第03話 レトチの院内煙草交換


縫合手術を受けた総合病院から5日後に、地元の精神科に転院することが決まった。無論、社会福祉士資格取得の前段階で。


そこで多津子さんと言う、年上の女性と恋愛に発展する動きが。多津子さんは僕に煙草の味を教えてくれた女性だった。


小遣いの使い方が解らずに、わかばと言う一番安い煙草を買っていた時、LARKと物々交換してくれた。煙草と言う依存物を断つのにどれだけの苦労があったかは、思い出すのも悲惨だが、喫煙所と言う社交場に、自由に出入り出来たのは、闘病生活的には大きな前進だった。


闘病記を著す時に、何が重要かを改めて考えた。

先ず、今迄に無かった症状に苦しんだこと。僕は大学時代、強めの躁状態だったので、ポジティブシンキングに護られていたのだが、その反動が大鬱になって返って来た。抱え切れない程の後悔と懺悔の念。加えて、自律神経失調症にも罹患したので、これも未体験な身体異常に苦しんだ。


さいわい、腕部、腰部の痛みは癒えたが、思考的な、内臓的な疾患は、真綿で首を締めるような効力があり、後悔のスイッチは何気ない現象……シャワーを浴びて髪が濡れているとか、肉が硬くて嚙み切れないとか、それこそポジティブシンキング時代には気にも留めなかった内容に、いちいちつまづいては心に傷を負った。


後悔の念に苛まれている際は、泥のように眠った。簡易ベッドが用意出来ない時は床にうつ伏せになって、僕なりの安定を図ろうとした。試行錯誤の末、仰臥位でも側臥位でも、身体を倒すことでリカバリを図れることを、感覚的に掴んだ。

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