リザティア・ガルトラム女辺境伯の誓い、秋雨の誓い。
エリス大公妃殿下がレオンさんの屋敷を訪れた事で、私達は束の間の休息を切り上げ、身支度を整えて、貴賓をもてなす為に用意された、このレオン邸で1番広くて豪華な造りの部屋へと、案内されました。
白を基調とした気品ある部屋の中には、先程ケーキを食べた部屋のものよりも大きくて、金糸で細やかな刺繍の施されたグリーンの布地が美しいソファに、上品なワインレッドのドレスを見に纏い、威厳を備えた美しい女性が中央に座り、背後には護衛な騎士が1人立っています。
左右には、レオン、サーシャ夫妻と、反対側にはリズお嬢様とルーチェ。
何の冗談か、大公妃殿下の正面に座らせられた、私。
時折目が合う、騎士様の視線の鋭さに、内心で辟易しています。
メイド長のミルザさんが、皆さんに紅茶を配り終えて退室した事を合図に、エリス大公妃殿下が、話の口火をきりました。
「さてと。みんな揃った事だし、報告しましょうか。
アキサメちゃんと、ルーチェちゃんには少し退屈な話になるかも知れないけどごめんね?」
「エリス、すまないが、先に儂から報告がある。その内容を聞いてもらってからの方が、話がスムーズに進むだろう」
「あら、そうなの?レオンがそこまで言うのは珍しいわね。聞かせてもらえるかしら」
「うむ。実はな、儂とサーシャは、そこに座るルーチェを養女として迎える事に決めた。
勿論、無理強いなどでは無く、お互いに話し合って決めた事だ。ガルトラム家の継承権などについては一切の関与はさせないとを、ここで誓おう。
あくまでも、儂とサーシャの1人娘として、家族として迎えたのだ」
「へぇ。そうなのね。...うん、良いんじゃないかしら。
良かったね、サーシャ姉。ずっと、子ども欲しがってたものね。おめでとう!」
「ありがとう、エリス。私、お母さんになれたわ」
「レオンもおめでとう。
そうね、確かに話がスムーズになったわ」
「ありがとう、エリス」
...随分と親しい仲なんですね。確かに、始めからレオンさんは、エリス、と呼んでましだけど。サーシャ姉?2人とも旧知の仲なのですね。
「さて、ルーチェちゃん。貴女はレオンとサーシャ姉の娘になったからには、今から話す事も、全くの他人事では無くなってしまったけど、難しく考え過ぎないようにね。
ルーチェちゃんの事は少し調べさせてもらったんだけど、今まで大変だった分だけ、ちゃんと幸せになりなさい」
「はい。ありがとうございます、大公妃殿下」
「...固いわね。まぁ、これからね。
さて、じゃあ、改めて報告するわ。
先ず、ガルトラム辺境伯は爵位を剥奪、王都にて貴族院による審議会にかけらる事になったわ。
罪状は、辺境都市ガルトにおける税の横領と禁制品の密輸に関与していた疑い、それと、王族に対する不敬罪も追加されたわね」
何、やってるんですか、顔も見た事のない辺境伯さん...いえ、元辺境伯さん。
王族とは、エリス様の事でしょうね。大公妃殿下、ですから。
それにしても、本当に、レオンさんの息子ですか?元辺境伯さん。
「そう、ですか...。御手数お掛け致しました、エリス大公妃殿下」
気丈に返す、レオンさん。ある程度知っていたのでしょうね。
だからといって、気持ちが追い付くとは限りませんが。
それに、もう1人。
「リズ。リザティア。私の言葉を、良く聞きなさい。
貴女の父ケインは、悪い事をしてしまったから、捕まってしまったの。もう、リズと会う事は出来なくなる。
それに、リズのお母様のリーゼも公爵家に帰る予定だから、離ればなれになっちゃうの。
お祖母様のローザにも、これからは会えない事になるし、叔父のマルクはガルトラム家から出て、ただのマルクになったわ。
辛いかも知れないけど、決まった事だから、分かって欲しいの」
一家離散じゃないですか...。
お母さん、リーゼさんというのですね。お会いした際は、そんな方には見えなかったんですがね。マルクさんはどうしたんですかね?禁制品絡み、では無いと信じたいですが。
それにしても、まだ幼いリズお嬢様に、このような事が降りかかるなんて...。
悪いのは大人達であって、リズお嬢様には何の罪も無いというのに。
あぁ、だからレオンさんが言っていた、後継者は決まっている、に繋がるんですね。
まだ
レオンさんがリズお嬢様を連れていたのは、後継者教育をする為、ですかね。その流れも大公妃殿下とは話し合いが済んでいるのでしょう。
ルーチェの件が、この話をスムーズにする理由は、継承権を破棄してあるから、でしょうか?それとも、他にも理由があるのでしょうかね?
そんな事を考えていたら、それまで黙っていたリズお嬢様がぽつり、ぽつりと話し始めます。
「リズは...リザティアは、お父様やお母様、ローザおばあ様、マルクおじ様にあえなくなるのは、さみしいです。
だけど、わるい事をしたら、ごめんなさいしないといけないって、しってるです。
エリス様、お父様がわるい事してごめんなさい。
お父様に、わるい事はダメだよって、おしえてくれてありがとうございます。
リザティアには、レオンお祖父様もサーシャお祖母様も、ルーチェお姉様もいます。
それに、アキサメお兄さんだって。
まわりに、たすけてくれるやさしい人が、たくさんいます。
だから、さみしいけど、さみしくありません。
リザティアは、きぞくのおうちにうまれたから、そのせきにんを、やくそくをまもります。
私は、リザティア・ガルトラム、ですから」
ちゃんと頭をペコリ、と下げて。
あぁ、本当に隔世遺伝ですよ、全く。
こんな幼子が、貴族の誓いを立てるなんて。
どうしても、
私が話した事をちゃんと理解して、行動して。本当に賢く、優しい子です。
私、弱いんですよ、こういうの。
手を、差し伸べたくなるじゃないですか。
全力で。
「良く出来ました、リズお嬢様。いえ、リザティア・ガルトラム女辺境伯様」
「貴様!主の話す最中に不敬な!」
エリス大公妃殿下の護衛騎士が、そんな事を言いながら、殺気を飛ばしてきます。
そんな温い殺気なんて。
私は無視して席を立ち、リズお嬢様の前に跪き、下から見上げる様にして、目線を合わせて、伝えます。
「ちゃんと、私の言った事を、約束を守って頂けるのですね」
「アキサメお兄さん...?」
「貴様!無視するなぁ「黙りなさい」!?」
小蝿がブンブンと五月蝿くてかないません。
しょうがないので、本物の殺気を提供して差し上げましょう。
ーーぞわり。
「五月蝿い、ですよ。小僧。
貴様如きが、私の話を遮るなんて。
地獄の鬼が笑ってしまうじゃないですか」
「ア、アキサメちゃん?ど、どうして...」
「アキサメ!お、落ち着いてくれ!カイン!貴様も下がれ!!」
「アキサメさん、貴方は...」
全く。その程度でしか無いのなら、黙ってなさい。
私はリズお嬢様に向き直って、続けます。
「貴女のその想いに。
その友愛の心に。
誇り貴き血に。
私、護屋 秋雨は、リザティア・ガルトラムと友誼を結ぶ事を誓いましょう。
これから先、貴女に艱難辛苦が降りかかる時、馳せ参じると約束しましょう。
我、御堂院 秋雨が、貴女様の刀となり、斬り伏せて御覧に入れよう」
懐から取り出した、家紋の入った短刀をリズお嬢様に捧げながら、
久しぶりに名乗った、本名に懸けて。
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