第7話  シ―ギリアロック

【4日目、シーギリア。見返りのない優しさに感動する。】

             

 大晦日。この日はスリランカを代表する世界遺産である、シ-ギリアロックへ向かった。私は酒を飲んだり夜遊びをしたりする習慣がないので、夕食後はすぐに就寝する。だからどんな国を旅しても、朝は6時頃には必ず目が覚める。

 昨日の夕飯の残りのフルーツを食べて、身支度をしてからお出かけだ。

 前日の夕飯時に宿のご主人から、ともかくシーギリアは昼間だと大変なことになるから朝早くに行きなさいとアドバイスを受けたため、7時に出発した。

 シーギリア行のバスは、宿から一本道を隔てた土系道路にあるバス停に止まる、と言うことで、ご丁寧にご主人が朝、そこまで連れて行ってくれた。もちろんバス停と言ってもスタンドはない。売店が2~3個点在しているだけだ。

 ご主人は朝の仕事があるからと、私をバス停に置いて去って行った。しかし去り際、売店のスタッフに、この人をシーギリア行のバスに乗せて欲しい、とお願いしてくれたのか、私が立っていると、売店のおばちゃんたち家族がぞろぞろ出てきて、バスが来るたびに手を前に出し、一緒になってバスを止めてくれ、これがシ-ギリア行だと教えてくれた。

 この土地の人には、見返り無しの優しさがあった。少なくともダンブッラ滞在中はチップを要求されたり、しつこくモノを売りつけたり等、下品な行為で悩まされたことなど皆無だった。

 ブルーバスに乗車し、前方に着席する。運転手とは別に乗り合わせている車掌に再度行き先を伝える。運賃は40ルピーだと言われ、ちょうど渡すと、日本人か?と笑みを浮かべながらレシートをくれた。大晦日であり、早朝にもかかわらず、バスの中は行き先の分からない者が醸し出す熱気であふれていた。30分ほど乗車した頃、

「シーギリア!」

と車掌のシャウトが車内に響き、私を含む大半の乗客が降りた。どうも、皆ここが目的地だったようだ。

 降ろされたのは、いつも通り砂埃舞う道端。今日は店1つない。どうしようか。

 周囲を見渡すと、一緒に降りたバックパッカーらしき集団が、幹線道路から

左に延びている、またもや土系舗装しかされていない太い道路をてくてく歩いていく姿があった。

「シ―ギリアロックに続いているのか?」

と聞くと、そうだよ!と言う応答が得られた。よし、ついていこう。

 まずシギリアロック入場券を購入しなければならない。

「Are  you  Japanese?」

 集団の一人が、声をかけてきた。そうだよ!と答えると僕たちはイギリスの学生なんだ、と笑顔を向けてきた。長期休みを利用してスリランカに来たそうで、文化三角地帯の観光後は南に下り、サーフィンを楽しんだ後、帰国の途に着くと言う。

 今思えば、お世辞も何割か入っていたのだろう。私がジャージとTシャツスタイルだったから、日本の学生かと聞いてきた。いやいや、社会人だよ、と返すと、やはり職業は?と聞いてきた。

 基本的に職業を聞かれたら、本業である教師と答えないようにしている。以前マレーシアを旅行し、ゲストハウスに宿泊した際に、ノルウェー人の学生さんたちと同室になり、自分は教師をしているんだと正直に言ったら、

「日本の高等教育についてどう思うか?」

「日本の教育システムについて、どう考えているのか?」

など、私の英語力では返答できない質問をぶつけられ、えらい目にあった経験

がある。このエピソードを旅仲間に話した時、

「基本的にヨーロッパ系の人は、思想や宗教観など結構突っ込んだことを聞いてくるから、話しやすいネタを拵えておいて、コミュニケーションを取った方がいい。」

と助言を受けた。それからというもの、正直に職業は答えないようにしてきた。

「ウエブ上でトラベルライターをしているんだ。」

と話すと、『great』やら、分かりやすい単語が飛んできた。

 同じ旅絡みなら、あなたはたまの週末に添乗員もしているのから、そっちを答えても良いじゃないか、と同僚に言われたこともあったのだが、ツアーコンダクターと言う職業がない国もあって、こちらに関しては、職業の説明をするだけで骨が折れた思い出がある。そのためカミングアウトは一度で辞めた。

 トラベルライターは、公表後の質問が単純だし、答えられなかったら、自分が書いている旅行ブログをスマートフォンで見せれば、会話が次につながる。   

この時も、

「今までどこの国を旅してきたの?」

「どこの国が一番良かった?」

など、定番の質問が飛び、良い英語の朝学習になった。

 きっと私が日本人と言うことで、非常に分かりやすい単語を並べてくれたのだ

ろう。親切な学生さんたちだ。彼らと柔らかい会話を交わすこと15分、チケ

ット売り場になっている、シ-ギリア博物館に到着した。


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