秋雨の本意。エリスの本質。その笑顔の為ならば。
久しぶりに名乗った名前に、酷く不愉快な気持ちになってしまう私。
「じゃあ名乗るなよ」と心の声が聴こえてきそうです。
ガルトに入る時の検問で言った、家業が嫌で飛び出した放蕩息子の設定に、「あながち間違いでは無いんですがね」と心の中で失笑したのを思い出します。
だって、嫌じゃないですか。
朝から晩まで、只管、刀を振り回してはボロボロになって。
世の中には、楽しい事が沢山あるのに、今のご時世、『武を極める』なんて漫画の世界じゃあるまいし。
逃げるでしょ、普通。無理無理。
だって私、嫌いですから。
刀一本で熊と戦うとか、野生の鹿の首を一刀で両断するとか、そんな殺伐とした日常。
...できなくは無いですけど。
だから、
地球で
少し陰鬱な気分で、少しでも遠くに行こうと思って、某テーマパークまで態々足を運んだら、
地球の神様に感謝しました。本気で。
勿論、異世界召喚されたのに、
あまりにも逃げ隠れしてたのが原因かは分かりませんが、ステータスを見た時、隠密スキルが生えてたのには少し笑いました。
私はこれからも、アキサメ・モリヤとして生きていきます。
その上で、自分の能力を出し惜しみするつもりは、やっぱりありません。
それが、この世界に、来た時に得たモノであろうが、例え、
〈気まぐれ猫〉に来店されるお客様に喜んで頂く為に必要なら、〈
今回のような、リズお嬢様に手を差し伸べる為に必要なら、
基本的に戦闘はしたくはありませんが、抑止力になるのであれば、それに越した事はありません。
あくまで私は、
まぁ、人の
例えば、私に畏れや敬いの入り混じったような視線を向ける、エリス大公妃殿下みたいな。
「アキサメお兄さんは、わたしとおともだちになりたいって事ですか?」
「あはは。正解です。リズお嬢様のお友達にしてくれませんか?もちろん、お友達特典がありますよ?」
「おともだちとくてんってなんです?」
「1つ目。美味しいお菓子を仕入れたら、味見する権利を差し上げます」
「え!?リズ、うれしいです!」
「まだありますよ?2つ目。私のスキルで、秘密基地にご招待します」
「ひみつきち!?わくわくします!」
「最後に3つ目」
「3つもあるのですか!?」
「はい。3つ目は、リズお嬢様が、「困ったな」「どうしよう」という時、自分ではどうしても手に負えない、解決出来ない事が起きた時には、私が手助けしてあげます」
「リズがかいけつできない事...たくさんありそうです...」
「いいえ、先ずはリズお嬢様自身でやってみるのです。頑張ってやってみて、どうしても出来ない時は、私が手を貸しますよ」
「ん〜、たとえば、どんな時ならてをかしてもらってもいいんですか?」
「例え、ですか...。そうですね、出会った事は無いですが、
「ドラゴン!?ホントですか!?アキサメお兄さんはつよいですか!?」
「まぁまぁ?でしょうか」
一斉に私を驚愕の表情で見る皆さん。
当たり前じゃないですか、桐生は
レオンさんからキリュウの名を聞いた時は吃驚しましたが、聞けば聞くほど、桐生本人としか思えなかったですし。
アイツも2度目の人生は幸せに過ごしたようで何よりですね。
「ア、アキサメ。1つだけ、聞いても良いか?」
「?どうぞ、レオンさん」
「アキサメは、儂の祖父、キリュウ・ガルトラムを知っておったのか?まるで会った事がある様な言い方だったんだが」
「あ〜、はい。そうですね、その話は後で友人同士の語らいの時にでも」
「!!.....うむ。承知した」
「アキサメちゃんは、私には教えてくれないのかしら」
エリス大公妃殿下が聞いてきます。護衛騎士は未だに青褪めており、俯いたままです。
「今の貴女には、難しいかと」
「!...そう。そうよね」
「〈気まぐれ猫〉でお会いしたお嬢様とでしたら、お茶でも飲みながら、昔話に花を咲かせる事もあるでしょうが」
「!!」
「エリス大公妃殿下としての御勤めを果たすべきかと」
「ありがとう、アキサメちゃん。
さて、リザティア・ガルトラム。
陛下の代理として、私、エリス・ルークシアが、貴女に辺境伯位を授ける。
但し、正式な叙爵は成人の儀が済んだ後とする。それまでは辺境伯位は空席とし、ガルト領の領主権限は、特例としてレオン・ガルトラムに預けるものとする。
此度の辺境伯家の件は、本来あってはならぬ事。各自、気を引き締め、2度と同じ事の無いように心せよ」
「「「「ハッ!」」」」
レオンさん、サーシャさん、リズお嬢様、一拍遅れて、ルーチェが跪き礼をとります。
私?跪く事はありません。この国の者ではありませんし、今は跪いてはいけませんから。
「これで、一旦解散しましょう。少し疲れたわ。休憩した後...」
いや、そんな目で見られても困りますが。
もう、結構な時間になりつつありますよ?
「アキサメ、今日はウチに泊まっていってはくれんか?なごみ亭には連絡をちゃんと、ルーチェの分と合わせて入れるから、頼む」
いや、頼むって言われても...何を?
「アキサメ、お前が悪いんだからな。
エリスは、キリュウ祖父さんの大ファンなんだよ。
お前が
祖父さんとも知り合いみたいな事を言うから。
お前の責任だからな」
え、ウソ。もしかして、エリスさんって
ガチで勇者とかに憧れを持つタイプ?
見た感じ、立派な
「え?私、商人ですけど...」
「どの世界に、片手間で
本当に商人なんですけど。
「あ、そういえば急用を思い出したような...」
「....下手くそな言い訳するなよ...」
レオンさん、サーシャさん、そんな目で見ないで下さいよ、あっ、ルーチェまで...
リズお嬢様だけはニコニコですね。
「おかしのあじみ!ひみつきち!やったーー!」
...まぁ、いいでしょう。この笑顔の為ならば。
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