それは、魔法。

「只今戻りました」

「かえりましたー!」

「ただいまです。お父さん、お母さん」


 扉を開けてレオン邸に戻って来た私達。

 それなりの時間を中で過ごしましたが、そこは、〈仕事用転移扉とんでもスキル〉の効果で、レオンさん達からしてみれば、行ったと思ったら帰って来た、でしょう。

 あちら側だけで無く、こちら側の時間まで調整出来てしまうのです。何ともご都合主義恐ろしいですが、使い勝手が良いのは確かなので重宝しています。


 扉をくぐった後の出来事に関しては、また後でロイロを問い詰めるとして、今は食事の用意をします。

 ただ、一言で言い表すとすれば、やりたい放題凄く大変でした、と。


「おぉ。早かったな。もう終わったのか?」

「あら、お帰りなさい」

「.......私が、おかしいのかな...」


 エリスさん、考えるだけ疲れますよ。

 ありのままを受け入れて下さい。


「はい。無事に終わりましたよ。今から用意させて頂きますね。...流石はロドスさん。仕事が早くて助かります」


 テーブルセッティングが終えているのを見ると、いつの間に?と思ってしまいますが、ロドスさんレベルの執事なら、造作無い事なのでしょう。


「....お前がそれを言うのか?」

「リアルとファンタジーを同列に考えてはいけませんって」


 その道の達人の洗練された技術、それはもう魔法と呼んでも過言ではありません。

 まるで、魔法。

 この世界では身近なものかも知れませんが。


「さぁ、皆様方。食卓へと移りましょう」


 食卓用に用意されたテーブルは、そこまで広い物ではありません。

 ここに居る人数で丁度良い、と地球の一般人なら思える位ですが、ユルクの貴族からしてみれば狭く感じるでしょう。


「席が近いというのも、良いな。それだけでも楽しく感じるものだ」

「そうね。楽しそう」

「私は初めてだわ。こんなに皆で寄り添って食べるのは」

「リズはうれしいです!ルーお姉ちゃんのおとなりさんです〜♪」

「私は、いつもと同じかな?でも大人数での食事は楽しみです」


 レオンさんは誕生日席、片側にサーシャさんとエリスさん。反対側にとルーチェ。

 最初、エリスさんが誕生日席だったのですが、「友人同士の場なんだから気にしないで」と、さっさとサーシャさんの横に座りました。


「本日の夕食は、異世界でも、私の故郷で日本という国の料理です。〈和食〉っていいます。

 今日は、デザートを沢山食べてもらったので、優しい味付けの和食にしてみました。

 少し薄味に感じてしまうかも知れませんが、お楽しみ頂けると嬉しいです」


 そう前置きをした後、私は皆さんの前に先附の盛り付けられた皿を配膳しながら、飲み物を聞いていきます。大人達にはお酒を飲むかどうかも。


「お酒は飲まれますか?」


 どんな種類の、とは聞かずに、お酒を飲むか、飲まないかだけを聞いて回ると、3人共飲むとの事でした。

 リズとルーチェには林檎ジュースを。

 本来なら和食にはお勧めされないかも知れませんが、本日の料理人ならこう言うでしょう。

 『気にするか、そんなモン。人夫々だろ』

 おそらく、いや、絶対に言いますね、福さんなら。


「では、御三方には〈日本酒〉を。

 先ずは乾杯用にスパークリングにしましょう」


 レオンさん、サーシャさん、エリスさんの前にコースターとシャンパングラスを並べて、リズとルーチェには江戸切子のグラスを並べてあげます。


「うわぁ!!すごくキレイです!ルーお姉ちゃんのもキレイ!」

「凄い...こんなに綺麗なグラス、使っても良いんですか!?」


 リズには金赤色で、高貴、高尚、無病息災を意味する菊繋ぎの紋様。

 ルーチェには瑠璃色で、人のご縁が続く、裕福などを意味する七宝の紋様。

 日本産の100%林檎ジュースを、とくとくと注げば、室内のランプの光を乱反射して、グラス自体が一つの宝石の様に輝きます。


「なんと...凄く美しいな。それに、なんて精巧な柄。気品があるな」

「うっとりしちゃうわ〜。こんなに綺麗なグラスなんて初めて見たわ」

王家実家にある物より確実に良い物じゃないの...凄く綺麗!」


 皆さん、江戸切子のグラスに目を輝かせていますね。器って食事を彩りますよね。食事が楽しくなりますし。

 次は、御三方に日本酒スパークリングを注いでいきます。


「こちらのスパークリングは数年前から、故郷の国や、他の国からも注目されている酒造元の日本酒です」

「これも綺麗ね。曇りのないグラスに透き通ったお酒。底から出てる気泡が美しいわ」

「無色透明な酒か。まるで水のようだな」

「綺麗なものね〜」


 私にもスパークリングを注いで、準備完了です。


「さぁ、乾杯しましょう。レオンさん、お願いします」

「分かった。オホン、では。

 今日は色々とあったが、良き出会いに恵まれた一日であった。

 アキサメと友になり、ルーチェという新しい家族を迎え入れる事が出来た事に感謝を。

 乾杯!」

「乾杯」

「かんぱ〜い!」

「乾杯!」


 声に出したのは、私とリズ、ルーチェだけ。

 他の2人は声に出さないでグラスを少し掲げるのみ。


「おいしいです!」

「美味しい!フルーツの味が口の中に広がります!」

「このニホンシュとやらも美味いな。ほんのり甘味を感じる。それでいて後味はすっきりしている」

「これは...穀物かしら?奥行きのある味わいね。香りも良いわ」

「こんなに透明なのに、口に含んだら複雑な味わいが。不思議。でもとっても美味しいわね」


 好評で良かった。こちらではワインが主流のようですからもしかしたら、と思いましたがひと安心です。

 確かに日本酒スパークリングは美味しいですよね〜。私も大好きです。


「先附は、松茸寿司、柿の生ハム巻き、松葉銀杏、です。我が故郷の秋の味覚をお楽しみ下さい」


「先程から気になっていたのだが、アキサメの国の料理は芸術だよな。知らない食材ばかりの筈なのに、どれも美味そうだし、何より見ていて楽しいな」

「凄い技術よね。こんな細かい細工までして食べる人を楽しませる意識の高さが、素晴らしいわ」

「量も適量で、可愛らしいわ。お皿も含めて一つの絵画みたいね〜」

「どれもはじめてみる食べものです。お皿の上でみんなでなかよしでかわいいです♪」

「凄いなぁ〜。こんな綺麗に盛り付けられてる料理初めてです。食べるのがもったいなくなっちゃう」

「皆さん素敵な感想を有難う御座います。料理はまだ始まったばかりですので、この先も楽しみにして下さいね」


 ふふふ。その道の達人の洗練された技術が作り出した料理ものは、


[料理〈秋会席・先附〉・名称【秋の味覚三種】 作成者【ゲン・フクナガ】]

異世界・日本の伝統料理〈和食〉。会席料理というコース仕立ての料理の先附、1番最初に出てくる一皿。調理技法鑑定不可。異世界の和食料理人ゲン・フクナガによって調理された至高の一皿。卓越した技術で素材の持つ味、香り、食感、色彩などを最大限に引き出されており、食すと、一定時間体力値向上、精神安定、魔素許容量上昇(微)、招福効果(微)付与。


もはや、魔法、です。




 

 

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