座るまでの、その人だけのストーリーがあるんだよ。そういう人、お客さんの気持ちに寄り添うような料理を作って、食ってて嬉しそうに笑うお客さんの顔を見た時、はじめて、俺らみたいな料理人ヤツ等は報われるんだよ。

 美味いもん作るのは当たり前だ。プロだからな。

 お客さんの笑顔を見て、「してやったぞ」って、心ん中でニヤニヤ笑うのが料理人だ。

 だからよ、この料理を食べる人達が笑顔になってくれてたら、聞いておいてくれないか?

 美味かったろ?ってよ。

 もし、美味かった、って言ってくれたら。

 それは、してやったり、だ。


 アキサメ、それが俺の思う、幸せな飯の在り方だよ』


「私も、商いをする上で、同じように考えています。道は違えど、私もプロですので。

 忘れてはいけないモノだと、教えて頂いたので。

 この料理の効果を、福さんは知りません。私の故郷にエリクサーそんな物はありませんから。

 例え、この事を知ったとしても変わらないと思いますよ、あの人は。

 だから、約束通りお伺いさせて頂きます。


ーー美味かったろ?」


「美味かった!!」

「とても、美味かったわ!」

「凄く美味かったわよ!」

「美味かった、です」

「うまかったです〜!」


「『してやったり』。御粗末様でした」

 

 

 

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