めぐり逢う者達。...グッジョブ、天使様。

 神様あなた、よくもやってくれましたね?


 .....グッジョブですよ!


 あ〜良かった。勇者テンプレじゃ無くて。

 小説とかで良くある〈巻き込まれた者〉とか、〈真の勇者〉みたいな、主人公です!みたいな称号が付いてたら、恨むとこでした。


「という事で、勇者様ではありませんよ、皆さん」

「.....そうか。だが、それでも、な。

 取り敢えず、アキサメのステータス関連については、此処にいる儂らだけの秘密としようか。

 どこまでも隠しきれるとは思わんが、内緒にしておいた方が良いだろうて。

 .....本人は隠すつもりが無いみたいだがな」


 はい、ありませんよ。バンバン使っていきますから。

 でも、心配な事が一つだけ、あります。


「レオンさん。1つ、お願い事があるのですが」

「アキサメが願う事...少し聞くのが怖い気もするが、なんだ?」


 失礼な。


「ルーチェの事ですよ。

 私だけなら、ぶっちゃけ、どうとでも出来ますが、ルーチェはそうはいきません。

 もし、〈気まぐれ猫〉で働いている時間外で、何かに巻き込まれてしまうと、後悔してしまうので」

「なるほどな。確かに、有り得る話だな...」

「あら。それなら解決方法があるわ」


 サーシャさん?


「解決方法?どんな方法なんだ、サーシャ?」

「簡単な事よ。

 ねぇ、ルーチェ。

 もし、ルーチェが良いって思ってくれるなら、考えて欲しいのだけど、


 私達夫婦の、娘にならない?


 私、ルーチェが娘になってくれたら、嬉しいわ」


 なるほど。確かに簡単で、これ以上ない解決方法です。ルーチェが良ければ、ですが。

 悪い話では無いですね。


「えぇ!?わ、私がサーシャさんの娘に!?

 ほ、本気ですか?私は孤児で、勉強とかも出来ないし....それに、ハーフですし...」

「何を言っておるのだ、ルーチェ。

 儂とサーシャの娘なら、ハーフで当たり前だろう。

 サーシャ、名案だな!」

「でしょ?さっき、お友達になったばかりだけど、お友達はやめて、にならない?」


 家族。

 その言葉を聞いた途端、ルーチェの翠玉色エメラルドグリーンの瞳から、涙が溢れました。

 生まれて初めて出来るかもしれない、家族。

 独りぼっちの少女を、温めてくれるかもしれない存在。


「うぅ、ゔれじいでず〜!わだじ、私、家族が、家族に.....あ、あぁ...」


 泣き崩れた後、少しだけ落ち着いたルーチェが語り出しました。

 それは、激情、でしょうか。

 溜まった感情が、堰を切ったように次から次へと、溢れて。


 「一緒にお料理したり、お菓子を作ったり、お裁縫したり、お買い物したり、家事を教えてもらったり、優しく抱きしめてもらったり...私、そんなお母さんが、欲しかった!

 一緒にご飯を食べたり、お仕事を頑張る姿を見たり、肩車してもらったり、色んなお話をしてもらったり、大きな手で頭を撫でてもらったり...私、そんなお父さんが、欲しかった!


 でも、私は独りぼっち、でした。


 いつも同じ事を考えてました。

 何で私は、独りぼっちなんだろうって。

 私が、何か悪いことをしたから、お父さんもお母さんも居ないのかなって。だから、

 

 少しだけ、ほんの少しだけ、怖いんです。


 本当に、私は幸せになれるのかなって」


 泣きながら、自分の気持ちを吐き出したルーチェを、サーシャさんとレオンさんがしっかりと抱きしめて、言葉を贈ります。


「なれるわ、幸せに。

 なりましょ、幸せに。

 私達と一緒に、幸せに」

「ご飯も、仕事見学も、肩車も、お話も。

 こんな皺くちゃな手だが、頭だって撫でてやる。

 全て、全て儂達が叶えてやる。

 厳しく叱る時もあるだろう、優しく褒める時もあるだろう。

 そんな、一瞬一瞬を、儂達と一緒に過ごしていこう。

 だから、ルーチェ。儂達の娘になってくれ」

「!!!......はい。

 私を、家族にして下さい。

 私の家族に、なって下さい」


 抱きしめ合いながら、新たに家族を迎え入れた夫婦と、少女。


 ふふふ。

 子に恵まれなかった、レオン、サーシャ夫妻。

 親の顔を知らずに育った、ルーチェ。


 合縁奇縁あいえんきえん

 人と人のめぐり逢いは、不思議な縁のはたらきがあるという事、でしたかね。

 それにしても、不思議な縁、ね。

 おそらく、天使様の祝福そういう事、なんでしょうけど、取り敢えず、


 天使様、グッジョブ。

 今度、〈Kei.Ⅹ〉のチョコレートケーキ、お供えしときますね。

 

 そんな事を考えていると、レオンさんとサーシャさん、ルーチェが、こちらを向いて話しかけてきました。


「アキサメ、そういう事だ。ルーチェについては、心配いらん」

「アキサメさん、ありがとう。貴方のお陰で、今日一日幸せでいっぱいだわ」

「アキサメさん!ありがとうございます!私、これから〈気まぐれ猫〉で一生懸命頑張ります!」


 そういえば、ルーチェを働かせて良いのですかね?貴族の令嬢になった訳ですし。


「ルーチェ...ルーチェお嬢様は、〈気まぐれ猫〉で働いても良いので?」

「アキサメさん、ルーチェでお願いします」

「大丈夫だ。儂はもう、ガルトラム家の継承権に口は出せんし、後継者は既に決まっておるのでな。

 ルーチェは儂達の娘となるが、自由にしてもらう予定だ。

 それに、ガルトラム家なんかよりも、アキサメとの繋がりの方が、儂達にとっては大事だからな」

「宜しくお願いします、アキサメさん!」

「そういう事でしたら、改めて宜しく、ルーチェ」


 良かった、また従業員ゼロぼっちになるところでした。


 でも、レオンさんの今の言い方って...


ーーコンコン。


 その時、扉をノックする音が聞こえ、続いてロドスさんの声が聞こえてきました。


『旦那様、ただ今、エリス大公妃殿下がお見えになりました。

 旦那様、奥様、リザティアお嬢様をお呼びです。あと...』

「どうした、ロドス。あと、何だ?」

『はい。あと、アキサメ様とルーチェ様も一緒に、との事で御座います』


 私とルーチェも?

 エリス大公妃殿下。リズお嬢様に事の次第を伝え、ガルトラム家に説教をした御方。

 そして、〈気まぐれ猫〉のお客様の女性。

 私とルーチェに、何の御用でしょうかね?


「分かった。身支度を整えてから、向かうと伝えてくれ。それまでの歓待を頼むぞ」

『畏まりました。失礼します』

「皆、聞こえた通りだ。準備してくれ。

 アキサメとルーチェには悪いが、もう少し付き合ってくれ」

「はい、あなた」

「分かりました!」

「私もですか?分かりました」

「ええ、お付き合い致します。

 あぁ、そうだ。

 レオンさん、私とルーチェの帰りが遅くなる事を、なごみ亭に伝えたいのですが...」

「そうだな。ちゃんと伝える様に手配しよう」

「ありがとうございます、レオンさん」

「ありがとうございます、....お父さん」

「!!うむ、良いな!ウチは息子しか居なかったからな、良いな、娘は」

「あら、あなただけズルいわ。ルーチェ、私は?」

「え!?....お母さん」

「!!素敵!夢みたいだわ!あなた、聞いた?

 お母さん、ですって!私、お母さんになれたわ!」

「聞いたよ、サーシャ。これからは、お母さんだ。やっと、夢が叶ったな」

「ええ!とっても幸せよ、あなた」


 そんな幸せに満ちた会話を聞きながら、夫々身支度を整え直す為に、再度客室へとメイドさんに案内してもらいました。

 といっても着替えも必要無いので、客室のソファでゆっくりしていると、15分ほどで声が掛かって、再び案内されます。


 エリス大公妃殿下。顔は記憶に有りますが、実際はどんな御方ですかね?

 私やルーチェを一緒に呼んだ以上、〈気まぐれ猫〉が無関係とは言えないでしょうから。


 それと、リズお嬢様の件、聞けると良いのですが。

 レオンさんの言っていた事の答えが、分かるのでしょうから。

 


 

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