第6話  ローズクォーツマウンテン

 シャイなのか言葉を知らないのか、全く話さない無口な若造が運転するトゥクトゥクは、15時20分頃、ローズクオーツマウンテンに到着した。

 正式名称はジャーティカ・ナーマル・ウヤナという。現地の人に伝えるときはこちらで言った方が伝わる。

 到着後、受付で入場料500ルピーを支払う。ガイドを付けるか?1500ルピーでいいよ、みたいな勧誘があるが、丁重に断った。テレビを見ていたら道は一本道だったし、看板もあるし、非常に親切な参道だと言う。ちなみにガイドと言っても英語ガイドである。英語力が微妙な自分には1ミリも必要ない。

 トゥクトゥクドライバーには入り口の駐車場で待機してもらった。スリランカは先払い制ではなく後払い制だから、ドライバーがいなくなる不安もない。

 ローズクオーツマウンテンは、ナマルウヤナ国立公園内にある。スリランカの国樹である、セイロン・アイアンウッドも多く植えられており、森林浴を楽しみながらスリランカの大自然のパワーを全身に浴びることができる。

 地元の人たちの間ではデートスポットにもなっているのか、道中、多くの若いカップルを見かけた。確かに恋愛成就のパワーストーンなので、それにあやかってきているのかもしれない。

 参道は非常に整備されていて歩きやすい。大きなゴムの木がそこら中に点在していて、地元の子どもたちがブランコにして遊んでいた。30分ほど歩くと、多少くすんでいる箇所も目につくが、ローズクオーツマウンテンが姿を現した。ここからがしんどい。

 山頂にはホワイトブッダが鎮座している。スリランカの人々はとりあえず高い所の上にブッダを作りたがるようだ。ネゴンボからダンブッラまでくる道中も、高台で気持ちよさそうに瞑想しておられる仏陀を拝見した。

 石山なので、多少ロッククライミングのような要領が必要となる。リュックから軍手を取り出した。上りやすい斜面をチョイスしながら、ゆっくりと石を登って行く。別段、急な斜面を多用した山ではないが、私のように日頃から運動していない人間は即、足腰に来る。

 夕方とはいえ、暑い。塩っ辛い汗が何度も目を直撃する。

ちなみに私が滞在していた10日間のうち最高で38度あったスリランカ。帰国したら故郷はマイナス2度の大雪。しばらくは体調がおかしくなった。

 16時過ぎだっただろうか。オレンジの柔らかい明りがホワイトブッダの頬を優しく撫でるように染めるころ、やっと頂上へたどり着いた。


 頂上に鎮座しているブッダはなかなかのイケメンだ。そしてその前には、お賽銭箱もちゃっかりと置かれている。少額のコインを投入し、旅の無事を祈る。

持ってきた水を飲みながら、しばしここからの風景とお見合い。


 ジャングルのように縦横無尽に生えているわけではなく、天に向かって一途な眼差しを向けているスリランカの緑。木の生え方にも国民性が反映されるのであろうか。大人しく天からの指示を仰いでいるようにも見える。

 山頂の絶景はなかなかのもの。時間を忘れて滞在していたいが、入り口でトゥクトゥクドライバーを待たせている。軍手をはめなおし、ゆっくりと下山することにした。急な石山で危険というのもあるが、実はここのローズクオーツマウンテン、ローズクオーツが拾い放題なのだ。これを目当てに来る観光客も後を絶たないと言う。

 多くの登山客が踏んで、石が細かくなっている箇所を見つけ、なるべくきれい目な石を20個ぐらい拾った。スリランカ旅中、いろんなお土産を購入したが、この石がお土産として一番喜ばれた。

 山と参道とのちょうど境目には売店があり、ブラックティーなどが飲めたりする。記念に一杯と思ったが、洗い場を見て遠慮することにした。いつ汲んできたか分からない水をバケツに入れ、それで洗っていたからだ。日本人にはきつい衛生管理状態。よそう、旅はまだ始まったばかりだ。

 帰りも森林浴をしながら来た道を戻る。子どもたちのはしゃぐ声が盛んに聞こえる。非常に健康的な声。今の日本ではあまり聞こえなくなった音だ。

 チケット小屋の横でトゥクトゥクドライバーはちゃんと律義に待っていてくれた。途中、飲み物とお菓子を買うために売店に寄ってほしいと伝えると、だまって道端にある売店へ連れて行ってくれ、そして宿まで送り届けてくれた。


 宿に到着したのは17時過ぎ。すぐにシャワーを浴びでお洗濯タイムだ。

 洗濯中、ノックの音がした。

 お宿のご主人が、コーヒーを持ってきてくれたのだ。スリランカは元々、コーヒーが有名なところである。植民地時代、イギリスはまずコーヒーを栽培させたという。セイロンコーヒーは癖がなくて飲みやすい味。ミルクがなくても平気だ。

 ダンブッラはゴールデンテンプル(石窟寺院)以外は何にもない街。スーパーマーケットも中心部にしかない。残念ながら観光客が入れそうなそこそこ小奇麗なレストランも少ない。

 だから夕飯は必ず宿でオーダーしていた。夕飯は350ルピー。日本円にして約270円くらいだが、毎度あほみたいな量が出てきて驚かされた。まず、ご飯だけで4人前ぐらい入っている。カレーは4種類。あと野菜炒めとフルーツの盛り合わせ。あまりにも量が多いからフルーツの盛り合わせは、皿ごと部屋に持って帰り、次の日の朝食に回していた。4日連続でオーダーしたが、何かしら毎回一品は違う料理を入れてくれていたため、飽きることはなかった。

 4泊5日お世話になったこの宿は、非常に細やかな気遣いが行き届いた宿で、期待以上に気分良く過ごせた。しかし一点だけ悩まされたことがあった。

それは夜になるとご主人が廊下で、むせるくらいの線香を焚くこと。

 部屋のドアを閉めても隙間から線香が図々しく侵入してくる。おかげで虫刺されには悩まされなかったものの、毎度マスクをしなければならないほどだった。もちろん、日本から虫よけリングは持参していたから、手首には付けたまま寝ていた。

 部屋はファンのみでエアコンはなかったが、滞在中、充分涼しく過ごすことができた。



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