ロイロ、無双。

「アキサメ、リズ達にコレをペッタンするニャ」

「なんです、コレ?可愛らしいですね。スタンプ、ですか?」


 ロイロに渡された、黒猫がお座りして口を開けている、ピンポン玉くらいの小さな置き物のようなそれの台座部分の裏側には、デフォルメされた可愛い猫マークが。


「ソイツをリズとルーチェの手に押せば、転移扉これを通れるニャ」

「分かりました。リズお嬢様、ルーチェ、こちらへ」


 私の背後から、興味津々でロイロや扉の奥を見ていた2人を呼んで手を出してもらい、手の甲にロイロスタンプを押してみます。


「わ!可愛い。ロイロちゃんかな?」

「わぁ!かーわいー!」


 好評です。特にインクが出た様には見え無かったのですが、2人の手には猫ちゃんマークが付きました。

 これだけで良いのかな?と思っていた矢先に、変化は訪れて、


『お友達認定ニャ〜』

『従業員契約完了ニャ』


 2人の手に押したマークが一瞬だけ光ると、手の甲の上に小さな黒猫が現れて、それぞれに対して喋りかけた後、スッと消えました。

 無駄に凝った演出をして...ロイロ、楽しんでますね?


「え!?ねこちゃんきえちゃった!」

「びっくりしました!従業員って」

「ロイロ。先に言って下さいよ。2人共驚いてますよ」

「ドッキリ大成功ニャ!面白かったニャ?

 ちゃんと効果は付いたから問題ないニャよ。

 リズはお友達だから、この扉の中の空間に。

 ルーチェは従業員契約を結んだから、一部を除いて、使ニャ」


 ロイロ...それはせめて私には事前に教えてくれても良いのでは?

 ルーチェをどうするつもりですか...


「また、とんでもない事をサラッと言いましたね?使用可能なんですか、ルーチェは」

「奥の扉は、アキサメと一緒ならどこまでも。

 それ以外なら、私が居ればどこまでも、ニャ」

「................ルーチェがチート持ちになってしまいましたね....」

「ニャハハ!雇用契約はバッチリニャ!ルーチェには私の加護を与えてあるから、憂いは無しニャよ。私が護ってやるニャ〜」


 それを憂いている私に気付いたりしてくれませんかね?貴女、私のスキルですよね?


「ニャ!そうそう、リズにも御護おもりをおいたから心配しないでニャ!」


 非常に心配です、はい。

 ...私も大概自由人だと自覚してますが、ロイロは私より自由奔放です。

 悪い事は絶対にしないと分かってはいるのですが...


「ロイロ...説明をして貰えると、非常に助かります。お願いできますか?」

アキサメが、手玉に取られているだと!?」

「可愛いわ〜ロイロちゃん♡」

「え?そこ!?違うよね?もっとあるじゃない、ツッコむところ!」


 大人達外野が騒がしいですが、話を進めなくては。


「ん〜...見た方が早いニャ。リズの御護り役〜出て来いニャ!」


 両手を下から掬い上げるような仕草と共にそんな台詞を言うロイロ。ちゃっかりネタをぶっ込んで来ましたね、少し古いとは思いますが。


 リズお嬢様の肩の上にお座りしている1匹の白猫。

 それに最初に気付いたのは、サーシャさんでした。


「あらまあ!可愛らしい猫ちゃん。真っ白で綺麗ね」

「あ!ほんとうです!こんにちわ、ねこちゃん」

「わぁ、綺麗な毛並み!可愛いですね」

『ありがとニャ。りず、なまえ、ほしいニャ』

「喋った!?」

「イカン...そろそろ理解が追い付いてこなくなってきた...」


 まだ仔猫のようですね。


「その仔は、主夜神のトコの黒猫の仔ニャ。1匹だけ真っ白に生まれてきたから、主夜神のお使いが出来なくて困ってたから、ウチに来てたのニャ」


 ウチ?ウチって、ロイロ...


「悪夢や夜の恐怖を祓い、五穀豊穣をもたらすといわれる由緒ある神の御使いニャ。これでリズもひと安心だニャ〜。

 あ、そうニャ。リズが名前を付けてあげて欲しいニャ」

「は〜い!.....じゃあ、あなたのおなまえは、〈ステラ〉にします!」


 星、星光、ですか。確かに夜空に輝く星のようですね。リズお嬢様、ネーミングセンスあ...


「リズはカステラがだいすきなのです!だからだいすきなカステラからとりました!」

『すてら...ありがと、りず。これからヨロシク』

「はーい!よろしくです、ステラちゃん!」


 ...りますね...。大好きだから、大丈夫。


 器用にハイタッチしているリズお嬢様と白猫ステラ。既に意気投合したようです。

 いけない、まさかこんな事態になるとは思いもよりませんでした。

 時間がだいぶ押しています。

 扉の中にさえ入ってしまえば、大丈夫なんですが。


「アキサメさん、お時間大丈夫ですか?」


 ルーチェ。頼りになりますよ、貴女は。


「リズお嬢様、ステラ、ロイロ。これから仕入れに行かなくてはなりませんので、詳しくは後にしましょうか。

 ルーチェも気にしてくれてありがとう。

 さぁ、行きましょう。

 では皆様、改めて行って参ります」

「行って来ます」

「いってきま〜す!」

「ばいばいニャ〜」


 そう言って私達は扉をくぐります。中の空間へと姿を消すと同時に、表では、扉も消えている事でしょう。


 改めて、実感しました。

 やはり、私のスキルはぶっ飛んでいる、と。

 そう、どの主人公よりも、

 本物のチートは、この黒猫ロイロ、なんですよ。


 「クックック、楽しかったニャ〜。ニャハハハ、ニャ〜ハッハッハ!」


 ロイロ、無双。


 台詞が悪の親玉っぽいから、やめなさい。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る