秋雨とアキサメの生きる道。

始まりはボディブロー。

 ルーチェとの話の後、私は〈転移扉テレポートドア〉を使い、ロイロにケーキをお供えに。

 ついでに次の仕入れの話をしたりして、少しお喋りに花を咲かせた後に部屋に戻り、を使って、少し勉強中。

 多分、ユルクに来て、1番最初にスマホを確認したと思います。仕入れ先の連絡先が保存されているスマホは、私にとって財産ですから。

 電話やメール、SNSの利用等は出来ませんでしたが、入れてあったアプリは使える事に気付きましてね。

 違いますね、使えてしまいました、ですね。

 ユルクで、一部とはいえスマホの機能が使えるので、摩訶不思議ですね。あまり深く考えても仕方無いので、ちょっと便利、と思う事にしていますが。


 そうこうしていると扉がノックされ、準備が整ったという事だったので、そのままメイドさんに案内してもらいます。

 到着した部屋は、レオン夫妻がお祝いケーキを使用人さん達に振る舞い、自分達も〈Kei.Ⅹ〉のケーキに舌鼓を打った部屋。


「アキサメ様をお連れしました」

『入ってもらってくれ』


 扉を開けてもらい、部屋の中へ。

 既に、エリスさんと護衛の方以外はお揃いでした。サーシャさんと、ルーチェ、リズお嬢様は窓際で歓談中。私は、下座にあたるソファへと勝手に向かい、1人だけ座っているレオンさんに挨拶をします。


「お揃いの様で。お待たせ致しました」

「構わん。皆、今来たところだ。エリスもまだだしな。......それより、に座るのか?」

「プライベートとは言え、私はただの商人ですので」


 ここが下座で正解の様です。


「まぁ、良いか。プライベートだしな」

「はい」


 私がソファに座ると、サーシャさん達女性陣達もソファへ。


「アキサメさん、なの?」

「儂が良いと言ったんだよ。気にしなくても大丈夫だろう」

「そう。じゃあいいわね」


 あれ?サーシャさんまで...この席に何かあるのでしょうか?


「アキサメお兄さん、今日はお泊まりですか?」

「アキサメさん、先程はありがとうございます」

「そうですよ、リズお嬢様。

 ルーチェ、どういたしまして」

「やったーー!アキサメお兄さん、後でお話ししましょう!」

「はい。時間が出来たら是非。何か楽しめる物を用意しておきますよ」

「ありがとうです!」

「アキサメさん、私も一緒して良いですか?」

「ええ、もちろん」

「ありがとうございます。楽しみにしてますね」


 はしゃぐリズお嬢様と、それを見守るお姉さん役のルーチェ。良い関係が出来ていますね。

 何か、遊び道具を用意しましょうかね?

 後で、あの頑固爺に会いに行ってきますか〜。久しぶりですが、いきなり怒られたりしないですかね?あ!そうだ...


「リズお嬢様、ルーチェ、少しコチラを向いて下さい。そうそう、そんな感じで。もう少しお互いに近寄って...はい、笑顔で」

「?」

「こうです?」


ーーパシャ


「キャッ!?」

「わっ!?」


 あ。ユルクコッチに写真って、無いんでしたっけ...?


「...アキサメ。何をしたのだ?」

「光ったわね〜。光源魔法ライトかしら?でも一瞬だったわね」

「アキサメお兄さん!何ですか、ソレ!?」

「...びっくりしました」


 驚かせてごめんね、2人共。


「あ〜、はい。そうですね...写真、というモノを撮影しまして、これは、その機能が使える物、ですかね?」

「シャシン?何なんだそれは?」


 ま、いっか。見せた方が早いでしょう。


「こういうモノですよ。精巧な絵を一瞬で描く事が出来る道具...魔道具、でしょうか?因みに写し出した絵を、写真、といいます」


 そう言って、今しがた撮影したリズお嬢様とルーチェの写真の画像を、皆さんに見えるように差し出す。

 すると、全員が身を乗り出してスマホの液晶画面を見て、興奮し始めました。


「わぁ!?ルーお姉ちゃんがいます!こっちがリズですか?すごーい!」

「本当だ!私達がいる!とっても綺麗な絵ですね!」

「まぁ!綺麗で精巧な絵だわ!2人共可愛いわよ」

「.....素晴らしいな。こんな精巧なモノがあの一瞬で描く事が出来るとはな。それは売り物か?」

「上手く撮れてますよね。2人共可愛いですよ」


 これなら、あの頑固爺も話くらいは聞いてくれる事でしょう。


「.......おい、アキサメ。さらっと流すな」

「はい?」

「そのシャシンとやらを描く魔道具は、商品なのかと聞いてるんだよ。売り物なら買うぞ?」


 あ〜なるほど。リズお嬢様とルーチェの写真を撮りたんですね〜。

 残念ですが、スマホは売れませんね。

 生憎、カメラを扱う仕入れ先とは、お付き合いが無いん...いや、もしかしたらイケる?要確認ですね。


「レオンさん、これは私物でして、売り物ではございません。代替品を何か探してみますのでお時間を頂けますか?」

「そうか...残念だが仕方ないな。無理のない範囲で探してもらえると嬉しいな。時間は気にせんから見つかったら教えてくれ」

「はい、そういう事でしたら。楽しみにお待ち下さい。

 ついでに、その絵を大きな紙に書き写す道...魔道具も探しておきますね」

「何?絵画のサイズ位に大きく出来るのか?それは良い!是非頼む!」

「畏まりました。今度、色んな写真でも撮りましょうか?家族全員で撮る家族写真とか、夫婦2人の仲睦まじい様子の写真、1人1人の写真。

 沢山撮って、アルバムでも作ったら良い思い出になりますよね」


 レオンさんとサーシャさんが、凝視してきましたよ。圧が強いですって、圧が。


「アキサメさん、アルバムって何かしら?話を聞く限り、その写真という絵をコレクションしておく物みたいだけど」

「なんか素敵な響きだったぞ、アルバムとやらの性能は」


 何処かの赤い人ですか、レオンさん?

 写真を撮るのが好き過ぎて、自分の作品の写真を工房の事務所の壁一面に飾ってる鈴代さん。プリンターをお借り出来ないか、彼女に相談して見ますかね。彼女のガラス製品も仕入れたいですし。


「そうですね...準備が整ったら、一緒に作りましょうか。

 多分、写真をプリントアウトするくらいなら、何とか出来るでしょう」

「ぷりんとあうと?は分からんが、是非頼む」

「まぁ!私からもお願いします、アキサメさん」

「承りました」


 ガラスですか。ユルクって透明なガラスは未だ少なそうですから、高級品扱いになるんでしょうかね?出来れば一般のお客様にも喜んで頂きたいのですが。

 そんな事を考えていると、


ーーコンコン


『エリス大公妃殿下がお見えになりました』

「うむ」


 開けられた扉の奥から現れた、エリス・ルークシア大公妃殿下。

 その真紅の髪は、緩やかにウェーブがかかっており、一歩進む度にゆらゆらと。

 揺らめくソレは、安らぎを与える暖炉のようで。

 燼滅を齎す理不尽な大火のよう。

 

 にじり寄る真紅は、私の目の前で止まる。

 より深紅なその瞳が映す私は、燃え盛っているように見えて、言葉を忘れてしまう。


 そんな私から視線を逸らす事無く、彼女はその握った両手を胸の辺りまで持ってくると、手首を私の方に曲げて見せ、口を開いた。



「アキサメちゃん、さっきはごめんニャ♡」



 ...誰か、助けて下さい。

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