第11話 禍々しいゴールデンテンプル
太陽のモチベーションが一番高い頃、ようやくゴールデンテンプルに辿り着いた。チケットチェックブースまで歩いているとき、地面に反射した太陽光が白く反射して、目をさかんに攻撃してくる。異常なくらい眩しい。
そして死ぬほど暑い。リュックからタオルを出し、顔を拭く。
山道のすぐ横にブースがあり、そこでチェックを受ける。それから靴を預けて寺に入場となる。基本的にスリランカの仏教施設は裸足になる必要があるので、この国を旅するときは、捨てても良い靴か100円ショップサンダルを持参した方がいい。私も日本から捨てても良いサンダルを持参した。預け代は25ルピー。
チケットを見せる小屋の中には監視カメラがあり、この施設は韓国政府の援助で維持されていると書かれていた。発展途上国の場合、このように世界遺産の維持を先進国がバックアップしていることが多い。カンボジアへ行った時も、ドイツがベンメリアをサポートしていたし、アンコールワットは日本が支援していた。ちなみにアンコールワットは日本がした支援の中で最高額を記録している。
私はこの施設が裸足初体験だったのだが、『折檻かよ!』と思うくらいに地面が熱くて、一人のたうち回っていた。そんな私を見て、現地の人が笑っていた。この一件で、裸足にならなきゃならない施設はやはり午前中に行くべきであると学ぶ。
この施設は第1窟~第5窟まである。通路で全ての窟がつながっており、私のように地面の熱さに慣れていない観光客は一様に、この通路で足を休めていた。
石の通路は風が気持ちいい。この施設が高台にあるからかもしれない。天気が快晴の日はシギリアロックも見えるらしい。
それぞれの窟にはテーマがあり、第1窟:神々の王の寺、第2窟:偉大な王の寺、第3窟:偉大な新しい寺、などと言う名称がついている。
印象に残ったのは第4窟である。キャンディ王朝時代に作られたもので、一番窟が狭い。そしてその空間の中心では、“奇妙”が1人1人の訪問客をじっと睨んでいた。”奇妙”とは、ここに収められている一体の仏像のことを指す。なぜ奇妙と称するのかと言うと、その仏像だけが妙に真新しく、違和感と不信感を全身から醸し出しているからだ。
以前、この地を訪れた観光客がこの手のひらに座って写真撮影をしてしまった。その行為によって、法力を失われた!と思った現地の人が色を塗り直した。そのため、この仏像だけ、不自然な色に包まれているのだ。仏像は3体あるが、すぐに分かる。だってこの仏像だけ色だけでなく、存在そのものもが不気味に感じるから。
少し外に目をやる。外には立派な蓮の池もあり、欧米の観光客はインスタグラムにでも掲載したいのか、いろいろ角度を変えながら、しきりにシャッターを切っていた。
ハスの池を写している外国人を眺めていた時、日本語が飛び込んできた。現地ガイドが日本人のカップルをガイドしていた。
「スリランカと言う国は、修復の概念が違うんです。日本にとって修復とは以前の状態に戻すことを指しますが、でもスリランカは全く違う。だからものによっては全く以前のものと違った色、表情になっているものもあるんですよ。それを楽しんで下さいね。」
と現地ガイドはにこやかに話す。
この話を聞いた後、もう一度、第4窟に入り、異様な存在になってしまった仏像に目をやった。
果たして法力は、蘇ったのだろうか。
じっくり仏像と対話をしていたら、見学時間は1時間半くらいかかる寺。
だけどそうでもなかったら小さな施設なので30分かからない。観光客もそんなに来ていないし、混んでもいない。私は1時間程度で見学を終えて下山した。
周囲の山々は本当に美しい。
スリランカは手つかずの自然がいっぱい残っていて、この旅では本当に緑に癒されまくった。特にダンブッラは緑が豊富にある。ゴールデンテンプル以外、何もめぼしいものはない街だが、緑は本当に素晴らしい。1泊はしてほしい街だ。
さて、ゆっくり下山していこう。
下山道では多くの露店が出ていて、いつカットしたのか分からないマンゴーやパパイヤとかの切り売りをしていた。アイスクリーム屋もあった。
下山後、ゴールデンブッダの中にある博物館に行ったのだが、ここは正直行かなくていい、と後から思った。しょぼいし照明が暗い。この一言しか出ない。
大した展示物もないし、そんなに涼しくない。展示物が大したことないなら、せめて施設を冷やしておいて欲しいのだが、そんな配慮すらない。予算もないのだろう。まず博物館なのに、裸足にならなきゃいけないことが意味不明である。それなのに掃除も行き届いてなくて汚い、ときている。入場料が200ルピーだからまだ許せたものの、行く価値は全くない。
ユートピア加賀の郷もあれから住職の逮捕やら破産やら、紆余曲折を経て、とりあえず原形はとどめてはいるものの、照明も暗く、何の面白みのない施設に変貌してしまった、と関係者から聞いたことがある。この博物館も倒産寸前なのか。外に出ると、また禍々しい光を放つ仏陀と目が合う。申し訳ないが、最後の最後まで、手を合わせる気にはなれなかった。
ゴールデンテンプルの敷地内にはポストもあった。日本と同じ赤色。レトロな感じが何とも可愛らしい。終戦直後の日本みたいな雰囲気だなと思い、記念に1枚シャッターを切った。
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