◉儂の友人は、人誑しだからな。
「では、私も失礼しますね」
そう言って、リズとルーチェの後に退室して行く友人、アキサメ。
先程のリズとのやり取りの中に込められたメッセージを思い出すと、一気に身体中が疲労を訴えてきたので、この屋敷で1番上等なソファに座り、背もたれに身体を預けた。
「ここ最近で、1番疲れた1日だ」
つい先日まで、馬鹿息子の件で王都に出向いて、いざ帰って来たらこの状況。
忙しくなる。そう心構えをしておったが、あっさりとぶち壊されてしまったわ。
「お疲れ様、あなた」
「うむ。サーシャにも気苦労をかける」
「良いのよ。ローザさん達の事は残念だけど、あなたから聞いていた通りだったし、これからリズの為にも頑張らないとね。それに、私達のルーチェの為にも、ね」
「勿論だ。可愛い娘と孫娘の為だからな。しっかりやるぞ!」
「うふふ。顔がダラし無いわよ、あなた」
ん?そうか?儂は天使馬鹿爺だからな。
「ちょっと、私もまだ居るんですけど?忘れてないかしら?目の前でイチャイチャしないでよ!」
おぉ、忘れておった。
「いや、すまんな。なんだかんだと忙しいなと嘆こうとしたが、良く考えたら儂達にとっては良い出来事も多かったものでな」
「え?何があったの?ルーチェちゃんの事以外でよね?」
「エリス、実はねーー」
サーシャが、アキサメがウチに来てから先程までの出来事を、楽しそうにエリスに話しておる。
こんなに楽しそうなサーシャの顔を見るのも久しいの。これもアキサメのお陰だな。
「......何それ、ズルい」
「良いでしょう?とっても素敵よね。凄く美味しいケーキで祝ってもらった上に、そのケーキを幸せと一緒に皆に配るって。
私達は、やってもらう事が当たり前みたいになってたなって、気付けたわ。本当に幸せな気持ちになれたの。アキサメさんには感謝ね」
確かに儂も、あの考え方には感動したな。
儂への苦言も、ロドスを鼓舞する言葉も。
ルーチェやリズを優しく諭す言葉も。
そして、最後にリズへ贈った、力強い言葉も。
アキサメの言葉は、心に響く。
「そんな素敵なセレモニーをやってたなんて...
私なんか、お馬鹿な大人達相手にお説教してたのに。...何か差が激しくないかしら?
やっぱり私がこっちに来て、レオンが
「何言っとるんだ?エリスが張り切って『私に任せなさい!』と言って決めた事だろ。
それに、元々アキサメはここに来る予定では無かったからな?屋台の前で、儂と友人になってくれたから、その流れで、ウチに招待したんだぞ?」
「そうだ、それよ!何でレオンだけ、アキサメちゃんとお友達になってるのよ!私なんか、とんでもない殺気を身近に感じて泣きそうだったのに!」
あれは...儂も怖かったぞ?
「確かに、アキサメさん凄かったわね〜」
「...サーシャは怖く無かったのか?」
「え?怖くなんて無かったでしょ?あれは、そこにいるエリスの騎士が、先にやらかしたからでしょう?
確かに、エリスの前で不敬な態度だったかも知れないけど、そもそもエリス、貴女はちゃんとアキサメさんに名乗ったかしら?
此処に来た理由を、最初の部分から説明した?
してないでしょ?
アキサメさんからして見れば、友人の孫娘で、アキサメさんも可愛がってて、その上、自分の店の従業員の事をお姉ちゃんと慕ってくれる幼いリズを、貴族家の事情とはいえ、突然、辛い状況に追いやった偉そうな貴族よ、貴女。
それに、もしかしたら自分の
「あ...そう言われると...」
「アキサメさんは、優しい人よ。
旦那様、私、リズ、ルーチェ、ウチの使用人達。みんなに喜んでもらう事を考えて行動してくれてた。
エリスにだって、ちゃんと、話す機会をつくってくれたじゃない。
それに、アキサメさんは自分の力を見せつける必要なんて、本当は全く無かった筈なの。
でも、ああする事で、当主不在で権力の弱まった状態になる辺境伯家や領地を狙ってくる、狡賢い
本当は、暴力で物事を解決したいなんて、これっぽっちも考えてないと思うわ。
むしろ、暴力を嫌っている様に見えるもの」
サーシャの言う通りだな。
アキサメは暴力に対して、強い嫌悪感を抱いておる。過去にあっただろう、その理由となる原因は、儂らには分からん。
アキサメは、無意識のうちに暴力に対する嫌悪を、人を喜ばせる、楽しんでもらう、幸せになってもらう、そういった反転した行動を執る事で、回避してきたんだろうな。
もしくは、そういう生き方を教えてくれた人が、周りにちゃんといてくれた、か。
案外、不器用な男だよ、
「そっか。そうよね。アキサメちゃんはこの国の民じゃないのに...本当は、私がやらなくちゃいけない事を、やりたくない手段まで選ばせちゃって...」
「いや、違うぞ。アキサメはという男は、そうでは無い」
「どういう事?レオンにはアキサメちゃんの事が分かるの?」
「儂にだって、全ては分からん。だがな、アキサメは元から自分の持つ力を、隠そうとはしておらん。
確かに、暴力に対して忌避しておる節はある。
だからと言って、力を使う事を躊躇いはせん。先程の話では無いが、もしも今、
アキサメはな、自由で在りたいという想いが人一倍強いんだ。
誰にも邪魔されずに、やりたい事を、全力でやる。自由に、楽しんで。
その為に必要だと判断したら、全部使うと思うぞ」
「自由に...楽しく、か。少し羨ましいわ。
でも、何故そこまで出来るのかしら?」
「簡単な事だ。
笑顔になって欲しいと思ってるんだよ。
幸せになって欲しいと願ってるんだよ。
他人にも、自分にも。
どうしようも無いくらい、根っからの善人なのだろうよ、アキサメは。
不器用だけどな」
「うふふ。確かに不器用かも。澄ました顔して」
儂の友人は、人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます