第5話  HOTではなく、WARM

 流しのトゥクトゥクに乗り込み向かったのは、ガイドブックに掲載されていた

「P&S」と言うお店だ。ここはスリランカでチェーン展開している店であり、普通の食堂と違って小奇麗な店だからか、非常に観光客が多かった。店員さんも外国人に慣れており英語も通じた。注文したチキンカレーは270ルピー。

 初体験のスリランカのカレー。一口食べてみて、とろみが少ないなとか煮物っぽいなと言うことよりも、温度が気になった。ぬるいというか、冷たいというか。熱々ではなかった。

 私は自分の皿を持ちスタッフに近づき、温めてほしい、と告げた。

 告げたつもりだった。

 伝わっていると思い込んでいた。

「OK~♪」

とスタッフが私の皿を受け取り裏に行く。そして数分後テーブルに持ってきてくれた。

「enjoy~♪」

と言うセリフと微笑みを一緒に置かれた、温めなおされたであろうチキンカレー。

一口食べて、まだ冷たいじゃん~という感想が心の中で生まれた瞬間、私は勢いよく、そのカレーを吐き出してしまっていた。

私の元に返ってきたチキンカレーは異常なくらいに辛くなっていて別物になっていたのだ。

後日談になるが、このエピソードを職場で同僚にしていたとき、英単語がまずかったのではないか?と指摘を受けた。

私は温めてほしかったので、『HOT』という単語を連呼していた。

「いやー、HOTは辛いって意味があるから連呼したらさ、辛くしてよ!という意味になるよ。」

とひとしきり笑われ、しばらくの間、HOTさんというあだ名がついてしまった。

正式に伝えるには

「Could  you  warm  this  up  a  little 

please?」

が正しいという。

 どうでもいいが、私の英語のポンコツさは折り紙付き。本当に大卒か?というレベルの英語を各国で披露し、顰蹙を買ってきた歴史を持っている。

 パリに一人旅で行った際、カップラーメンを食べたかったが部屋にポットがなかったため、フロントに行ってお湯が欲しいと伝えた。すると、バスルームから出るよとの返答しかもらえず、幾度言葉を重ねても埒が明かず、結局シャワーのお湯でカップ 麺を食べたという経験がある。

 この時もHot Waterいう単語を連呼していた。

 正しくはBoiled Waterである。そんな珍事件から数年経つが、今でもカップラーメンを見るたびに、あのほぐれ切れていないまま食べる羽目になった出来事をがフラッシュバックし、一人寒気に襲われている。


 話をスリランカ・ダンブッラのカレー屋に戻そう。ご飯と副菜だけを食べ、食器を返却口に返しに行った時、

「カレーが冷たかったのだが、あんなもんなのか?」

と店員さんに聞いてみた。すると、熱いのはあんまり食べないな、だって外が暑いじゃん、みたいな反応を返された。温度に対して気を使わない人たちなのかもしれないが、やはりカレーは熱い方がおいしいなと率直に思った。その後も何度かスリランカカレーを口にしたが、大体がぬるいか冷たく、宿においても一度も熱いカレーと出会うことはできなかった。


 この日は時間も時間だったから、観光地はローズクオーツマウンテンにだけ向かった。ローズクオーツマウンテンは「世界ふしぎ発見!」と言う番組で特集されてから日本人に人気が出てきたパワースポットである。山全体がローズクォーツ(ピンク色の水晶)で覆われた、世にも不思議な山であり、ローズクオーツマウンテンから運ばれた水晶は、あのインドの世界遺産・タージマハルにも使われたという。愛とやさしさの象徴のパワーストーンで出来た山は実に興味深い。

 ここはダンブッラの中心部から40分ぐらい離れた場所にあり、バスも走っていないため、トゥクトゥクをチャーターすることにした。

 カレー屋の前にはトゥクトゥクが数台たむろしていた。ここからローズクオーツマウンテンへ行き、帰りは宿まで送ってもらわねばならない。

7人くらいのトゥクトゥクドライバーが私を囲む。要望を書いた紙を見せるとその中のリーダー格の男性が交渉人に立候補してきた。いくらでやってくれるのか頑張って交渉するも、チャーター料金で2500ルピーに最終的には落ち着いた。リーダーは日本人経験もあるようで、こんなもんだ、と言う言葉を多用してきた。ちょっと高かったが、遠いから仕方がない。やはり一人旅の場合、トゥクトゥクであってもチャーターは高くつく。

 でもリーダーが私を乗せるわけではない。リーダーはあくまで話をまとめる役に徹していた。私を乗せたのはリーダーに、お前がやれ!と指名された若造だった。スリランカと言う国は仲間意識と言うのが強いのだろうか。そしてこの若造はリーダーに対し、後で手数料を支払うのだろうか。この国では幾度となくトゥクトゥクに乗ったが、このような場面に何度も遭遇した。

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