◉勇者《主人公》達は、今。...夢のような悪夢〈ユメ〉
私、何で
もう、何回も何回も、同じ事を考えては、無意味な事だと嘆いてる。
【異世界召喚】。
ショッピングモールの書店や、本屋さんに行けば、必ずあるライトノベルコーナーで、必ず目にする言葉じゃないかな?
主人公が、突然ファンタジー溢れる異世界に召喚されて、剣と魔法で悪い奴をやっつける、お話。
私も、嗜む程度には読んだ事あったし、アニメ化された作品を、TVで観たりもした。
でも、いざ、自分がそんな突拍子も無い事に、実際巻き込まれてしまったら?
それは、ただの人生最大の不幸な出来事、でしかない。
クラスの男子は盛り上がってたけど、私はそう思う。いや、そう実感してる。
その、たった4日間で、私はどれだけ、自分が恵まれて生きてきたのかを、目の当たりにしてしまった。
美味しくない食事。
お風呂に入れない生活。
目を覆いたくなる様なトイレ事情。
SNSで繋がる事が出来ない孤独な日々。
電気、ガス、水道の有り難み。
固くて、身体中が痛くなる寝床。
最低辺の基準が低過ぎる、身分制度。
言い出したらキリが無いほど。
そして、1番辛いのは、生命のやり取りと、重みを感じない生命の、価値。
私達、召喚されたクラスメイト一同と担任の先生は、〈勇者〉の称号を持っており、このルーク王国の王女様から、邪神討伐の依頼を受けた。受けてしまった。
それからは、日中は半分訓練、もう半分は近くの森に行って、〈魔物〉と呼ばれる生き物を殺しまわっている。
所謂、レベリング、という行為だ。
ステータスにレベルなんて無いんだけど、使用するスキルの効果が上がる、らしい。
二足歩行の生き物を初めて殺めた時は、胃の中が空っぽになるまで吐いた。
見た目こそ全く違う生き物とはいえ、人間に近いソレにショートソードを突き立てた感触は、一生涯忘れる事は出来なさそう。
だって私は、本家の人達みたいに、武術を追求して生きているのでは無い、普通のJKなんだから。
そんな、駆け足で生き急ぐ様な生活が、私達みたいな、普通の高校生の心を、日々蝕んでいく。
既に、数人のクラスメイトは寝込んでしまい、部屋から出てこなくなっている。
私だって、出たくない。
でも、部屋の中に閉じこもっていたら、確実に頭がおかしくなりそうで。
小説の設定そのままのような説明で、邪神討伐が成功すれば、神様が願いを叶えてくれる、らしい。そんな事、誰も出来ないから、私達を無理矢理喚んだクセに。
神様が願いを叶えてくれるなどと。
誰が保証してくれると、いうのか。
邪神だって、神、じゃないか。
それでも、拒否権なんて、最初から存在していなかったから。
地球が恋しい。
お母さんの作ったご飯が食べたい。
少し口煩いお父さんの運転で、ドライブしたい。
お風呂にゆっくり浸かって、ふかふかのベッドで寝たい。ベッドの上で、流行りのTikTokeを観ながら、好きな楽曲をサブスクのプレイリストから引っ張り出し大音量で流して...。
そういえば、今年のお父さんの誕生日、〈kei.Ⅹ〉のケーキで祝う予定だったなぁ。
中々予約の取れない〈kei.Ⅹ〉のチョコレートケーキ、食べたかったなぁ。
きっと、ほっぺたが落っこちちゃうくらい美味しいんだろうな。
1回くらい、食べてみたかったな...。
こんな状況なのに、考えた先に出てきたのがお菓子の事だなんて。
我ながら、食い意地が張っていて呆れる。
ないものねだりをする事で、ささやかな現実逃避をしているのかな?
でも、地球のお菓子のレベルって、本当に高いと実感しちゃう。
ユルクのお菓子が特別不味いワケじゃなくて、地球のお菓子が異常に美味しいだけ。
「あ〜あ。チョコレートケーキ食べたい。
美味しい和菓子食べたい。
カステラ、大好きなんだよね、私」
「ちょっと、
親友の
そう、私達はレベリングの真っ最中。
「何で、こんな事になったのかな?」
「春海がトドメを刺さないからよ!」
「違くて、この現状だよ」
「...泣いても笑っても、変わらない。それだけは、間違いないって事よ、今は」
「私達、修学旅行中、だったよね?」
「そうね、夢の国よりも、ずっと夢のようなトコに居るわね。それも、悪夢の方」
「そう、だね。早く覚めて欲しいよ、こんな
「春海!次来たよ!生きて帰るよ、こんな
「優希、言葉が汚い」
「言葉なんか気にしてる余裕なんて無いからよ!行くよ、春海!」
「うん」
そうやって私達は、今日も剣を片手に、沢山の生命を刈り取っていく。
生命を、この世界に奪われてしまわない為に。
【ハルミ・ミドウイン 女 (17)
状態 ストレス(弱)
職業 剣聖(未覚醒)
スキル 剣術、身体強化、アイテムボックス、言語理解
称号 勇者】
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