観客席から応援を。

「異世界の人間、ですよ」


 その言葉を聞いた皆さんの反応は、様々。


 驚愕の表情を見せるエリスさんと、ルーチェ。

 「あらまあ」と聞こえてきそうなくらい、穏やかな表情のサーシャさん。

 「私、興味津々です」と言わんばかりに興奮した感じのリズお嬢様。

 レオンさんは、手で目元を隠し天井を仰ぎ見ています。アフレコを入れるなら、「あちゃ〜」でしょう。


 ふふふ。ネコ貴婦人マダムの衝撃を、無事、上書きできたようですね。

 大・成・功、です。


「.......自分から言うか、普通?」

「私が、今ユルクココに居る時点で、普通、なんて言葉は無意味ですよ」

「そうだけど、そうじゃない。気を遣って内緒にしようとしていた儂等の努力を、お前は」

「隠すつもりは無い、と申し上げたでしょう?

 どうせいつかはバレますって、必ず」

「それは、スキルの話だとばかり思っておった...

 それよりも、何で必ずなんて言える?分からんだろう?」

「ア、アキサメちゃん.....もしかして、あなたは」

「あれ?エリスさんがご存知という事は、犯人はルーク王国この国ですか?」

「......噂話を、聞いたくらいよ」

「何の話だ?エリスは何を知っているのだ。

 それに、犯人とはどういう意味なのだ、アキサメ?」

「この世界でも、拉致は犯罪では?

 ある日突然、

 それまで普通に生活していた何の罪の無い一般人を、

 自分勝手な理由や都合で、全く知らない異なる世界へ、集団拉致する。

 なんて、非道極まりない犯罪ですよ。

 そんな罪を犯した者を、犯人と呼んだのです」


 大きく目を見開き、すぐにエリスさんの方に視線を動かすレオンさん。

 とても辛そうな表情のエリスさんは、口を閉じたまま、弱々しく頷き返しました。


「なんて馬鹿な事を...陛下は何をお考えなのだ」

「陛下では、弟では無いみたい...私が耳にした話は、第三王女が古い魔法陣を研究している、1か月前頃に勇者召喚の魔法陣を解明した、そして、近々儀式が行われる、なんの確証も無い噂程度のもので、実際に証拠は掴め無かった。

 私がまだ王都に居た時は、勇者召喚そんな事は行われて無かった筈。私がレオン達と一緒にガルトに旅立ってからの事だお考えれば、つい最近に行われたとしか。私も、そのくらいしか分からないわ」

「第三王女殿下は一体何の目的があって、そんな事を...」

「あの小娘に、そんな事を軽々しく行う度量も、隠し通せる程の権力も無いわ。誰か黒幕がいると思う」


 まるで異世界ファンタジー系のラノベを読んでいるみたい、などと考えながら、テンプレですね〜、と感想を抱く私。

 次のレオンさんの台詞を予想していると、どうやらニヤニヤしていたようで、思いも寄らない人物から、指摘されてしまいました。


「アキサメお兄さんはなんで笑ってるです?」


 小説などで良くあるお話だったからですよ、なんて言えるはずも無いので、リズお嬢様に笑顔で人差し指で、し〜っ、としていたら、


「おい、アキサメ。何で当事者のお前がリズと遊んでいるんだよ?」

「アキサメちゃん...私の姪が、取り返しのつかない事を...ごめんなさい!」


 怒られて、謝られて。

 少し、意地悪が過ぎましたかね。


「レオンさん、私、ちゃんと言いましたよね?

 勇者当事者ではありません、って。

 勇者召喚ついでに巻き込まれたみたいですが、特に犯人誰かさんに思うところもありませんから、エリスさんも謝らないで下さい。

 むしろ、感謝している、と言いますか」

「......感謝?そんな、だって!」

「だって、何です?

 向こうの世界に、家族が居たかも。

 愛する女性ひとが、いたかも。

 大切な思い出が、あったかも。

 守るべき家庭が、あったかも知れないのに。


 私には、残念ながらありませんでしたよ。

 かと言って、辛い人生だった訳でもありません。仕事を通して、人生をちゃんと楽しんでましたから、エリスさんが気に病む事はありませんよ」

「アキサメちゃん...」

「ですが、勇者当事者さん達は、そうはいかないでしょう」

「何故だ、アキサメ。どうして分かるのだ?」

「私がこの世界に喚ばれた時、眩い光に包まれる、1台の...馬車のような乗り物を見ていたのです。まぁ、正確には、その奥の景色を、ですが。

 その乗り物は、ある目的の為に走っていました。学び舎に通う16、7歳の学生達の、修学旅行、という遠出をして、観光地に向かう最中だったと思われます。

 つまり、1クラ...30〜40人ほどの、向こうの世界では、まだまだ子どもでしか無い集団が、召喚されたのです。

 私とは違って、あったと思いますよ。

 彼ら、彼女らには、家族も、友人も、思い出も、恋人だって。そして、輝かしい将来も。


 そちらの方こそ、ちゃんと気をかけてあげて欲しいですね。

 それに...いや、やめておきましょう。


 エリスさんに、大公妃殿下エリスさんだから、出来る事があるのではないですか?」


 私の言葉を聞いて、何かを考え始めたエリスさん。


 私は、あの高校生達に思う事はありません。

 確かに、共に被害者であるという気持ちはあります。ですが、若者達は頑張って生きていくでしょう。もしかしたら、魔王のようなラスボス的存在を倒して、神様の力で地球に帰る事が出来るかもしれません。

 なんたって、勇者主人公なんですから。

 夢と希望と友情とチート盛り沢山の大冒険が、今まさに始まっている事でしょう。


 まぁたしかに、権力者エリスさんを誘導して、勇者達を手助けするように仕向けたのは認めます。

 それくらいはしてあげても、過保護では無いでしょうからね。人生の先輩からのエールです。


 それと、御堂院ウチ分家親戚の子が、ちょうど勇者達と同じ年頃だったので、少しだけ情が湧いたのは、確かですね。


 頑張って下さい、勇者諸君。

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