【capricious cat《気まぐれ猫》】初営業終了。

 リズお嬢様達が帰った後からは残念な事にお客さんの来店は無く、生菓子を扱うには不安の残る屋台設備での営業を私は午後2時で打ち切りにした。

 やっぱり集客方法も考えないといけないですねぇ....。

 〈異空間倉庫ストックルーム〉を使えば問題無いのですが、違和感を出して変な面倒に巻き込まれても嫌なので無理はしないのが安全だと思いますし。

 力作の看板と和菓子をストックルームに食材と備品をそれぞれ分けて片付け、随分と早い店仕舞いに苦笑いでお隣さんにご挨拶して、その場をそそくさと立ち去る為に屋台を引く。

 決して八百屋の奥さんの憐れんだ視線に耐え切れなかった訳では無い。無いったらない。


 屋台広場へと着いたので、管理をしている商業ギルド職員に屋台の返却手続きをしていると背後から名前を呼ばれました。


「アキサメさん」

「もう店仕舞いかな?アキサメ君」


 声の主達は、屋台を教えてくれた商人のイザークさんとその友人で商業ギルドマスターであり、リズお嬢様の叔父にあたるマルク・ガルトラム様だったので私は理由言い訳を伝える。


「今日のお客様は一組の母娘とその付き人だけでしたよ。食べ物を扱っていましたので早目に終了しましたので」

「それは残念。少し出遅れました」

「俺はセバスから聞いたから来たんだがな。リズのお気に入りの店が〈気まぐれ猫〉と言う名前で店主がアキサメ・モリヤという外国人。義姉さんもお気に入りだしセバスも同様だから、と釘を刺されたよ」

「私とマルクは先程偶然会ったのです」

「そうでしたか。お客様第一号がリザティアお嬢様だったのですよ。そのご縁で皆様に商品をお買い上げ頂いたのです」

「.......その説明だけでどうやったらブローチ御用達の印を渡されるんだ?さっき領主屋敷実家に呼び出されたんだぞ....」

「それ以外に説明のしようがないのですが?」

「マルク、商人から情報を無理矢理聞き出す様な真似はよしなさい。もし、アキサメさんが嫌気が差して他の都市に移ったりでもしたら....」


 イザークさんがそう言うと、ハッ!とした表情のギルドマスターが謝罪してきました。


「.....アキサメ君、すまなかった。君が今居なくなったら私は姪から口を聞いてもらえなくなる。義姉さんからは...本当にすまなかった」

「そのくらい気にしてませんよ、ギルドマスター。それに、当面はガルトで商売を続ける予定ですから」

「良かった、それは一安心だ」

「それでは屋台の方はまたの楽しみにしておきましょう。行きますよ、マルク」

「ああ、そうだな。じゃあな、アキサメ君」

「はい。ご来店お待ちしております」


 立ち去る2人の背中を暫く見ながら、頭の中では残った和菓子の行き先を考えると、少し笑えてきた。


「ロイロは喜ぶでしょうね」


 それにしても御用達ねぇ。随分と気に入られたものです....和菓子と美容品。

 まぁ、あの方達には悪意を感じなかったですから良いご縁お客を得たとしておきましょう。


 なごみ亭に着き、入り口のドアを開けると、まだランチ営業中だったので忙しそうにしている店主に目礼をして、従業員から鍵を受け取り泊まっている部屋へと入る。

 自分が思うよりも疲れていた様で、簡素なベッドに身を預けると身体中の筋肉が安堵の声を上げる。


「ああぁ〜...身体は正直ですね〜」


 「湯槽に浸かりたい」と無いモノ強請りをしている自分に相槌を打ちながら、たった2日しか経っていないのに日本での生活の豊かさを改めて実感する。


「心はもっと正直ですがね」


 私はこれからの異世界生活を、買ってもらった新しい玩具の綺麗な包装紙のセロハンテープを剥がしながらワクワクする子供の様に、楽しみにしている。

 面倒事テンプレは主人公達に一任して、私は日本では窮屈過ぎて出来なかった事をこの【異世界ユルク】で全力で楽しんでみたいなと、夢みる少年の様に期待に胸を躍らせている。


「ふふふ。そう思えば、200ルクで体を拭くのもそこまで悪くはないで...す..ね.....zzz...」




 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る