秋雨とロイロと〈気まぐれ猫〉。
お仕事探し。.....スキルを確認しよう。
無事教えてもらった宿屋〈なごみ亭〉に着き部屋を確保した秋雨。一泊二食付きで3,000ルクの部屋を5日分払い、割り当てられた2階の部屋に入りひと息ついた。夕飯まで時間がまだあったのでこれからの事を考える。
「取り敢えず5日分の寝床は何とかなりました。問題はこれからの仕事探しですが、折角なのでちゃんと商人として身を立てたいですね。
その為にも〈スキル〉とか〈魔法〉とかファンタジーなモノの情報を集めなくては。何処で確認出来るのでしょうか?小説とかだと教会とかなんですがねぇ。.......
そう呟いた秋雨は部屋に鍵をかけて階段を降りると、まだ外は明るいが仕事終わりの冒険者だろうと思われる男達の側の椅子に座る。
簡単なつまみと酒を頼んだ秋雨は、ちびちびと飲みながら男達の話に聞き耳を立てた。
「今日も調子良かったなぁ。流石は付与魔法、アイツをパーティに入れて正解だったぜ!」
「確かになぁ。魔物を倒す効率が上がったぜ!」
「まさか荷物持ちのダイトが付与魔法のスキルを授かるとはなぁ。早目に勧誘したリーダーのお陰だな。教会のお金も出してやってたしな」
「バカ、違ぇよ。ダンガには小さい妹が居んだよ。その妹の為に頑張るアイツ見てるとほっとけなかったんだよ!」
「その面で善人かよ...」
「似合わねーわ...」
「無いわー」
「ウルセェ!」
「「「ハハハハッ!!」」」
「(成程、やはり教会に行けば〈スキル〉の事が分かりそうですね...。)あ、お姉さん、そちらの冒険者の方々にエールを」
「おぉ!?兄ちゃん気前良いな?」
「奢ってくれんのか?」
「いえ、酒の肴に漢気を感じるお話を耳にしましたので、そのお礼に」
「だってよ、リーダー?」
「お、おう。ありがとな兄ちゃん」
「いえいえ、どうぞ召し上がって下さい」
そのタイミングで男達にエールが届く。秋雨はグラスを持ち男達に向かって言う。
「漢気溢れるリーダーに。乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
お酒のお陰で冒険者の男達から〈スキル〉や冒険者ギルド、ダンジョンの事などを幾つか聞いた秋雨は「明日が早いのでこれで失礼します」と席を立つ。男達から「何かあったら言ってくれよ」と声を掛けてもらい、カウンターで支払いと夕食を部屋で取りたい旨を伝えて部屋に戻る。
暫くベッドで横になっていると、夕食が運ばれて来たのでささっと食べてしまう。
やはりと言うか風呂なんて物は無く、200ルク払ってお湯と布切れをもらって身体を拭いた。
「小説などで主人公達が風呂事情を嘆く気持ちを身をもって知るとは...風呂に入りたい...」
サッパリとはいかないまでも、身体を拭くと忙しい一日の終わりを実感した為か、ベッドに寝転がり明日からの行動目標を考えようとするが、自分が思っているより疲れていたみたいで、直ぐに意識を手放した。
「ふぁぁ...。いつの間にか寝てたみたいですね...」
翌朝目覚めると、早目に就寝した為かスマホの時刻表示は朝の5時。こっちの世界の時刻とスマホの時刻が同期していたのは有難い誤算で、ソーラー充電器もリュックに入っているので取り敢えず時間を確認するのに困る事は無さそうだと思う。その他にも出張帰りだったので多少の着替えや雑貨を持ち合わせていた。
「先ずは入市税を支払いに行って、それから教会、図書館の様な場所があるのか確認して、あれば行きたいのと....何の商売をするかを早目に決めないと行き詰まりますね」
身支度を整えると、部屋を出て1階の食堂兼酒場へと向かいます。
食堂はまだ時間が早い為か客は居らず、カウンターの奥で調理する音が聞こえるだけ。
「お客さん早いね。もうすぐ朝食出来るけど待つかい?」
「ありがとうございます。顔を洗ってきたいのですが何処で洗えば良いですかね?」
「あぁ、それなら裏庭の井戸を使ってくれ。戻って来たら朝食も出来てるだろうから」
「分かりました」
〈なごみ亭〉店主の男はそう言って厨房の中へと戻って行った。裏庭に続く扉を開けて井戸に向かい、井戸で顔を洗う。
「冷たい!...シャキッとしますね。井戸なんて田舎の祖母の家で見た以来ですが、これはこれで風情がありますねぇ」
「まぁ生活に利用する人達には大変な事も多いだろうけど」と小声で呟きながら顔を拭いて口を濯ぐ。辺りを見回して誰も居ないのを確認してから携帯歯磨きセットを取り出して歯を磨いた。
食堂へと戻ると店主の宣言通り朝食が出来上がっているようで、カウンター席の一つに座ると朝食が運ばれて来た。
「待たせたな、お客さん。今日はパンと野菜のスープと自家製ベーコンを焼いた物だ。パンのお代わりはあるからな。飲み物はどうする?」
「美味しそうです。飲み物はお水を頂けますか?」
「あいよ」
直ぐに水を出してもらい「いただきます」と食べ始める。パンも自家製のようで焼き立てで熱々だった。ふわふわとまではいかないもののかなりの美味しさに驚いた。スープや自家製ベーコンもシンプルながら味付けも良く、朝から美味しい朝食にありつけた事で気分良くなる。
「本当に美味しいです。店主、見事な腕前ですね」
「ありがとよ。美味いもん食ったら嬉しいだろ?そう思ってもらえりゃ十分だよ」
「素敵な考えですね。これで一泊二食で3,000ルクは安過ぎでは?」
「そうでもねぇぞ。儲けは少ないが、お前さんみたいに喜んでくれるお客さんの顔が間近で見られるのは良いもんだからな。半分は趣味だな」
「なんと...私は良い宿と巡り会えたようで幸せ者です。店主、ご馳走様でした」
「そう言ってくれるなら頑張って作った甲斐があるってもんだ、お粗末様」
店主は食べ終わった食器を持ち厨房の奥へと向かった。「なんて出来た人間なんだろう」と心の中が温かくなるのを感じながら部屋に戻り出掛ける用意をして。
部屋に鍵を掛け1階に降りると、起き出した宿泊客がまばらに朝食をとっていた。これから段々と忙しくなるのだろうと思いながら、働き始めた従業員に声をかけ、外出する旨を伝えて鍵を渡し宿を出ました。
検問所へ向かうと昨日の門番の男は居なかったが、他の人に対応してもらい無事に入市税を納めた。ついでに図書館の事を聞いてみると、この都市には二つあるようで、一つは大通りを真っ直ぐ行って先にある〈大図書館〉、もう一つはなんと商業ギルドの側に〈小図書館〉と呼ばれているものがあるとの事。最後に教会への道のりを聞いてから「ありがとうございます」と頭を下げ、教会へと歩き出した。
教会へは大通りと途中で交差した道を宿とは反対の方角へと向かって15分程で到着した。
朝も早目の時間で開いているか心配ではあったが、こちらの世界の人達は朝早くから活動する様で教会も開いており、中にはまばらではあるが人の姿もあった。丁度、近くを通ったシスターに声を掛ける。
「すいません、お伺いしたい事があるのですが宜しいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。何かお困りですか?」
「ありがとうございます。実は私、他国のど田舎から来まして、生まれた村に教会がなかったもので〈スキル〉について今まで調べた事が無いのです。折角この様な素晴らしい教会に立ち寄る事が叶ったので神様へのご挨拶と〈スキル〉について調べてみようと思いまして」
「そんな土地があるのですね...ですが、素晴らしいお考えだと思います。主へのお祈りはあちらの女神像の前で行って下さい。〈スキル〉鑑定は別室にて承っております。その際に心付けをお願いします」
「分かりました。先ずは旅路の無事を感謝してお祈りしたいと思います。ありがとうございました」
「神の御導きがあらん事を」
「(
シスターに言われた女神像の前に跪くと、周りの人達がしているのを真似て祈りを捧げる秋雨。『小説とかならこのまま神様がいる所に連れて行かれて...』などと軽く思ってはいながらも本心では『断固拒否する』と強く否定の念を送る。祈りが通じたのか、何事も無く祈りを終え、再び違うシスターに声をかけて〈スキル〉鑑定の部屋に案内してもらった。
部屋の中には中央に腰くらいの高さの石柱があり、その上には分厚い本が置かれていた。
「あの台まで進んで本に手を乗せて下さい。神に自身の能力をを知りたいと願えば、貴方の〈スキル〉内容が頭の中に入ってきます」
『お心付けは1,000ルクです』と言われてお金を渡した秋雨はスタスタと台まで歩き本に手を乗せた。
「(私の情報開示を望みます)」
神に願う気持ちなど微塵もない秋雨は、これは只のステータス鑑定の道具だろうという気持ちを込めて作業的に進める。
台の上の本が点滅しながら光ると情報が頭の中に入ってくる際に少し頭がクラッとする。
【アキサメ・モリヤ 男 (37)】
状態 健康
職業
スキル
〈
言語マスター、隠密
「.......うわー、無いわー」
私は、更に頭がクラッとした。
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