絶品ケーキと勇者と異なる世界を渡り歩く商人と。

 ソファテーブルに乗せた、先程より少し小さいサイズのホールケーキ。2つ。


「アキサメ、先程のケーキとは違うのだな。

 これはまた...まるで芸術品だな。本当に菓子なのか、と思ってしまうくらい、美しいな」

「とても綺麗...。これが、お菓子だなんて」

「うわぁ!?凄いです!キラキラしてます〜!」

「すごい...とっても綺麗。こんなお菓子があるなんて」


 季節のフルーツをふんだんにあしらい、目にも美しいチョコレートケーキ。

 真っ白な生クリームの上に、苺を使い大輪の花を模った、花束の様なケーキ。

 の、2種類をご用意しました。


 「人は財産だ」と、教えて頂いた、日本を代表するパティシエ、彗人けいとさんの力作です。

 中々気難しい事で有名な方でもあるのですが、私からしてみれば、職人さんって、程度は違えど気難しい方は多いと思います。気難しいというよりは、拘りが強い、といった感じですが。

 そんな一流パティシエによる、完全注文品オーダーメイドです。


 はい。そうなんですよ、お詫びなんですよ。

 久しぶりに訪問したら、話だけで1時間も拘束されました。

 長いんですよ、彗人さんの話。

 「急いでる」って、何度言ったことか...。

 まぁ、その甲斐あって、素晴らしいケーキを用意して頂けましたけど。


「凄いでしょ?あ、少し口調が崩れても気にしないで下さい。

 今は、友人達とのプライベートな時間なので」

「あぁ、もちろんだ。先ほどのような場でも、きちんと対応してくれていたからな。

 儂も、プライベートは気兼ねしないで良いと思うぞ。なぁ、サーシャ」

「えぇ、あなた。使い分けるのは大事よ。

 それに友人だなんて、久しぶりだから嬉しいわ」

「サーシャさん!あの...私ともお友達になってもらえますか?私、エルフの知り合いが居なくて。

 折角のご縁なので、大切にしたいんです。

 無礼は承知の上ですが...」

「ありがとう、ルーチェ。私もエルフのお友達が欲しかったの。

 レオンとアキサメさんも言ってたでしょ?

 身分や歳なんか関係ないわ、友達には」

「ありがとうございます!私の事は、ルー、って呼んで下さい!サーシャさん」

「あ、リズもおともだちですよ!みんななかよしです!」


 良かったですね、ルーチェ。

 そのご縁、大事にしなさいね。


「あなた、孫娘が2人に増えたわ!」

「おぉ、そうかそうか。それは嬉しいな〜」


 あ、孫馬鹿爺さんモードになりました。


「ほらほら、食べますよ。みんなは、どちらから食べますか?私が取り分けますよ」

「え!?両方食べても良いんですか!?」

「やったーー!アキサメお兄さん、リズはあかいお花のキレイな方から食べたいです!」

「もちろん。その為に、ホールサイズで用意したんですから。

 私の故郷でも指折りの名店、パティスリー〈Kei.Ⅹケイト〉のケーキは、とても美味しいと、評判なんですよ。

 今回は、季節の果物のチョコレートケーキと苺を花に見立てたショートケーキの、2種類です」


 お姫様2人は、目をキラキラさせて話を...聞いてませんね。


「では、カットしますね」


 リズお嬢様ご希望のショートケーキから。

 スッとナイフを入れ、大きすぎにならない様に、三角にカットしてお皿に取り分けると、皆から感嘆の声が聞こえてきました。


「うわぁ!ケーキの中にもイチゴがいっぱい!」

「凄い!!とっても綺麗で、宝石みたい!」

「ここまで贅沢に果物を使うなんて。こんなお菓子は貴族でも、中々食べれないわよ」

「さっきのケーキもそうだが、アキサメの故郷の菓子は本当に美しいな。菓子にここまで手間暇をかけるとは」

「凄いでしょ?見た目もそうですが、味も絶品ですからね」


 全員分カットし、お皿に盛り付けて配ると、皆、早速食べ始めますした。


「!!?」

「おいしー!!」

「ふわぁ...幸せです...」

「まぁ!とっても美味しいわ」

「おぉ...美味そうだと思っていたが、口にしたら、想像以上だな」

「うん、美味い!流石は彗人さん。

 相変わらず、素晴らしい腕前ですね〜」


 一口食べては、幸せな表情で「美味しい」と言いながら、皆、フォークを持つ手が止まる事なくペロリと食べ終えました。

 喜んでもらえたみたいです。

 次、いきましょう。


「こちらのケーキも食べましょう」


 次は沢山の種類のフルーツの盛られたチョコレートケーキ。こちらもカットすると、皆、目を輝かせています。


「こっちも美味しい!アキサメさん、凄いです!」

「あ!!アキサメお兄さん、これ、ちょこれーと、です!」

「....美味しいわぁ。こちらは濃厚な甘さと少しビターな味が絶妙。フルーツもそれぞれが新鮮で、口の中の甘さを爽やかにしてくれるわ」

「確かに。チョコレート、と言ったか、その甘さと苦さが程よいバランスで良いな。

 儂はこちらの方が好きだ。まぁ、両方とも素晴らしく美味しいがな」

「彗人さんのチョコレートを使ったお菓子は、世界的品評会で受賞したくらい、美味しいんですよ。凄い美味しいですよね〜。

 違う種類のケーキも食べたいですね」

「「「.......」」」


 あれ?何故黙るんです?


「アキサメ...があるんだな...」

「あぁ成程、そこですか。ありますよ、もちろん。

 私は〈merchandiserマーチャンダイザー〉という職業持ちなんですよ。

 分かり易く言うと、様々な仕入れ先から、色々な商品を仕入れて、販売する職業ですね。

 特定の商品だけでは無く、幅広い商品を扱いますが。

 その為のスキルも、いくつか所持してますよ」


 さっき見せた〈異空間倉庫ストックルーム〉とかね、と言い終えると、レオンさんとサーシャさんが、驚愕の表情で私を見ていました。本日何度目です?


「ア、アキサメ、このケーキは何時いつ仕入れてきたんだ?」

「え?ケーキですか?それなら、さっき客室にいた時ですが」

「......転移スキル...」

「あなた...アイテムボックス、転移スキルといったら...」

「うむ。間違い無いだろうな」


 あらあら。もしかして、過去に転移者先輩がいたのでしょうか?

 そんな事を考えていたら、リズお嬢様がストレートに聞いてきました。


「アキサメお兄さんは、なのですか?」


 勇者?私が?無い無い。私が勇者テンプレだなんて、


「え!?違いますよ」

「え?アキサメ、勇者様じゃないのか?」

「違うんですか?アキサメさん」

「でも、そんな凄いスキルを...」

「アキサメ、実はーー」


 どうやら、転移やアイテムボックス等のスキルは、勇者と呼ばれる者達のみ扱う事が出来るみたいです。

 やっぱり居たみたいですね、勇者先輩達が。

 ガルトラム家の竜討伐者ドラゴンバスターと同じく、勇者物語は子供から大人まで、人気のお話なんですって。


 まぁそれでも、私は違いますが。


「そうなんですね〜。

 でも、私は、よ」

「いや、でもな、アキサメ」

「だって、私にはですから」

「...無い?」

「ええ、無いんですよ、


 【勇者】の称号。


 ステータスにも載ってませんよ。

 勇者さん達にはあるんですよね、称号が」


 無いんですよね〜。

 【勇者】の称号

 代わりに変な称号モノはありますけどね。


【アキサメ・モリヤ 男 (37)】

状態 健康

職業 merchandiserマーチャンダイザー(MD)

スキル merchandisingマーチャンダイジング

    〈異空間倉庫ストックルーム仕事用転移扉ワーキングテレポートドア・両替〉

    言語マスター、隠密

称号 異世界商人アウトサイダー



 神様あなた、よくもやってくれましたね?

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