和菓子が紡いだ数奇なご縁。

「ご馳走様、吃驚ビックリするほど美味しかったわ」

「とても美味しゅう御座いました。アキサメ殿、ご馳走様です」


 そう言って母親と執事は抹茶の入った湯呑みを傾ける。「この苦さがお菓子に合うわ」「このお茶〈抹茶〉と言いましたか、これも素晴らしい。私好みです」と和菓子の余韻を楽しんでいる様子。


「アキサメお兄さん!〈カステラ〉もおいしかったです!ふわふわしてておくちがしあわせでした!」

「お粗末様です。喜んで頂き光栄で御座います、リズお嬢様」


 満面の笑みのリズお嬢様は「はい!」と元気良く返事をして、母親達に「ね?おいしかったでしょ?」と得意気に自慢しています。


「リズの言う通り、とても美味しかったから少し買って帰りたいわ。アキサメさん頼めるかしら?」

「私も個人的に買わせて頂きたいですな。家内のへの土産に幾つか包んで貰えますかな?」

「お母さま買ってくれるの!?やったぁ!」

「勿論ご用意させて頂きます。数種類ございますがお選びになられますか?」


「「他にも和菓子がある!?」」


「ええ。本日は〈栗きんとん〉に〈カステラ〉、〈大福〉が3種類、〈芋羊羹〉をご用意しております」

「そんなに沢山!?見せて頂いても良いかしら」

「勿論です、奥様。直ぐにご用意させて頂きます」


 屋台に戻り、和菓子を木の板で出来た六つに格子の入った箱に銘々に詰めて持っていきます。


「こちらが本日の和菓子です。奥様から見て頂いた右上からカステラ、栗きんとん、芋羊羹、右下が大福で〈塩〉、〈苺〉、〈草(蓬)〉で御座います」

「まぁ、こんなに沢山あるのね!見た目もかわいらしくて美味しそうね」

「本当ですな。〈和菓子〉は芸術品ですね。どれも美味しそうだ」

「うわ〜!たくさんはいってる〜!たからもの入れみた〜い!」

「ふふふ。リズお嬢様お上手です」


 それから一つ一つの和菓子を説明をした私。大人2人はその説明を聞きながらその手間暇の掛け方にまたもや驚愕し、リズは「たべたいなぁ」と和菓子を見つめていました。


「凄いわね...一つのお菓子にかける労力に情熱を感じるわ」

「正に芸術品ですな。食べて無くなる物にここまでの技術と熱意を込めるとは素晴らしい」

「ありがとうございます。そこまで言って頂けると職人も喜ぶでしょう」

「アキサメさんが作った物では無いの?」

「私はに出向き、生産者さん達が丹精込めて作り上げた物を、生産者彼らに代わってお届けするのが仕事です。お客様からのお褒めの言葉は確りと伝えておきます。勿論私も嬉しく思います」

「素晴らしい考えね」

「良い心構えかと」

「アキサメお兄さん、わがししょくにんさんにおいしかったよってつたえてね!リズはわがしだいすきだよって」

「畏まりました、リズお嬢様」


 それから母娘は和菓子の詰め合わせを5セット、執事は2セットと抹茶の粉をそれぞれお買い上げ頂く事となりました。


「お代は詰め合わせ一つ2,500ルク、抹茶は一包み1,500ルクです。少々値は張りますが味は保証させて頂きます」

「安い!アキサメさん、安すぎるわよ!これだけの品は大銀貨か銀貨数枚はもらわないと!」

「私もそう思いますぞ、アキサメ殿。この様な至上の菓子なら貴族達なら金貨を出して買いますよ」


 「和菓子に100万って...」と思うが口には出さない私は穏やかな顔で告げる。


「私が自信を持って仕入れてきた商品を沢山の方々に届けたいのです。お値段は仕入れ価格に手間賃や諸費用を足した正規のものですので、奥様のようなの方達にも同じ金額を頂戴致しております」

「あら、気付いていたのかしら?」

「お嬢様のお名前で。先日商業ギルドマスターとお話しさせて頂く機会がありまして、その際『姪が可愛くて可愛くて』と自慢しておりました。確かお名前が〈リザティア〉様だったと記憶しておりましたので」

「マルク様ったら...色んな所で自慢してるらしいのよねぇ」

「マルク坊ちゃんにも困ったものです。ご自身も早く身を固めて頂ければ良いものを」

「ははは、独り身の私には耳の痛い話です。そういう事ですので、お代は決めた通り頂戴致します。〈気まぐれ猫〉のルール、という事で」

「ふふふ。分かったわ。セバス、私と貴方の持ち帰りの分と先程食べた分の代金とを合わせて払って頂戴」

「畏まりました、奥様」


 セバスさんが綺麗なお辞儀をして懐から紐で縛るタイプの巾着から硬貨を1枚出すと「お受け取り下さい」と私に渡してきました。


金貨100万ルク!?多すぎです!」

「あら?私の一人娘、領主の可愛い孫娘のの金額は私が決めるわ。それがルールよ」

「それでも!....いえ、失礼しました。只今商品をお持ち致します」


 屋台に戻り注文分の詰め合わせと抹茶を用意し、無地の持ち手の付いた紙袋に私自身で黒猫の絵を描いたショッピングバッグに入れ、もう一つ用意した小さい紙袋にある物を入れて口を閉じ両手に持って店先に戻る。


「こちらが商品です。お早目にお召し上がり下さい」


 そう言ってセバスさんに紙袋を渡すと、リズお嬢様が描かれている黒猫の絵を見て「くろねこちゃんだ!」とニコニコしている。セバスは紙袋を持ち「これも素晴らしい物ですね」と感嘆しています。


「こちらは、商品では無く私のおやつですが宜しければ召し上がって下さい、リズお嬢様」


 そう言って小さい紙袋を渡すと、早速紙袋の口を開けて中を覗くリズお嬢様。


「うわぁ〜!あまくていいにおい!」

「それは〈チョコレート〉というお菓子です。和菓子ではありませんがそれも故郷で人気のお菓子です。今回のはオレンジという柑橘類を練り込んだ物ですよ。あまり沢山はありませんがご家族でどうぞ」

「驚いた...和菓子以外にもあるのね...」

「商人として素晴らしい手腕の持ち主ですな」

「アキサメさん、次はいつ屋台を出す予定かしら?家の者に和菓子を買いに来させる事になると思うのよ」

「間違い無いかと」

「屋台は明日も営業予定です。ですが、明日は和菓子を扱っているかどうかは保証できません」

「え?どういう事かしら?こんなに美味しい物を扱っていれば大成功間違いなしでしょうに」

「当店は〈気まぐれ猫〉。移り気な猫があちこちに興味を示す様に、先程申し上げた通り、私が様々な生産者と会って納得のいった商品を仕入れてお客様にお届けします。ですので、明日は和菓子以外のお菓子かも知れませんし、故郷の料理、雑貨、食材そのもの、衣服、アクセサリー、美容品、等々。day by day日替わりで商品を販売させて頂きます」


 「ですので明日は来店されてからのお楽しみです」と私が言うも、次期領主夫人の耳には届いていなかった。


「美容品ですって!?和菓子を作りだす職人の揃った国の美容品!アキサメさん!美容品ソレが入荷したら直ぐに連絡して頂戴!必ずよ、必ず!」

「は、はい、分かりました...入荷の際は御一報入れます....ですが、どうやってご連絡すれば?」

「セバス!」

「ハッ。アキサメ殿、こちらをお持ち下さい」


 そう言って渡されたのは何か紋章の刻まれたブローチ。セバスさん曰く、ガルトラム辺境伯家の認めた者だけが持つ事を許されるもので、これを領主の屋敷の門番に見せれば連絡がいくとの事。因みに辺境伯より地位の低い貴族の治める都市に入る際もフリーパスになるとか。そんなブローチ恐ろしい物を受け取った私は「ありがとうございます」としか言えず、心の中では「自分で蒔いた種ですね」と強引に納得するしかありませんでした。

 

「アキサメお兄さん!バイバイッ!!」

「今日は楽しかったわ。....美容品例の物楽しみにしてるわよ。必ず連絡して頂戴ね」

「アキサメ殿、改めて、本日は有難う御座いました」


 そう言って3人は領主の屋敷へと帰って行きました。リズお嬢様が母親と手を繋いでいない方の空いた手で大きく手を振ってくれたので、私も手を振って返す。〈気まぐれ猫〉のお客様第一号は、とても可愛いらしい貴族のお嬢様で、甘い和菓子が大好きな女の子でした。


「良き出会いに感謝を」


 そう最後に呟いて、私は、商売を続けるべく屋台の中へと笑顔で戻りました。



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