カウンターはタイミングが大事。

 目の前でポージングするネコ娘...ネコ貴婦人マダムことエリス・ルークシア大公妃殿下。

 そう、大公妃殿下.....

 ルーク王国この国、大丈夫でしょうか?


「アキサメにゃん?」


 この惨状を私にどうしろと?

 それなりに仕事等の修羅場を経験してきた、と自負しておりましたが...まだまだ未熟だったようです。


「.......エリス大公妃殿下。どうされたのですか?」


 ピシッと固まったまま、見る見るうちに、顔色が髪や瞳と同じように赤くなるエリス様。

 ギギギ、と音が聞こえてきそうな、錆びたブリキ人形の首はレオンさんの方へ向けられ、カパッと口が開きました。


「レオンの嘘つきーーーーーー!!!」


 キーン、キーン...と耳の奥で反響して、痛いですって...


「声がデカいわ!それと、儂のせいにするなよ。元々エリスが言い出した事だろ」

「アキサメちゃん喜んで無いじゃない!猫獣人好きだって言ったじゃないの!あれは嘘だったのね!騙したわねー!」

「言っとらんわ!猫獣人好きは、ウチの祖父さんだよ!アキサメが好きだなんて、一言も儂は口に出しておらん!」


 成程。犯人はお前ですか、桐生。

 そんな趣味があったんですねぇ。この世界に転生出来て良かったじゃないですか。

 お陰で大惨事ですけど、今。


「あら、エリス。可愛いかったわよ『ごめんニャ♡』。ねぇ、そう思うでしょ?」

「はい!かわいかったですニャ♡」

「え!?私も?...可愛かったニャン...」


 サーシャさん、オーバーキルですよ。

 しかも、真似してる姿が似合ってますから...年齢不詳のエルフって怖いです。

 リズお嬢様はバッチリ可愛いですね〜。少し恥ずかしがるルーチェも可愛いですよ。


「おぉ!3とても似合ってるな!可愛いぞ!」


 あ、レオンさんそれはダメな...


「なんだって、レオン?もう一度言ってみなよ?」

「.....エ、エリスも、に、似合ってる?」

「なんで疑問形なんだよ!このヤローー!!」

「待て!言葉の綾だ!くっ!おい!ピンポイントで王威を当てるな!落ち着け、アキサメが見てるぞ!」


 今にも殴りかかろうとしていたエリス様が、ピタリと止まり、私の方に振り返る。

 しっかりと目が合い、僅かに揺れて今にも泣き出しそうで。

 エリスさんの深紅の瞳を覗いてしまった私には、1番の被害者はこの女性ヒトなんですよね、と少し可哀想に思えてしまいました。


「そうですか?突然の出来事で吃驚はしましたが、お似合いですよ?

 〈気まぐれ猫ウチのロイロ〉は黒猫なんですが、は綺麗な真紅の髪と瞳の、唐紅からくれないの猫、ですね」

「!!.....アキサメちゃん...」


 赤猫、だと悪い意味も含まれますからね。

 エリスさんに分かる訳無いと思いますが、私的に嫌ですので。


「さぁ、座りましょう。これからは友人同士が語らいを楽しむ時間です。

 エリスさんのお席は、こちらですよ」 


 エリスさんをソファにエスコートして、レオンさん目配せを。

 まったく。貸し1つ、ですよ?


「う、うむ。エリスも揃った事だし、始めるとしようか。飲み物と軽い食べ物を用意させよう」

「あ、レオンさん。使用人さん達に、給仕の必要はありません、と伝えてもらってありますので。

 給仕役は私が務めますよ」


 案内してくれたメイドさんに、レオンさんからの伝言として、ロドスさんへ伝えて頂きました。


「そうなのか?ゆっくりすれば良いだろ」

「アキサメさん、何だか申し訳ないわ」

「ハイ!リズがおてつだいします!」

「私も手伝います。何でも言って下さい、アキサメさん」

「ありがとうございます。お嬢さん方は、後で少しお手伝いお願いします」

「はーい!」

「分かりました」


 さて、準備を始めましょうか。

 と、思ったら、サーシャさんから提案がありました。


「始める前に、自己紹介しない?エリスもいるんだし、丁度良いわ」

「あ!サーシャ姉ありがと。助かる」

「それもそうだな。では、儂から。

 名は、レオン・ガルトラムだ。この辺境ガルトの先代領主だな。今は領主代理、となっておる」

「じゃあ、次は私。

 私の名前は、サーシャ・ガルトラム。エルフ族よ。レオン・ガルトラムの第二夫人で、今日から、ルーチェのお母さんよ」

「はい!リザティア・ガルトラムです!レオンおじい様とサーシャおばあ様のまごで、ルーお姉ちゃんのいもうとです。好きなたべものは、おいしいおかしです!とくに、カステラがすき!」

「私は、本日からルーチェ・ガルトラムとなりました、ハーフエルフです。ご縁あって、レオンお父さんとサーシャお母さんの娘になりました。

 アキサメさんのお店、〈気まぐれ猫〉の従業員です。宜しくお願いします」


 ガルトラム一家の自己紹介。1つの幸せな家族の雰囲気が、自然と伝わってきますね。

 次は私かな?と思ったのですが、先にエリスさんが。


「私ね。私の名はエリス・ルークシア。名前の通りルーク王国の王族で、現国王陛下の姉よ。大公をやってたんだけど、今はもう引退して自由を満喫中。未だに、大公妃殿下なんて呼ばれるけどね。

 分かり難いかも知れないけど、私もハーフよ。詳しくは後でお話ししましょう」


 ハーフだったんですね〜。でも、ハーフエルフ、では無いという事でしょうか?それも含めて後で教えてもらえるのですね。


 さぁ、私の番。


「では最後に私が。

 私の名前は、ユルクに言えば、アキサメ・モリヤ。

 今も昔も、商いを生業としており、今は〈気まぐれ猫〉を営んでおります。


 皆さん御気付きかと思われますが、


 私は、この世界の人間では、ありません。

 皆さんから見れば、、ですよ」


 そう、私が、異世界人余所者なのです。

 何処ぞの誰かさんに、勝手に異世界召喚さ喚び出された、ね。

 どんな理由があるかは、これっぽっちも存じ上げませんし、興味もありませんが。

 

 

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