第10話 値切りはイジメなのか。
この博物館はジャイカの協力で建てられたものだ。だから博物館の正面には、その時の首相だった福田康夫のコメントまで展示されている。
2009年に造られた博物館と言うことではあったが、なぜか非常に古い。すごく草臥れていて、地下に設置されているトイレなんかは特に、一瞬使用をためらうほどの汚さだった。掃除の仕方も知らないのかもしれない。
最終日に行ったコロンボ国立博物館に行った時も同じことを感じたのだが、スリランカは、まだまだ施設・建物を維持する力が弱い気がする。きれいなまま保つとか、丁寧に保存する、とか。そのような力。持続力(保存力?)とでも言うのか。国民性もあるとは思うが、もっと大事に使用してほしいと率直に思った。根本的に、自分たちが金を出していないものだから、こんな扱いになるのか、と思うと悲しくもなる。義務教育の教科書じゃないけど、小学生も無料でもらっているから扱いがすごく雑でしょ。自分の小遣いで買った消しゴムは抱きしめるように扱うのに。
きっとスリランカも下手糞かもしれないけど、自分たちで作った建物だったらすごく大事にするだろうな。
日本の監修が入っているからか、博物館内の展示品とかはそつなく飾られてはいた。でも照明は暗い。見せ方が下手と言うか、明かりの当て方が適当と言う印象である。これもコツを知らないだけかもしれない。日本は展示品を監修する際、照明の当て方とか教えなかったのだろうか。それともこちらの国民が、指示に従っていないのか、助言を無視しているのか。そういうことを考えながら見物していたから、展示品は斜め読み状態になってしまった。
シギリア博物館見学後、バス停まで戻るか、でもあの距離この暑さでしんどいな、と思っていた時、ちょうど目の前を流しのトゥクトゥクが通りかかった。
ゴールデンテンプルまでいくら?と声をかけ、600ルピーで交渉成立。ちょっと飛ばしてもらうことにした。
このドライバーは最初1000ルピーと言ってきた。でも私が嫌だ、他をあたると言って、てくてく歩きだすと、後ろから追っかけてきてだんだん値下げしてきた。親方風情の人がいない、流しのトゥクトゥクドライバーの場合、他あたるよ、と言うと、こっちの言い値に合わせてくるような人が多かった。
トゥクトゥクは宮殿を取り囲むように造られているハスの水路をゆっくり走ってくれた。敷地内は特別にゆっくり走って欲しい、とリクエストはしていなかったが、ドライバーは国道に出るまでの林道も最後に観光させてくれた。この心遣いに触れた時、値切って申し訳なかったな、と初めて反省した。
ゴールデンテンプル到着したのは12時すぎだった。
降ろされた場所はゴールデンテンプル横の駐車場である。この敷地内にはテレビ局
があった。今回の旅は、ずっとゲストハウスに宿泊だったため、個室だが部屋にテレビはなくスリランカのテレビ番組を見ていない。一体、どんな番組を作っているのだろう。
そのテレビ局の横に、街中からもその姿を拝むことができる、金色の巨大な大仏が図々しい風体をさらし座っている。この金ぴかの大仏は博物館の象徴モニュメントであり、世界遺産のゴールデンテンプル(石窟寺院)はその奥にあるのだが、訪れた人はまずこちらの大仏に丁寧に手を合わせ、律儀に頭を下げている。
私も右に倣えで同じように取り組もうか、と思ったのだが、うまく体が動か
ない。
どうしてもこの手の巨大大仏と向き合うと、昔、故郷にあったユートピア加賀の
郷の禍々しい巨大観音と重なってしまい、真剣に心を向けられないのだ。
それはバブル期に総工費280億円を費やして造られた仏教テーマパークである。後に織田無道が住職になり、ますます胡散臭さを増長させ、佛教効力も信用も何もかも失い破産する道を辿ったのたが、こちら一帯もそのような類の施設なんだろうかと、不安がよぎってしまうのだ。明らかに私は要らぬPTSDを患っている。
まずはチケットを買いに、金ぴか大仏の脇にある山道をてくてくと山道を上がって行った。このチケット購入まで最初の修行である。シギリアロック登頂後の足腰には、かなりの虐待行為だ。
途中で何度も断念しようかと思った。しかし他に行ける日がない。心を無にして上り続ける。チケットをゲットできたのは登り始めて、30分ぐらい経ってからだった。チケット代は、1500ルピー。こちらもユネスコへの寄付金込みの価格なので、結構強気な価格設定である。
チケットを購入後も修行は続く。ここからゴールデンテンプルまで、頂上の見えない階段が続く。この山道が第二の修行だ。途中で座り込んでいる人もいた。木の上には小さな猿もいる。キーキー泣いていてやかましい。もしかしたら泣いているのではなく、疲れ切って座りこんでいる観光客を指さして笑っているのかもしれない。
参拝客のために小休憩のための椅子も参道に用意されており、疲れ切って座っている人もいた。中には全く動かなくなってしまった男性もいて、この施設のスタッフなのか、しきりにつついて、安否を確認していた。
動かない参拝客の向かい側には、休憩のための椅子に腰かけている親子がいて、その母親が幼い息子の目をずっと手で隠している。このフリーズしてしまった男性を見せまい、としているのかと思ったが、そうではなかった。すぐそばで野良犬同士が交接したまま、この山道をうろついているのだ。そのあまりにも可笑しくて生々しい姿を息子に見せまいとしていたのだ。だったら席を立って歩きだせばいいのに、と思うが、暑さと疲れで足が前に進まないのだろう。
この山道は野良犬が多いから気を付けて!とガイドブックには書かれていたが、交接したまま器用に散歩している野良犬は、このカップルだけだった。
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