私はロイロ、〈気まぐれ猫〉の看板猫ニャ。

「それで、アキサメはどうするのだ?」


 此処が、私の分水嶺。

 勇者物語に、謎のスキルを使い勇者の手助けをしたり、時には対峙したり。

 後半部分では、物語に大きく関わって...


「特に、何もしませんよ」


 「えぇ!?」みたいな顔をしないで下さいよ。

 そもそも、無理矢理召喚されてしまった勇者達と、楽しそうなこの世界に喚んでもらった私とでは、この世界に対する感情が、全く違いますからね。

 例え、それぞれの歩む道が交叉する場面が訪れたとしても、分かり合える事は難しいでしょう。

 それならば、最初から関わり合わない方が、お互いの為です。

 それが、私の選ぶ進むべきベクトル。


「何で、みたいな顔をしてますが、そもそも勇者召喚を行ったのは、この世界の、このルーク王国の人間でしょう?何故、その尻拭いを私がしなくてはいけないのですか?私だって一応、被害者側ですよ」

「!確かに...そうだったな。同郷だから助けて当然、などと。儂だってそんな軽率な行動はせんな。すまない、アキサメ」

「いえ、私も少し極論を口にして申し訳ありません。


 ...この話はこのくらいにしませんか?

 どんなに悩んでも、今すぐ答えが出る問題ではありませんよ。

 エリスさんも、そんなに眉間に皺を寄せていては、折角の美人が台無しですよ」

「ふぇ!?び...美人?私が?」


 ええ、美人ですよ。日本に住んでたら、美魔女、なんて呼ばれていそうです。


「世辞に決まっているだろう。歳を考えろ」

「何だと、爺ィ?」

「あなた、そんな事言ったらダメよ」

「おじい様、レディにむかってそんな事言うのは、さいてー、です」

「お父さん....それはちょっと失礼だと思う」

「え、いや、そういうつもりじゃ...」


 レオンさんが集中砲火を浴びて涙目です。

 リズお嬢様の「さいてー」は、おそらくクリティカルヒットでしょう。


「年齢など関係なく、美人さんは、美人さんですよ。

 皆、毎年1つずつ、平等に年齢を重ねていくのですから、そのようなもので人の価値を決めつけてはいけませんよ、レオンさん」

「うっ....エリス、すまなかった」

「フンッ!今回はアキサメちゃんに免じて許してあげる。

 それはそうと、素敵な言葉ね、アキサメちゃん」

「そうですか?私も年齢の問題には良く悩まされてきましたから」


 主に初めての仕入れ先で、新人と間違えられるパターンで。


「そうなの?そんな風には見えないわよ?」

「エリス、アキサメは何歳に見える?」

「え?そりゃあ...25歳前後?あ、もしかしてもっと若かった?」

「エリス、アキサメさんは37歳よ。貴女とそんなに歳は離れてないわ」

「えぇ!?.......詐欺だわ」

「失礼ですよ、貴女達。

 そう言えば、以前、年齢の事で面白い事がーー」


 それから私達は、冗談を交えながら、お喋りを楽しみました。

 テーブルの上には、紅茶や緑茶、お子様向けにオレンジジュースとブドウジュースも。

 茶菓子として、栗きんとん、カステラ、苺大福の和菓子に加えて、〈Kei.Ⅹ〉の栗のロールケーキを出したところ、案の定というか、


「凄く美味しい!?こんな美味しいお菓子、王族の私でも食べた事無いわよ!!」


 エリスさん、大興奮でしたよ。

 売って欲しい、とせがまれましたが、生菓子で日持ちがしないから、とお断りをいれたのですが、中々諦めてもらえなかったところに、レオンさんとサーシャさんの援護射撃が入り、


「また迷惑をかける気か、エリス」

「エリス、アキサメさんが困ってるわよ」


 見事に撃沈。

 「もう少ししたら王都に帰るから、次はいつ食べれるか分からないのに〜」と泣き真似をしていました。

 そのやり取りの少し後、話はレオンさんの祖父であり、私も良く知る、キリュウ・ガルトラムこと、桐生の話になりました。


「へぇ。そんなに有名なお話なんですね」

「そうよ!竜討伐者ドラゴンバスターキリュウは、剣の道を志す者達の憧れであり、目標なの!」


 ふ〜〜ん。アイツが憧れで目標、ねぇ。

 大人気だな、桐生。


「アキサメは、祖父さんと知り合いだったのだよな?」

「ええ、おそらくは。

 キリュウ、という名前と、レオンさんと話した時に聞いた、お祖父さんの口癖の「オニガワラ」という言葉。

 最初は私と同じ世界からの転生者、かと思っていたのですが、レオンさんが言っていた片刃の剣、左利き、竜討伐それなりの腕前。

 そこまでの条件に合致する人を、偶々1人だけ知っていましたので」

「成程な。そうか...祖父さんは転生者だったんだな。

 なぁ、アキサメ。儂はな、祖父さんの事をあまり覚えて無いんだよ。儂が幼い頃に...事故で死んでしまってな。

 アキサメが嫌で無ければ、転生前の祖父さんの話を聞かせてくれんか?」

「私も聞きたいな。キリュウ様のお話」


 勿論、嫌なんて事はありませんよ。


「大丈夫ですよ。でも、」

「でも?」

「何だ?」


ーーチリン♪


 手元のベルを鳴らす、私。

 皆様、夕食のご用意をさせて頂きますね。


「そろそろ晩餐ディナーの時間ですので、準備のお時間を頂きたく」

「まさかお前...夕食まで用意する気か?」

「アキサメさん、そこまでしてくれなくても良いのよ?」

「アキサメちゃ..君が用意してくれるの?」

「エリスさん、好きなように呼んで下さいね。

 今日は私が給仕役ですから、お任せを」


 ベルの音を受けた使用人達が、入室の許可を問うてきます。


『御歓談中失礼します。お呼びでしょうか』

「ロドスか、入れ」


 ロドスさんが訪れました。

 出来る執事は違いますね。


「呼んだのはアキサメだ。夕食の事らしい」

「はい。私がベルを鳴らしました。

 では、ロドスさん手筈通りにお願いします」

「畏まりました、アキサメ様」

「アキサメ....いつの間に打ち合わせていたんだよ...」


 打ち合わせなんてしてませんよ、私がしたのは伝言だけ。御宅の執事が優秀なのです。


「では、リズお嬢様、ルーチェ。

 最初の約束通り、お手伝いをお願いしても宜しいですか?」

「はい!リズはおてつだいがんばります!」

「分かりました、アキサメさん」

「頑張ってお手伝いしてね、リズ、ルーチェ」

「おぉ、頑張ってな!」

「良い子達ね〜」


 シュタっと立ち上がり、右の拳を突き上げるリズお嬢様。昇◯拳ポーズです。

 期待してますよ、2人共。


「それでは、少し失礼して、出掛けて来ます」

「え?何処に?」

「外に出るのか、アキサメ?」

「あら、お出掛けなの?」


「はい。ちょっと行ってきます、

 

転移扉テレポートドア〉」


「はぁ!?」

「ええ!?」

「まぁ!?」


 突然現れた木製の見慣れた扉に、驚く大人3人と、ワクワク顔のお子様2人。

 大人達を無視して、私は扉の取っ手に手をかけて開け放つ。

 奥の方には、地球の仕入れ先に繋がる扉があり、その扉の前で彼女は、巫女装束に身を包み仁王立ちで待ち構えていました。


「アキサメ、遅いニャ!待ちくたびれたニャ!」


 さぁ、リズお嬢様にルーチェ。

 ロイロの遊び相手というお手伝い、期待していますよ。2人には特別に、ロイロから通行許可証が発行されるらしいですから。


「ごめん、お待たせしました。それよりも、ちゃんとご挨拶して下さい」

「ん?それもそうニャ。

 みんな、初めましてニャ。

 私はロイロ、〈気まぐれ猫〉の看板猫ニャ。

 今後ともよろしくニャ〜!」


「は?」

「まぁ!可愛いらしい!」

「あー!ろいろちゃんなの!?」

「え!?あの看板の黒猫ちゃん?」


 エリスさん、これが本物のネコ娘ですよ。


「......び、びっくりしたニャー...」


 そして、これが、私のスキルです。

 

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