朋友有信。ご心配なく。

「お2人が、幸せとケーキを、皆に分けて配るのです。お願いしますね」


 その言葉を合図に、ロドスさんやメイドさん達が一斉に動き出しました。

 本当に、レベルの高い人達です。

 部屋の中央から、少し奥にケーキを乗せる為の丸いテーブルが用意され、真っ白なテーブルクロスがかけられると、3人がかりでホールケーキをテーブルに乗せます。


「アキサメお兄さん!ありがとうです!」

「アキサメさん、ありがとうございます!」


 お姫様達は、私に感謝を伝えてから、サーシャさんの側で、わいわいと楽しそうにお喋りを始めましたね。

 ロドスさんが、カットナイフを持ってレオンさんに歩み寄り、恭しく手渡す。


「こちらをお使い下さいませ。

 旦那様、奥様。この度は、おめでとうございます」


「「「「おめでとうございます!」」」」


 使用人達が、一斉にお祝いの言葉を述べ、とても綺麗な御辞儀をします。

 レオンさんが、何かを確認するかのように、サーシャさんに目配せすると、サーシャさんは、黙ったまま、素敵な笑顔で頷き返しました。


「皆、儂とサーシャの事を祝ってくれて、ありがとう。

 儂とサーシャが出会い、儂が一目惚れしてから、30年経った。

 いや、まだ30年経っておらん。

 これからも、儂はサーシャを愛し、仲良く生きていく。

 儂とサーシャが、ここまでやってこれたのは、ロドスやミルザを筆頭に、儂やサーシャの為、ガルトラムの為に尽くしてくれている、皆のお陰だ。

 本当に、ありがとう。

 そして、これからもよろしく頼む」


 そう言って、レオンさんとサーシャさんは、揃って頭を下げました。一拍遅れて、リズお嬢様もペコリと。


「「「「「はい!!」」」」」


 中には感極まって、涙する使用人もいます。

 良い主従関係が、これからも続いていく事を願っていますよ。


「アキサメ、ルーチェ、リズ。

 素敵な贈り物を、ありがとう。

 儂は、果報者だよ」


 優しい笑顔で、私達にお礼を述べたレオンさんは、カットナイフを手に持ち、サーシャさんと一緒にケーキの前で、言います。


「今から、この、ケーキ、という素晴らしい菓子を切り分けて、皆に配るぞ。

 ロドス、交代しながらで良いから、全員が受け取れる様に手配を頼む。

 ミルザ達は、家中の皿を集めてくれ。


 アキサメ、ルーチェ、リズ。

 すまんが、ウチの者達から先に、配ってやっても良いか?

 もしかしたら足りなくなるかもしれないが、儂とサーシャは、そうしたい」


 ふふふ。こんなに素晴らしい主人に仕える事が出来て、果報者は、使用人達なのではないですか?


「リズはだいじょうぶです!」

「はい。私も大丈夫です」

「勿論、私も大丈夫ですよ。

 でも、安心して下さい。

 


 想定内ですよ。


「なんと!...ふふっ、そうか、そうか。

 儂の友人には、こうなる事は、お見通しだったようだ。

 アキサメ、ありがとうな」

「お褒めに預かり、光栄で御座います」

「アキサメお兄さん!リズの分もあるですか?」

「はい。ちゃんとみんなで分け合って食べる分を、ご用意してありますからね」

「やったーー!!みんなでおいしくたべようね!やったね、ルーお姉ちゃん!」

「良かったね、リズちゃん。アキサメさん、ありがとうございます」

「ありがとう、アキサメさん」

「どういたしまして」


 「さぁ、配るぞ」とレオンさんとサーシャさんが、ホールケーキを切り分けながら、1人1人に手渡していきます。

 「旦那様、奥様、おめでとうございます」

 「ありがとう、これからも儂達を支えてくれ」

 と、そんなやり取りをしながら。


 ケーキを振る舞われた使用人達は、食堂で休憩しながら、食べているみたいです。

 食べ終わった使用人達が、レオンさん達の元にお礼をしに来ては、私にも、お礼をして。


「アキサメ様。大変、美味しゅう御座いました。この度は、旦那様と奥様の為に御尽力頂きまして、誠に有難う御座います」


 皆さん、その様な感じの事を言ってくれます。

 いえいえ、そこまで言われる程の事ではありませんよ。

 私には、【MD】マーチャンダイジングスキルという、チートズルがありますからね。ロイロには、お昼寝中に起こしてしまって申し訳ない事をしましたが、上手くいって良かったです。


 私が思うに、

 お客様に喜んで頂く仕事が、このスキルの真価を、最大限に発揮出来るの場所、なのでしょう。

 金儲けも、立身出世も、したいとは思いません。ましてや、何処ぞのチーターテンプレみたいな事など。


 お客様に喜んでもらえる商品を、お客様に喜んでもらいたいと願う生産者から仕入れ、提供させて頂く。

 異なる世界を、渡りながら。


 これが、護屋 秋雨の、異世界ユルクでの存在意義、ですかね?


 地球向こうで出来なかった事を、異世界こっちで、全力でやっちゃいましょう。

 その方が楽しそうですしね。


「アキサメ、皆の分は行き渡ったそうだ。

 ケーキはもう殆ど残って無いぞ。

 何処に保管してあるのだ?ロドス達に取りに行かせるぞ?」

「あらあら。やっぱり足りませんでしたか。

 ちゃんと、使用人の皆様は食べましたか?

 お代わりは大丈夫ですか?」

「そんなに沢山用意してくれたのか?

 では、尚更取りに向かわせよう。何処にあるんだ、アキサメ。客室か?厨房か?」


 レオンさん、ケーキは常温保存出来ませんよ。


「いえ、ありますよ。


ーー〈異空間倉庫ストックルーム〉。


 ちゃんと、冷やして保管してありますから、ご心配なく」


 紅茶を飲んでいたテーブルに、新たにケーキを取り出してっと。


「「「「「えぇーー!!?」」」」」


「どうかしましたか?皆さん、揃いも揃って驚いたような顔して」

「.........アキサメ。少しは隠せよ...」

「アキサメお兄さんは、てじなしですか?」

「アキサメさん....伝説の...者様と...」

「あらあら。アキサメさんったら、お茶目ね」


 まぁ。いいじゃないですか。どうせいつかはバレるんでしょうから。

 それに、こんな便利なスキルモノコソコソ使うなんて、勿体無いでしょ。

 〈気まぐれ猫〉でも、どんどん使っていく予定ですからね。ルーチェは慣れて下さい。


「あははは。大丈夫ですよ。

 皆さんの事は、してますから、私」


 こら、レオンさん、そんなに吃驚しない。


「ぷっ!....あーはっはっは!

 そうか、そうなのだな。

 儂らは、信用に値したか。

 そうよな、儂らは友人だからな。

 その信用に応えると、誓うぞ」

「私も、旦那様と同じく」

「リズもアキサメお兄さんをしんよーしています!」

「もちろん、私もです。アキサメさん!」


 ほらね?

 心配なんか、無用、でしょ?


「ふふふ。ありがとうございます。

 さぁ、美味しい美味しいケーキを、召し上がって頂きましょうか」

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