気になるお店〈気まぐれ猫〉とルーチェ。
次なる商材を求めて。
「満足ニャ〜」
ズズッとお茶を呑みながら見るからに幸せそうな顔と尻尾を見せるロイロを見ながらのんびりと片付けをします。
時間は午後8時過ぎ.....あ!
「しまった!明日売る商品を仕入れに行くんでした!」
「ニャ!?」
突然大きな声をあげた為、ロイロがビクッとしてしまいました。
すいません、あぁお茶を溢しちゃったんですね...そんな目で見ないで下さい、ちゃんと拭きますから。
「今から伺うには流石に時間が遅いですね...」
「ニャ〜、ビックリしたニャ。アキサメ、そんな事くらいで大声出したら駄目ニャ」
「驚かせてごめんね、ロイロ。でも明日、売る商品が無いのは大変な事なんですよ?」
「今から行けば良いニャ」
「だから時間がですね、もう仕入れ先も閉まってますよ」
「大丈夫ニャ。こちら側とこの扉の向こう側とでは時間の法則が変えられるニャ。昼に行きたいと思えば昼に、夜に行きたいと思えば夜に。
自由に選べるニャ。但し、同じ場所において過去に遡る事は出来ないニャ。和菓子屋さんで例えるニャらアキサメが仕入れをした時間より後なら、行けるニャ」
「.....つまり、今から昼間の仕入れ先に伺えると。複数の仕入れ先が絡んだ場合はどうなるのでしょう?」
「その中で最も時間が進んでいるところが基準となるニャ。世界が勝手に整合性を図るニャ」
「......やっぱりぶっ飛んでますね」
《ご都合主義》を身を以て体験するとは夢にも思いませんでした。
世界が整合性を図る、ですか。神様パワーですかね?お願いですから関わってこないで下さいよ?
「ともあれ、有り難いサプライズですね。早速仕入れに向かいたいところですが...」
「どうしたニャ?行かないのかニャ?」
「いやね、次は何にするか迷っているんですよ」
「美容品じゃないのかニャ?あの貴族が言ってたニャ」
「そうなんですよね...あれ?その話ロイロにしました?」
「何言ってるニャ。私はアキサメのスキルニャよ?商売の事ニャら聞こえて当たり前ニャ」
「商売の事だけが聞こえるのですか?」
「いや、全部ニャ」
全部かよ!...確かにロイロは私のスキル内の存在ですからね、当たり前と言われれば納得です。だったら、
「ロイロは外の世界へは出れないのですか?」
「今のままでは無理ニャ。せめてアキサメにお店を構えてもらわないと遊びには行けないニャ〜。精々あの看板の中で動きまわるくらいニャ」
「その基準がいまいち分かり辛いですが、商売を頑張っていれば可能、という事ですね?」
「お客さんを幸せにした分のエネルギーが私に還元されるニャ。今のままではお客さんの数が足りないニャ〜」
「なるほど」
つまり、お客様満足度がロイロに反映されていくのですね。ある意味分かり易いかも。
「では、頑張らないといけませんね」
「まぁ気楽にやる事ニャ〜」
そうと分かれば仕入れに向かいましょうか。
ガルトラム辺境伯夫人ご希望の美容品でも良いのですが、そもそも
シャンプーやコンディショナーでしょうか?
そもそもこちらでお風呂にすら入ってませんからね...う〜ん、どうしましょう?
「悩みますねぇ」
「そうかニャ?日本の美容品なら大概はいけると思うニャ」
「私もそうは思うのですがね、あまり高価な物からではなくて、庶民の方でも手に取り易くて喜ばれる物が良いですね」
「ニャるほどニャ。高いデパコスじゃなくてプチプラでいくニャ?」
詳しいですねロイロ...貴女はまだ化粧なんて必要無いでしょう?そもそも猫が化粧?
「
「どうしたニャ?」
「そういえば、皆さん手に何かつけてましたね?いや、手は綺麗だったんですよ?荒れているという訳では無くて、何というか、蓬の様な匂い?草を擦り潰した匂いというんですかね?独特の匂いだったんですよ」
「草ニャ?.....あ!それは多分アレニャ!」
「分かるんですか?ロイロ」
どうやらロイロには匂いの正体に心当たりがあるようです。
強い匂いでは無いのですが、良い匂いではなかったんですよね。
「アキサメ、それは〈薬草〉ニャ。こっちの世界の薬草は〈回復ポーション〉の原料で、薬草だけでも擦り潰して塗れば、軽い擦り傷くらいなら治るニャ。回復ポーションは少し値段が高いから手荒れくらいなら一般人は薬草を使うニャ」
「薬草自体は安いし、比較的何処でも採取できるニャ」との事。
成程。ハンドケアに薬草ですか。だから女性の皆さんからあの匂いがしたのですね〜。
荒れた手を見られるよりはマシだと。
うん、良いんじゃないですか?ユルクの女性達の為にお手頃なハンドケアグッズを仕入れてみせましょう。
「ロイロ、次の商材が決まりました。仕入れに行きますよ」
「了解ニャ〜」
「行ってら〜」と手を振るロイロは、いつの間にか現れた大きめのビーズクッションに埋まっていました。
飾りに戻らないの?え!?必要ないの?あ、そうなんですか。では行ってきますね。
「ハンドクリームOEMメーカー〈KumA〉へ仕入れに行きます」
「ニャ〜」
扉を開けるとそこは昔ながらの日本家屋の土間。久しぶりですね、と思っていたら奥から人が出てきました。
「おや?誰かと思えば秋雨ちゃんじゃないの!お久しぶり〜」
「ご無沙汰しています、熊谷社長」
「相変わらず固いわねぇ。まぁ取り敢えずお上がりなさいな」
「失礼します」
そう言って奥の座敷に案内してくれるこの女性は〈KumA〉の顧問役をされている
現在の代表取締役社長の御母堂で、前社長だった方。見た目が若々しくてとても5人の孫がいる様には見えません。
愛美さんは、御息女がかなり敏感肌で苦労された経験から、そういう人達も気軽に使えるハンドクリームを作る為にこの会社を設立されたのです。
天賦の才があったのでしょう、今ではコスメランキングで上位の化粧品メーカーからの依頼が絶えない程の知る人ぞ知るカリスマなのです。
「で、今日はどうしたの?」
広い座敷に案内され、愛美さん自らお茶を淹れて頂きました。
「実は私、個人で商店を開いているのですが、その店で〈KumA〉さんのハンドクリームを取り扱わせて頂きたいと考えております」
「あら?秋雨ちゃん、前の会社は辞めたのかしら?良いトコまで昇進してたでしょ」
「はい。急な話でしたが、辞める事となりました。
今は自分のやれる事を精一杯頑張ってみようかと思いまして、小さな
異世界に飛ばされた、なんて言えません。
「そうだったのね。でも、秋雨ちゃんも知ってる筈だけど、〈
「存じ上げております。私は新しいハンドクリームを開発して欲しい訳では無いのです。
初めてお会いさせて頂いた時に分けて頂いた、あのハンドクリームを仕入れさせて頂きたいのです」
実は私も一時期手荒れに悩んでいた事があり、仕事としてここを訪れた際に愛美さんから「家族用のハンドクリームよ」と、優しい香りのするハンドクリームを頂きました。
そのおかげで私の手荒れは改善されたのです。
「あの家族用のクリームの事?アレはそんなに高い原材料も使ってない物よ?確かに沢山作り置きはあるけど、商品になるのかしら?」
「なります。私は何もデパートに並ぶ様な高級品が欲しいのでは無くて、日頃から頑張って働く女性達の手を、愛美さんが家族の為に作ったあの優しいハンドクリームで、癒して差し上げたいのです。
ご無理は承知の上で申し上げます。
私に、世の働く女性達のご褒美を届ける機会を下さい!」
そう言い切って私は頭を下げました。
あのハンドクリームは商品ではありません。プロに対して随分と失礼な事を言っている自覚はありますが、私は予算内で最上級の物を仕入れたいのです。
お客様が喜ぶのなら幾らでも頭を下げましょう。
「................はぁ。しょうがないわね」
ガバッと頭を上げて愛美さんを見ると、口では「しょうがない」と言いながら、優しく微笑んでいました。
その顔はハンドクリーム業界のカリスマでは無い、1人の母親の、慈愛に満ちた優しいものです。
「ありがとうございます!」
「但し!販売価格は抑えて成る可く沢山の女性の手に届く様にする事。それと、最近新しく高級路線の物を作ったんだけど、相手側の事情でその話が無くなっちゃって、その在庫を抱えて
やはり世界中の名だたるブランドから引っ張りだこの会社を一代で築き上げた女傑です。
ふふふ。大丈夫ですよ、愛美さん。
「畏まりました。勿論、喜んで仕入れさせて頂きます。価格のお話に移らさせて頂いても宜しいでしょうか?」
さぁ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます