第12話 ぴーひゃらぴーひゃら・ぱっぱぱらぱ
さて、大晦日の予定は全て終了である。
まだ14時前くらいだったし、このまま宿に帰るのもなんだなぁ、疲れているけど…なんて思いながら、ゴールデンブッダの目の前にあるやる気のない市場をぶらぶらした。当たり前だけど値札なし。フルーツや民芸品などが売られていた。お客さんはまばらで、強引な客引きもなく、表情に乏しい店員は大人しく商品の前で置物のように座っていた。
市場にめぼしいものがなかったが、腹は減っていたので、その市場からちょっと歩いたところにあった食堂に入った。一度、現地の人が好んで入る食堂で食事をしてみたかったのだ。
ともかく汚かった。入店したはいいけど、やはり止めようかと思ったくらい。
1960年代の日本の地方田舎にあるような風情の店構えだ。テーブルもかなり拭き、足元では虫よけスプレーをかけまくり着席した。
英語が通じない店だった。たまにフラっと旅人が入店するのか、食堂のスタッフが慣れたように手招きし、ショーケースの前まで私を連れて行く。要は食べたいものをショーケース越しに指差しせよ!と言うのだ。何が何だか分からないから、とりあえずハエがたかっていない食べ物を適当に指をさし、どれも辛そうだったので、一緒にボトルジュースも注文した。
味はうまかったのだが、ひどく辛かった。そしてカレーセットとジュースで500ルピー請求された。ここも値段はなかった。きっと見た目で値段を適当に決めているのだろう。外国人価格を請求されたに違いない。
食後はすぐに宿にトゥクトゥクで戻ったので、15時30分には宿についた。
すぐにシャワーを浴びで洗濯して、髪の毛を乾かしていたら、また良いタイミングでお宿のご主人が部屋をノックしてきた。今日はココナッツを手に持っている。
シャワーの音が一階に聞こえてきて、音が止まったから、あ、終わったのだなって分かったのだと白い歯を見せる。毎度タイミングが良いのは1階で音を聞いているからなのか。この時ココナッツジュースを初めて飲んだ。しつこくない甘みが疲れた体にゆっくりと染み渡る。朝から本当によく動いた。
洗濯物を干すために宿の屋上に上がる。宿の後ろは果てしなく続く田園風景が広がる。ゆったりと時間が流れている感じが何とも言えない安らぎを与えてくれる。大きすぎる夕日を背に牛やヤギと一緒に畑を歩く子どもたち。見事に動物たちが人々の生活に溶け込んでいる。田んぼの畦道を器用に自転車に乗った老人や女たちが、ゆっくりと走り去っていく。私は意味もなく数えて、飽きなかった。
この時、そのあと私を襲う、異変の予兆は全くなかった。
豊かな田園に時間をかけて落ちていく夕日を拝み、部屋に戻って30分程経過していたかのように思う。明日の準備をしていた時、突然、激しいめまいと吐き気、頭痛が襲ってきたのだ。夕飯もとれない状態になり、宿のご主人が心配して、頭のマッサージをしてくれたりして何とか頭痛がおさまった。だが、吐き気は一向に収まる気配を見せなかった。
「medicine?」
目が死んだ魚のようになっている私を心配して、ご主人が薬を持ってきてくれた。何の薬かさっぱり分からない。アオミドロカラーのカプセルだ。
「これを飲んだら、明日にはすっかり元気になっているよ。」
と水を渡す。こんな状態の時、この薬を飲んですぐに眠気を催してしまい、
そのすきにご主人にレイプされたらどうしよう、なんて女性らしい恐怖心は一切起きてこない。むしろどうにでもなれ、と言う感情すら湧いてくる。ご主人の言われるまま薬を飲み、この日は19時半にはベッドにもぐりこんだ。
あのお店のカレーが原因ではなかろうか。もちろん疲れもあっただろうが、
この日以来、私はスリランカの旅において、地元の人が好んで入る店で食事はしないことに決めた。
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